それを聞いて、妊婦はようやく安心した。綾は病室の入口に立ち、ベッドに横たわっている妊婦を見ていた。彼女の瞳の奥に沈んでいた深い闇が、少しずつ薄れていくようだった。そして彼女は自分の病室に戻っていた。輝は、彼女が服を取り、洗面所に向かうのを見て、何が何だか分からなかった。「どうしたんだ?」綾は立ち止まり、振り返って輝を見て、優しく微笑んだ。「着替えて、退院します」輝は一瞬呆然とし、切の長い綺麗な目が大きく見開かれた。「え、つまり君は......」綾は唇を曲げ、穏やかながらも毅然とした声で言った。「手術はしないことにしました」「し、しないのか?」輝は驚いたが、同時に彼女のために喜んでいた。「本当にしないのか?」「ええ」綾は言った。「お腹の子供たちの存在を知ってから、ずっと諦めようとしていまして、今日を含めて、3回も手術を予定していましたがすべて行えずじまいでした。それに、北城のような都会で、急に地震が起きるのは本当に珍しいってみんなが言っていますし、もしかしたら、子供たちが母親である私から離れたくなくって、神様も味方してあげているのかもしれません」この世には、科学では説明できないことがたくさんあるものだ。輝は運命とかを信じるタイプではなかった。だが今、彼は、この二人の子供が綾の心の支えとなり、孤独に蝕まれかけていた彼女の心を癒してくれていることだけは確信できるのだ。二人の子供のおかげで、これから彼女の人生もきっともっと生き生きとしていくだろう。これこそが、もしかしたら命の存在する意味なのかもしれない。「私はこの子たちを産みます。彼らは私だけの子供で、誠也とは関係ありません」綾はお腹を撫でながら言った。「でも、誠也に子供たちの存在を知られたら、奪われてしまうかもしれません。ですから、もう少しご協力いただけませんか?」「任せろ!」輝は彼女を見て、眉を上げた。「私は子供たちの名付け親だぞ!この私が守ってやる。あのクズみたいな父親には、絶対に奪わせるもんか!」それを聞いて、綾は安心して浴室に入った。彼女が着替えて出てきた時には、星羅は仕事が終わって戻ってきていた。輝も、綾が子供を産むと決めたことを、すでに星羅に伝えていた。星羅は当然喜んだ。彼女は綾の手を取り、「名付け親なら、私もなりたいな。私も
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