ある日の夜、佳奈が真剣な表情で俺に切り出してきた。「啓介、料理のことで少し話があるんだけど」てっきり何かトラブルでもあったのかと思い、俺は身構えた。しかし、佳奈の口から出たのは全く予想外の言葉だった。「料理はね、基本は美味しいケータリングをお願いするんだけど、それだけじゃ面白くないでしょ? だから、当日、会場に出張シェフを呼ぶのはどうかな?」「出張シェフ? そんなことまで考えていたのか。」「シェフには、その場で調理してもらうようにお願いする予定。手配しているの。例えば、目の前で大きな肉の塊をローストして切り分けてもらったり、旬の魚介類をその場で焼いてもらったり。熱々の出来立てが食べられるし調理の様子を見るのも楽しいアトラクションになるから」佳奈は楽しそうに説明を続けた。「お母様が言う『手作り』とは違うけれど、プロの技が目の前で作り出すという意味では、それに匹敵する価値があると思うの。これなら見た目も豪華だし出来立ての美味しい料理を提供できる。創立パーティーにもふさわしい華やかさがあると思って。」母が求めていた「手作り」とは、佳奈がキッチンに籠って料理をすることだったと思う。しかし、規模が大きくなり他にもやることが多くなった今、一人で料理を作り提供するのは無理がある。きっと料理教室を経営している母にも出来ることではない。
Last Updated : 2025-07-09 Read more