通されたのは、樹里亜と高橋渚の暮らすマンション。「どうぞ」玄関を開ける態度にも腹が立ち足が止まった。「人目がありますから、中に入ってください」エントランスでの騒ぎを聞きつけた住人がチラチラとこちらを見ているのに気づき、俺も部屋へと入ることにした。「座ってください」部屋に入ると、今度はソファーをすすめるこの男は、何でこんなに落ち着いているんだ。「いつからここに住んでるんだ?」「3年前からです」「一体いつから付き合っているんだ」幾分怒気を含んで、俺は睨んだ。「研修医になった頃から同居をしています」そう言うと、彼はゆっくりと床に膝をつき両手をついた。「今まで、黙っていてすみませんでした」深々と頭を下げる高橋渚。土下座って・・・「止めろ。そんなことされたら、俺が悪者みたいだ」本当はもっともっと言いたいことがあるはずなのに、彼を見ていると言えなくなってしまう。それはきっと、彼の潔い態度のせいだと思う。逃げようとも、誤魔化そうとませず、言い訳もしない。俺の知っている高橋渚はそんな人間だ。「で、樹里亜と何があったんだ?」「何と言われても、僕にも心当たりがないんです」「そんなわけないだろう。じゃあ、樹里亜はどこに行ったんだ」「・・・」高橋渚は黙り込んだ。樹里亜がひとり暮らしを始めて以来、「ちゃんとやっているから、放っておいて」というのを信じてここには来なかった。こんなことなら、押しかけてでも来ればよかった。まさか、男と同棲していたなんて・・・「カルテは見られたんですか?」「いや、ダメだった。お前こそ、本当に心当たりはないのか?」「俺にはありません。竹浦先生こそ」「大樹でいいよ。名字で呼ぶな」「じゃあ、大樹先生。樹里亜の行き先に心当たりはないんですか?」「お前が分からないのに、俺が知っていたらおかし
Terakhir Diperbarui : 2025-05-31 Baca selengkapnya