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97 Chapters

満天の星 番外編 ~兄、大樹。家族の始め方~ SIDE  桃子

5分と待たず、大樹先生はやって来た。 「ごめん、お待たせ」 「いえ」 「行こうか?」 「でも・・・」 私の足は止まったまま。 「ここじゃあ人目につくし、とりあえず乗って。どうしても嫌なら送るだけで帰るから」 そんなこと言われても。 決して無理強いはしないのが大樹先生らしいんだけれど、一体何なのよ。 「気に入らない?」 「いえ」 職員駐車場で長く立ち話をしていれば又噂を広げられてしまう。 ここはおとなしく車に乗るしかなさそう。 車に乗って家に向かいながら、真っ直ぐ前を見る大樹先生の横顔を見つめた。 「話って何ですか?」 「結衣ちゃんのこと」 「結衣?」 「うん」 何で大樹先生が結衣のことを知っているの? 「先生、私の事調べました?」 「はあ?」 怒ったようにチラリとこちらを見る。 「だって、娘がいるとしか言ってないのに」 「ああ」 困ったなって顔。 「実は結衣ちゃんを知ってるんだ」 「はあ?」 今度は私が驚く番。 どうして? 「何で結衣を知っているんですか?」 「たまたま、本当にたまたま知り合って、何度か話したことがあるんだ」 「そんなあ・・」 私には何も言ってなかったし、知らない人についていくような子じゃないはずなのに。 「話したいことは色々あるけれど、とにかく帰ろう。結衣ちゃんも交えて3人できちんと話すべきだと思うから」 これ以上、大樹先生は話す気がないらしい。 きっと私の知らない事実もあるんだろうし、結衣に関わりもあるようだから家に帰ってからきちんと聞くしかない。
last updateLast Updated : 2025-07-30
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満天の星 番外編 ~兄、大樹。家族の始め方~ SIDE  大樹

「本当は結衣ちゃんに自分で話してもらいたかったんだけれど」 大樹先生は一瞬天を仰ぎ、あきらめたように私を見た。 「何ですか?はっきり言ってください」 「うん。僕が結衣ちゃんに始めてあったのは1ヶ月半ほど前。駅前のコンビニの近くで、夜の11時頃だった」 「えー。11時?」 「そう。僕が診ている患者の娘さんと2人でいるところに声をかけたんだ」 「何で、そんな時間まで結衣は・・・」 「1人が寂しくて、近くのコンビニや24時間のドラッグストアに行ってるうちに友達になったらしい」 「そんな・・・」 「別に何か悪いことをしていたわけでもないけれど、さすがに時間が時間だから少し話をしてアパートの前まで送ったんだ。その後も、何度か街で見かけて声をかけた。何度目かに会ったとき、名前とお母さんの勤務先を聞かされて、君の娘だって知った」 「どうしてその時に言ってくれなかったんですか?」 「もちろん近いうちに話すつもりだった。でも、できれば結衣ちゃんの口から話してもらいたかった」 何度か会って、結衣ちゃんがいい子なのはよくわかっている。 ただ寂しくて出かけているだけなのも知っている。 ママが大好きで心配をかけたくないと思った結衣ちゃんの気持ちを彼女にわかって欲しかった。 「私って、母親失格ですね」 目に涙をため、ギリッと奥歯を噛む音。 「そんなことはない。ちょっと頑張りすぎなところはあるけれど、君はいいお母さんだ。結衣ちゃんはいい子に育っているよ。自信を持ちなさい」 う、うぅぅー。 堰を切ったように、彼女が声を上げて泣き出した。 そっと肩を抱きながら、こんな事しかしてやれない自分がもどかしい。 俺はキッチンに向かい、置いてあったカップでコーヒーを入れた。 「勝手にコーヒーを入れたよ。インスタントだけど、温かい飲み物は気持ちが落ち着
last updateLast Updated : 2025-07-31
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満天の星 番外編 ~兄、大樹。家族の始め方~ SIDE  桃子

ボロボロと流れる涙を止めることができない。 この10年間は一体何だったんだろう。 一生懸命に結衣を育ててきたつもりなのに・・・ 私の子育ては最初から間違っていたんだろうか? たとえシングルマザーでも肩身の狭い思いはさせない。私が2人分愛してあげるからと生まれたばかりの結衣を抱きしめたのは、私の独りよがりだったの? 私はいつも、どんなときだって結衣だけを見てきた。 初めて朝まで眠ってくれた日も、リビングのテーブルでつかまり立ちをした日も、初めて歩いた日も、「ママ」って呼んでくれた日も一緒にいた。 夜泣きが酷くて朝までドライブしたことだってあった。 結衣のことは何でも知っていると思っていたのに。 ピコン。 大樹先生からのメール。 『結衣ちゃんを見つけた。無事だから、安心して。もうすぐ帰るから』 はぁー、良かった。 このまま帰ってこなかったらと思うと、生きた気がしなかった。 やっと一息つき、冷めてしまったコーヒーを口に運んだ。 「苦っ」 普段からブラックを飲むのに、今日のコーヒーは苦い。 まるで今の気持ちみたい。 冷めてしまったコーヒーを一気に流し込み、溢れてしまった涙を綺麗に拭いた。 私は母親なんだから、結衣の前で泣き顔は見せられない。
last updateLast Updated : 2025-08-01
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満天の星 番外編 ~兄、大樹。家族の始め方~ SIDE  大樹

ガチャ。 玄関を開け、まず俺が先に入った。 結衣ちゃんは、ドアの前を動こうとはしない。 「ほら、入って」 少し強引に、手を引いた。 ここまで連れてくるのに、結構苦労した。 「ママに会えない」と泣き出す結衣ちゃんを「このまま逃げても何の解決にもならないよ。僕が一緒に行くから、帰ろう」となだめすかしながら連れ帰ってきた。 「結衣っ」 玄関まで駆けよった彼女が、強い口調で名前を呼んだ。 それでも、結衣ちゃんは動かない。 靴も履くことなく、俺を押しのけて部屋の外に出た彼女は 「いつまでそんな所にいるの。早く入りなさいっ」 ギュッと腕を引っ張って、結衣ちゃんを部屋の中に入れた。 「今何時だと思ってるの。小学生が出歩く時間じゃないでしょう」 いつもの冷静な彼女からは想像できない取り乱しようだ。 「結衣はいつからそんなに悪い子になったの」 「そんなに一方的に言うなって」 つい口を挟んでしまった。 「先生は黙っていて。結衣をこんな子にしたのは私の責任なんだから」 「こんな子って、結衣ちゃんはいい子だよ」 「小学生のくせに夜中まで遊び歩いて、どこがいい子なのよ」 話している間に興奮してきたのか、彼女が結衣ちゃんに手を振り上げた。 「オイ、やめろ」 とっさに振り上げられた手をつかむ。 「いい加減にしろ。さっき言っただろう。まずは結衣ちゃんの話を聞け。その上で違うところがあれば言えばいいだろう。お前みたいに一方的にまくし立てたんじゃあ会話にならないじゃないか。冷静になれ」 叱りつけてしまった。 うわぁー。 泣き出す結衣ちゃん。 座り込む彼女。 俺もその場に立ち尽くした。
last updateLast Updated : 2025-08-02
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満天の星 番外編 ~兄、大樹。家族の始め方~ SIDE  大樹 ①

翌朝。 いつもより早く目が覚めてしまった。 リビングのフローリングは思いの外堅くて、昨夜はなかなか寝付けなかった。 午前6時。 彼女、イヤもういいだろう。 こうしてアパートに泊めるくらいに心を許しているんだ、桃子って呼んでも問題ないはずだ。 桃子も結衣ちゃんもまだ目覚める様子はない。 昨日の夜は遅くまで起きていたんだから仕方ないか。 そういえば、今日仕事になったって言っていたな。 結衣ちゃんに話すって言っていたのに、きっと話せてないだろう。 昨日の晩は色々あったから。 さて、コーヒーでももらおうか。 うぅーん。と伸びをして立ち上がると、肩と腰が重い。 まいったなあ。 こんな事なら、狭くてもソファーで眠るんだった。 「痛て」 キッチンへ向かいながらつい口をついてでた。 まるでじじいだな。 アパートらしくコンパクトにまとめられたキッチン。 広くはないが良く整理されている。 昨日も遅かったはずなのに、鍋も食器も綺麗に片づけられていて、予約タイマーがセットされていた炊飯器が湯気を出している。 いかにも、手を抜かない桃子らしい。 その時、 「先生?」 背後から声がした。 「おはよう」 「おはようございます。姿が見えないから、帰ったのかと思いました」 普段病院で見せるより少しだけ穏やかな表情。 「目が覚めたから、コーヒーでももらおうかと思って」 「いれましょうか?」 パジャマ姿でスッピンのまま、キッチンに入ってくる。 「いいよ。今日は仕事
last updateLast Updated : 2025-08-03
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満天の星 番外編 ~兄、大樹。家族の始め方~ SIDE  大樹 ②

10時を回ってようやく結衣ちゃんが部屋から出てきた。 「おはよう」 「・・・」 「ママ、心配そうにお仕事に出かけたぞ」 「・・・」 「ご飯食べる?」 「・・・」 返事はしないつもりらしい。 それでも、結衣ちゃんのために味噌汁は温め、ご飯もよそった。 「結衣ちゃん、ご飯食べちゃって」 「・・・」 やはり返事はせず、不機嫌そうに席に着いた。 「いただきます」 「はい」 どんなに怒っていても、きちんと「いただきます」が言えるのは桃子の躾のお陰かもしれない。 なんだかんだ言って、結衣ちゃんはいい子だ。 「ママに告げ口したの?」 「え?」 「だって」 ああ、俺が桃子に話したことを怒っている訳か。 「本当は結衣ちゃんから話してもらうつもりだったんだ。でも、昨日の夜家に結衣ちゃんがいなくてママがすごく心配したから、黙っていられなかった」 「嘘」 「え?」 「ママは結衣よりお仕事が大事なのに」 はあ? 「そんなことないよ。ママは結衣ちゃんが何よりも大事なんだ。昨日の夜、ちゃんと話しただろう?」 「でも、又お仕事に行ったじゃない。今日は映画に行く約束だったのに。ママなんて・・・嫌い」 「結衣ちゃんっ」 思わず語気を強めた。 結衣ちゃんだって、ママが仕事を頑張っているのはわかってくれたはずだ。 きっと、楽しみにしていた映画がダメになって機嫌が悪いだけ。 こうしてわがままを言ってくれるのは、打ち解けた証拠。 理解はしているんだが・・・ カチャカチャと音をたて、玉子で遊びだした結衣ちゃん。 あまり食欲がないようだ。
last updateLast Updated : 2025-08-04
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満天の星 番外編 ~兄、大樹。家族の始め方~ SIDE  大樹 ③

まだ桃子とデートもしたことがないのに、1日結衣ちゃんと過ごした。 行きたかったというパーラーでフルーツパフェを食べ、本屋や洋服屋を周り、スーパーに寄った。 「夕食、何にしようか?」 「うーん」 俺も結衣ちゃんもそんなに料理が得意なわけではない。 できれば、桃子が帰ったときには食事の用意ができているようにしたい。 なおかつ、俺も桃子も結衣ちゃんも好きなメニュー。 結構ハードルの高い難題に、頭を悩ませた。 「そうだ、お鍋にしようか?」 考えてみれば、今は冬ではない。 でも、いいじゃないか。 冷房を効かせてでも、今夜は鍋が食べたい 桃子は鶏肉が好きらしいし、結衣ちゃんの希望はソーセージ。 俺は・・・魚貝が食べたい。 豆腐、白菜、キノコに、〆のうどん。 そういえば寄せ鍋ってどうやって作るんだ? 「結衣ちゃん寄せ鍋作ったことある?」 「えー、大樹先生はないの?」 「うーん、ないなあ」 家は母さんが台所を仕切っていたし、父さんや俺が台所に入ることなんてないし。 「大丈夫、スマフォで検索すればすぐにわかるから」 はあー、今時の子だなあ。 アパートに帰り、桃子の帰宅に会わせて準備を始めた。 結衣ちゃんはとっても手際が良くて、どちらかというと俺の方が使われている気がする。 「もうすぐ帰って来るね」 「ああ。食器と箸持って行った?」 「うん。ゆず胡椒もね」 ゆず胡椒? 「随分大人な物が好きなんだな」 「違う、ママが使うの。結衣は辛いの食べられないから」 「フーン」 子供がいればそうなるのか。 「ただいまー」 「「お帰り」」
last updateLast Updated : 2025-08-05
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