All Chapters of 碓氷先生、奥様はもう戻らないと: Chapter 851 - Chapter 860

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第851話

「違うよ」輝は即答した。「考えもしないで即答するなんて怪しすぎる」それを聞いて輝は何も言えなかった。「中島さんはいい人だよ。サバサバしてるし、よく突拍子のないことを言うけど、本気じゃないから。軽い女でもない。だから上辺だけで判断しちゃダメよ」「とにかく、私たちには無理なんだ」綾は眉をひそめた。「まさか、彼女の身分や職業が気になるの?」「そもそも彼女はまともな一般人とも言えないほど立場が少し敏感じゃないか。うちの事情も知ってるだろ?」正直言って綾は、そこまで考えていなかった。もし、そういう事情なら二人が付き合うのは本当に難しいかもしれない。輝は一人っ子で兄弟姉妹もいないわけだし、由緒ある家系だからこそ伝承が何よりも重要なんだろう。輝の恋愛は、彼だけの問題じゃないんだ。「祖父も両親も理解のある人で、普通なら結婚相手に注文をつけるようなことはしない。でも、だからといって、好き勝手できるわけじゃない。家柄が釣り合う相手じゃなくても、中島みたいな女はダメなんだ」音々の背景は複雑すぎる。「ごめん、配慮が足りなかった」「謝らないで」綾は輝を見つめ、唇を噛み締めてから、さらに言った。「でも、そんなに深く考えているってことは、もしかして、中島さんに惹かれていたこともあるってことじゃないの?ただ、彼女の立場を気にして一歩踏み出せないだけで」そう言われ、輝はきょとんとした顔になった。綾は輝の目を見つめた。「恋は理屈じゃないのよ。それに、あなたは女の子に手を出すような人じゃないでしょ。それから中島さんから聞いたけど、あなたから彼女にキスしたこともあるそうじゃない......」「ぶっ――」ちょうど水を飲んでいた輝は思わず吹き出し、激しく咳き込んだ。「げほっ、げほっ!」彼は慌ててティッシュで口を拭きながらこう言った。「一体、彼女は何を言ったんだ?」「あなたが強引にキスをしたあと、連絡を絶ったって言ってたわよ」輝は何も言えなかった。綾は唇を噛み締め、ため息をついた。「もし、彼女と付き合う気がないなら、あんなことしちゃダメだよ。中島さんは勘違いするでしょうし、私だって誤解をするところだったじゃない」それを聞いて、輝は恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたい気分だった。「あの時はカッとなってたんだ..
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第852話

「あいつを弟のように思っているのは分かっているが、弟と食事に行くのに、俺という義理の兄を誘わないのは少しよそよそしくないか?」誠也は軽くため息をついた。低くて魅力的な美声なのに、どこか皮肉っぽく聞こえる。綾は困ったように彼を一瞥し、こう言った。「彼には大事な話があったの」「俺に聞かせられない話ってなんだ?」「中島さんとあなたは知り合いで、関係も悪くないでしょ。あなたと一緒だったら、岡崎さんは絶対に本音を話してくれないよ」誠也は眉を上げて、尋ねた。「つまり、昼間は彼らの間を取り持とうと食事に行ったのか?」「まあね」綾はため息をついた。「でも、結果はあまり良くなかった。中島さんの恋は実らないかもしれない」それを聞いて、誠也は体を横向きにして、片方の手で頭を支え、もう片方の手で綾の柔らかい耳たぶを優しくつまんだ。彼は最近、彼女の耳たぶを弄るのが好きだった。特に昼休みによくそうしていた。彼は本当に自分の耳たぶがお気に入りなんだなと綾は思った。誠也は言った。「でも、男の立場から見ると、輝は音々に気があるように思うんだが?」「私もそう思うからこそ、二人きりにさせる機会を増やそうとしたんだけど。でも、今日彼と話してみて、二人は......」綾はため息をついた。「中島さんの立場は複雑でしょ......岡崎家は岡崎さんしか子供がいないから、それを考えると二人は難しいでしょうね......」「なるほどな」誠也は言った。「全体的な状況を考えると、確かにあの二人は合わない」「だから岡崎さんは、どうせ上手くいかないなら、最初から付き合わない方がいいと考えたのよ」「その通りだ」誠也は綾の唇にキスをし、低い声で言った。「結果が出ないなら、最初から始めない方がいい。でないと、情が湧いたら却ってもっと辛くなる。二人にとっても良くないだろう」そう話しつつ、綾は眉をひそめ、彼の落ち着きのない手を押さえた。「もう、寝るから!」「じゃ、おやすみ」誠也は彼女の唇にキスをした。「俺が寝かしつけてやろうか?」綾はドキッとした。「寝かしつける」とはどういう意味をすぐに理解した。だから、彼女はすかさず言った。「結構よ。少し眠るだけだから。明日は地方に行くし、午後は会議もあるから......」「何もするつもりはない。ただ、リラックスさせて、よく
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第853話

「一旦会社に戻らないといけないから、午後また迎えに来るよ」綾は頷いた。「うん」誠也を見送った後、綾は身支度を整え、会議へと向かった。会議が終わったのは、午後3時を過ぎていた。綾が会議室から出て行くと、背後から恒に声をかけられた。「二宮社長」綾は足を止め、振り返った。恒が近づいてきて言った。「小林さんの件で、ご報告があります」「私のオフィスに来て」......オフィスに入ると、恒はドアを閉め、振り返った。「座って」綾はソファに座り、恒にも座るように促した。恒は頷き、綾の向かい側に座った。「小林さんに何かあったの?」恒は軽く咳払いをしてから言った。「彼女は、この前、契約解除をしたいって言ってて......」「契約解除?」綾は眉をひそめた。「何か理由は言ってたの?」「独立したいそうです」恒はため息をついた。「どうやら後ろ盾を見つけたようですね。違約金は払うと言っていますし、こっちが上乗せを要求しても応じるから、ただ、穏便に済ませたいと言っていました」杏はこの街の出身ではなく、地方の小さな町の普通の家庭の出身で、弟がいる。そういう地域では、女性出世は難しいのだ。だから、輝星エンターテイメントのバックアップがなければ、今の彼女が成し遂げられなかったと言っても過言ではないだろう。突然の契約解除の申し出、考えられる理由は一つだけだ。スポンサーを見つけたんだ。しかし、一体どんなスポンサーが、そんな大金を出せるというのだろうか?杏が当時サインしたのは、人気俳優や女優に次ぐA級契約だ。違約金は、彼女にとって途方もない金額になる。「最近の撮影現場での彼女の態度はどうだった?」綾は尋ねた。「態度は良好でした。ただ、彼女の役はそれほど出番が多くなく、先週、撮影は終わっています。残りのシーンは、雪が降ったら追加撮影をする予定です」綾は唇を噛み締め、少し考えた後、言った。「小林さんに伝えて、契約解除をしたいなら、私と直接話をするように」「分かりました。彼女に連絡し、具体的な日取りが決まったらまたご報告します」「ええ」恒はオフィスを出てすぐに杏に電話をかけた。すると、相手はすぐに電話に出た。「契約解除の件は二宮社長に伝えました。社長は、直々話をしたいと言っています」「分かりま
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第854話

大輝は自分の眉間をつまんで言った。「ちゃんと分かっています。友達のよしみで、頼むから小林さんとの契約を穏便に解除してくれませんか。違約金は私が払いますので」「なぜ急にそこまでして、彼女の肩をもつようになったんですか?石川さん、以前小林さんがあなたに色仕掛けしたことを鼻であしらったじゃない……まさか、前は相手にしなかったくせに、今になって結婚したからってスリルを求めるようになったんですか?」「結婚してるかどうかと、この件は何の関係もないでしょう?」大輝は不機嫌そうに言った。「私はただ彼女を助けてるだけで、あなたが考えてるような関係ではありません!」「数十億円もの金をポンと出せるなんて、パトロンと愛人じゃないなら、随分と気前がいいですね」綾は大輝を見て言った。「愛人じゃないなら、何か弱みを握られていますか?」大輝の目に一瞬、動揺の色が浮かんだ。彼は大きくため息をついた。「これは私の個人的な問題です。たとえ友達でも、いちいち説明する必要はないはずだ」「それはもちろんです。仮に私があなたと友達だったとしても、普通の友達に過ぎません。あなたの私生活に口を出す権利はありませんから」そう言いながら、綾は冷たく笑った。「でも、石川さん、輝星エンターテイメントの株主の1人として、そのやり方は筋が通ってると思ってるんですか?輝星は小林さんを売り出すために、この2年間、我々がどれだけの資金と能力を投入したか分かってますか?今、彼女は人気絶頂で、商業的価値も上がってきてます。こんな時に、どうして契約解除に応じなきゃいけないんですか?」「この件は小林さんが悪いってことは分かってます」大輝は綾を見て、強い口調で言った。「それでも、彼女の頼みは聞いてあげようと思ってます」「石川社長の決意はよく分かりました」綾はもう無駄な話はしたくなかった。深く息を吸い込んで気持ちを落ち着かせると、冷たく言った。「もしこのまま小林さんを肩を持つというのなら、違約金は不要です。その代わり、こちらが輝星の株を買い戻す形で返してもらえますか?」大輝は頷いた。「実は私もそうするつもりでした。輝星の株主として、今回のことは本当に申し訳なく思っているので、株はあなたに返します。以前、あなたの好意で400億円という破格の値で譲渡してもらった5%の株ですが、これを小林さんの違約金に充て
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第855話

南区の工事現場。真奈美はフラットシューズに履き替え、ヘルメットを被って、車のドアを開けて降りた。現場責任者の井上部長が彼女を出迎えた。「新井社長」真奈美は彼を軽く一瞥して言った。「案内してください」この日気温は高く、太陽が容赦なく照りつけていた。真奈美と霞は井上部長と共に、工事現場を回った。数カ所見て回るうちに、全員汗だくになっていた。真奈美はいくつか問題点を見つけた。どれも深刻なものではなく、些細なことだったが彼女は見逃さなかった。彼女は厳しい目を光らせていたので、部長に現場監督を呼ぶように指示した。そして、設計図を広げ、エンジニアや現場監督と、細かい点まで一つ一つ確認していった。炎天下の中、真奈美の頬は真っ赤に日焼けし、額からは大粒の汗が流れていた。屈強な男たちでさえ、彼女の姿を見て感嘆した。さすが北城のビジネス界代表的な剛腕「キャリアウーマン」だ。こんな悪天候の中、女性である真奈美だけでなく、現場で働く屈強な男たちでさえ、ぐったりしてしまうのに、彼女は高い集中力を維持して仕事を続けているのだ。しかも、専門的な知識も豊富で、その的確な指摘には、エンジニアと現場監督ですら感服するほどだった。少しでも気を抜いたら、彼女に見逃してもらえないだろう。視察を終え、車に戻ると、真奈美はヘルメットを外し、霞から渡された濡れタオルで顔と首を拭いた。冷房の効いた車内で、彼女は大きく息を吐き、ミネラルウォーターのボトルを開けた。「現場作業員に猛暑手当を支給するように伝えて。支給期間は6月から8月までで、あなたが直接進めて、それから支給したら振込明細の記録も取っておいて」霞は汗を拭きながら答えた。「かしこまりました。会社に戻り次第、すぐに手配します」「ええ」真奈美はボトルの半分ほどを飲み干し、シートに体を預けて目を閉じた。「今日は運転手を連れてくるべきだったわね。あなたも疲れたでしょ」「私は大丈夫です。それより、新井社長、具合が悪そうですね?」「まだ体が完全に回復していないのかも。日に当たると、ぐったりしてしまうの」真奈美は目を閉じたまま、ふらふらする頭を抑えて言った。「光風苑まで送ってちょうだい」霞は彼女の顔色が悪いことを見て、すぐに光風苑へ向けて車を走らせた。40分後、霞の運転する車は光風苑に
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第856話

こんなに熱があるのに、意識を失うのも当然だろう?大輝は眉間にシワを寄せ、霞を見て言った。「俺がちゃんと見てるから、もう帰っていいぞ」霞は頷いた。「分かりました」大輝は真奈美を抱きかかえて家の中に入った。霞は視線を戻し、車に乗り込んだ。ハンドルを握りながら、彼女は独り言ちた。「石川社長は、意外と良い人そうね。新井社長にも、やっと温かい家庭が手に入るのかしら」......2階の寝室で、大輝は真奈美をベッドに寝かせた。真奈美は眉をひそめ、無意識に呟いた。「水、欲しい......」大輝はネクタイを引きちぎり、襟のボタンを外しながら、かかりつけの医者に電話をかけた。そして電話を切ると、真奈美が水を欲しがっているのを聞いて、彼は1階へ降りて、水を注いでもどってきた。真奈美は高熱で朦朧としており、大輝が何をしても目を覚まさなかった。仕方なく、彼は彼女の頭を支えながら、コップを口元に運んであげた。だが、石川家の御曹司である大輝が、人の世話をしたことがあるはずもないのだ。だから、真奈美に飲ませていた水は半分しか飲ませることができず、あとの半分はこぼれたのだ。すると、枕と、彼女の胸元の服が濡れてしまった。濡れた服が肌に張り付いて気持ち悪かったのだろう。真奈美は無意識に服を引っ張り、胸元が大きく開いてしまった......それを見た大輝の瞳は暗くなり、喉仏が動いた。真奈美のスタイルは抜群で、肌は白く滑らかだった。細い腰に長い脚、胸も大きすぎず小さすぎず、理想的な体型だった。「ちくしょう!」大輝は舌打ちし、コップをナイトテーブルに置いた。「真奈美、あなたは俺を困らせるためにいるのか!」大輝は歯を食いしばりながらも、クローゼットへ行き、夏用のキャミソールワンピースを探した。しかし、クローゼットの入口まで来ると、彼は立ち止まり、手の中のワンピースを見下ろした。頭の中に、あるイメージが浮かんだ。もうすぐかかりつけの医者が来ることを思い出し、彼は顔を曇らせ、クローゼットに戻った。結局、大輝は春用の長袖パジャマを選び、真奈美に着替えさせた。着替えが終わって数分後、主治医が到着した。大輝は自ら1階まで迎えに行ったが、相手を見て眉をひそめ、露骨に嫌悪感を示した。「なんだ、あなたか」救急箱を持った
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第857話

大輝は軽く頷きながら言った。「俺と真奈美が結婚したって話は聞いたか?」裕也は落ち着いた口調で言った。「あなたの両親から聞いたんだ。結婚したなら、真奈美さんを大切にしてあげなよ」それを聞いて、大輝は静かに笑い、寝室のドアを開けた。「まっ、入ってくれ」裕也は返事をし、大輝の後について寝室に入った。暖色系のインテリアでまとめられた部屋は、新婚夫婦らしい温かい雰囲気に包まれていた。裕也は軽く部屋を見渡した後、ベッドに目を向けた。真奈美はずっと昏睡状態だった。大輝はベッドの傍らまで行き、真奈美の額に手を当てた。「まだ熱が高いな。解熱剤を飲ませたんだが、あまり効いてないみたいだ」「ちょっと見せて」裕也は近づいてきて、救急箱をナイトテーブルに置いた。「体温は測った?」大輝は首を横に振った。「いいえ。こんなに熱いんだから、測っても意味ないでだろう」「熱の原因が何なのか、まだ分からない。まずは体温を測ろう」裕也はマスクをし、さらに滅菌手袋をつけた。そして準備が整うと、体温計を取り出した。昏睡している真奈美を見て、裕也は大輝に体温計を渡した。「脇の下に挟んであげて」大輝は体温計を受け取った。裕也は紳士的に背を向けた。医師にとって、患者の性別は関係ない。しかし、大輝がいる手前、一応配慮しておいた方がいいだろう、と裕也は考えた。大輝は真奈美の脇に体温計を挟み、動かないように腕を抑えた。5分が過ぎた。裕也は尋ねた。「いつから具合が悪くなったんだ?」「秘書によると、今日は工事現場に行ってたらしい。恐らく熱中症だろう」裕也は眉をひそめた。「こんな暑い日に工事現場へ?」「おかしいと思わないか?」大輝は冷たく言い放った。「彼女はいつも無理をする。もともと体が弱いのに、専業主婦になればいいと言ってるのに、聞きやしない」裕也は眉をひそめた。「真奈美さんは、専業主婦で満足するような女性ではない。今後、そんなことは言わない方がいい」大輝は眉をひそめて、裕也を見た。「なんだ?彼女のことよくわかってるみたいじゃないか?」裕也は唇を噛みしめ、しばらくしてから言った。「そうじゃないけど、ただ勲がよく彼女の話をしていたんだ。芯の強い女性だと。しかし、あなたを好きだということだけには、少し頑なになりすぎているようだとも言
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第858話

しかし、みんなが帰ると大輝は杏から電話を受けた。電話の中で、杏が何かを言った途端、大輝の顔色が変わった。「落ち着いてくれ。今すぐ行く」電話を切ると、大輝はすぐにその場所を去った。もちろん、帰る前にナースステーションに立ち寄り、急用ができたため、真奈美のことはよろしく頼むと看護師に伝えた。大輝が去ってまもなく、裕也が回診に来た。病室のドアを開けると、大輝の姿はなかった。真奈美は一人で静かにベッドに横たわっていた。顔色は蒼白で、8年前より痩せて見えた。裕也はベッドの傍らでしばらく彼女を見つめ、そして病室を出て行った。彼はナースステーションに行き、事情を聴くと、大輝が真奈美を置いて行ってしまったことを知った。裕也は眉をひそめたが、何も言わずに病室に戻った。その晩、裕也は家に帰らず、真奈美の病室で付き添った。夜中、真奈美は寝言に魘されて、喉が渇いたと言い、彼女の兄の名を呼んでいた。彼女は目を覚ますことはなかった。おそらく、夢の中で辛いことがあったのだろう。目尻には涙が浮かんでいた。裕也はティッシュで真奈美の涙を拭った。っして水を少しずつ飲ませた。真奈美が泣きながら兄を呼ぶとき、裕也は手を握り、記憶の中の彼女の兄・新井聡(あらい さとし)の様子を真似て、優しく頭を撫でた。「真奈美、いい子だ。お兄さんはここにいる」真奈美は裕也の手をぎゅっと握りしめた。「お兄さん、もう疲れたよ。帰ってきて。お願い、帰ってきて......」裕也はベッドの上でうわごとを言う彼女を見て、胸の痛みを抑えることができなかった。かつて、彼らほぼ同じような家柄の子供たちは、ほとんどが同じ学校に通っていた。裕也と勲は幼い頃から親しく、勲は聡とも仲が良かった。そして、よく一緒に遊んでいたことから、自然と裕也と聡も知り合うようになった。真奈美は彼らより2学年下で、後輩だった。彼女はよく聡に会いに行っていて、そこで勲と知り合い、その後、勲を通じて大輝と知り合った。当時の大輝は少しボンボン気質で、態度も高慢だったので、聡はあまり彼を好かなかった。しかし、真奈美が大輝に一目惚れしたことで、毎日彼の後を追いかけるようになった。このことで、聡は一度真奈美を転校させようかとさえ考えたこともあったが、結局、彼女の癇癪に負けて諦めた
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第859話

翌朝の7時。裕也に握られた真奈美の手を少し動いた。ベッドの脇にいた裕也は、ハッとして目を覚ますと、すぐに手を離した。すると真奈美のまつげが震わせながら、ゆっくりと目を開けた。彼女は徐々に意識を取り戻したのだ。すると裕也は尋ねた。「目が覚めたか。気分はどうだ?」真奈美は裕也を見つめていた。目が覚めたばかりで、思考はまだ少しぼんやりとしている。しばらく裕也を見つめた後、眉をひそめて尋ねた。「裕也さん?」裕也は笑った。「俺もそんなに変わってないみたいだな。まだ覚えていてくれてたなんて」「いつ国内に戻ってきたの?」真奈美は辺りを見回し、再び裕也を見た。「それに、どうして私がここにいるの?」「昨日、あなたは工事現場で無理をしたせいで、家に帰った後、高熱を出したようだ......」裕也は昨日の出来事を真奈美にありのまま説明した。話を聞き終えた真奈美は、自分の額に手を当てた。「今はもう大丈夫みたい」「すぐに病院に運べたおかげだ。あと二三日入院して様子を見て、他に症状がなければ退院できるさ」真奈美は頷き、さらに尋ねた。「昨日はずっとここにいてくれたの?」「本来は様子を見に来ただけだったんだが......」裕也は少し躊躇してから言った。「大輝さんに急用ができてしまってな。代わりに俺があなたを見ていてくれって頼まれたんだ」それを聞いて、真奈美は何も言わずに微笑んだ。大輝と裕也は、昔からあまり相性が良くなかった。大輝の性格からして、誰かに自分の代わりに彼女の面倒を見てもらうにしても、裕也を選ぶはずがなかった。考えられる理由は一つだけだ。大輝は彼女を置いて行ってしまい、裕也が自ら残って看病してくれたのだ。真奈美と裕也はそれほど親しいわけではなかった。逆に勲と聡の方彼と親しかったのだ。裕也が自分に優しくしてくれるのは、きっと二人のためなのだろう、と真奈美は理解していた。そう思いつつ真奈美は、裕也が気遣った言い訳に敢えて突っ込まなかった。そもそも、裕也がそんなことを言うのは、自分と大輝の本当の夫婦関係を知らないからだ。いくらなんでも、他人に夫婦仲のことは話せないのだ。そう思って真奈美は話題を変えた。「今回戻ってから、また海外に行く?」「もう行かないよ」裕也は優しく微笑んだ。「父も歳をとっ
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第860話

真奈美は頷いた。「ええ、気を付けるよ。裕也さん、今日は本当にありがとう」裕也は彼女に優しく微笑みかけた。「友達じゃないか、当然のことだよ」大輝は二人を見て、鼻で笑った。しかし、裕也は嫌味たらたらの大輝に構うことなかった。彼は大輝に軽く会釈すると、病室を出て行った。大輝は病室のドアを閉めて、ベッドの傍まで行き、真奈美の額に手を当てた。「熱が下がったな」手を離し、ベッドの側の椅子に座って、彼女の痩せこけた顔を見ながら、眉をひそめた。「一体何があったんだ?社長ともあろう者が、わざわざ現場に行く必要があるのか?行くにしても、もう少し天候のいい日に行けばいいだろう。真奈美、女は意地を張りすぎると、苦労するだけだぞ」それを聞いて真奈美は軽く眉をひそめた。大輝の言葉のせいではなく、彼の体に女の香水の香りがしたせいだ。彼女は言った。「裕也さんが、あなたは昨夜急用で出かけたって言ってたけど」大輝は答えず、眉を上げて聞き返した。「彼は昨夜からここに来ていたのか?」真奈美は呆れて、思わず笑ってしまった。どうやら、大輝は昨夜早くに出て行ったようだ。自分が病気なのに、夫はいわゆる急用で自分を病院に置き去りにしたのだ。付き添いの人を手配することさえなかった。そして、翌日には、女の香水を匂わせながら現れ、開口一番説教してくるとは。真奈美は、以前あんなに大輝に夢中だった自分が馬鹿みたいだと思った。「大輝、昨夜どこに行ってたの?」「ちょっとした用事を片付けていただけだ」大輝は眉間を押さえ、この話題から逃げようとして、話をそらした。「あなたの体は弱すぎる。しばらく仕事を休んで、家で療養したほうがいい」「嫌よ」真奈美はきっぱりと断った。「大輝、この話はもうしたくない。体のことは自分で何とかする。でも、もしあなたが私の体を心配するふりをして、仕事に口出しするなら、この結婚生活を続けるべきかどうか、真剣に考えなければならないわね」それを聞いて、大輝の顔色が曇った。「真奈美、離婚したいとでも言いたいのか?」「愛情がない夫婦でも、最低限の尊重は必要よ」真奈美は彼の目をまっすぐ見つめた。「大輝、私たちが結婚して以来、あなたは私を尊重してくれたことがある?」「尊重してないだと?」大輝は怒って立ち上がった。「俺があなたを尊重してな
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