結衣は足を止め、静江の方を向いた。「静江さん、こんばんは。夕食にお招きいただいたのではありませんか?お腹が空きましたわ。食事にしましょう」静江は深呼吸をして怒りを抑えて言った。「何をそんなに慌てているの。知らない人が見たら、誰かに飢えさせられたとでも思うわよ」結衣は意にも介さず、まっすぐ食卓へ向かい腰を下ろした。食卓には、見た目も香りも素晴らしい十数品の料理がずらりと並んでいた。しかし、その中に彼女の好物は一品もなかった。静江は奥歯を噛みしめ、結衣を罵倒しようとしたが、隣にいた満がそっと彼女に触れ、涼介がいることを目配せで伝えた。なんとか怒りを抑え込み、静江は笑顔で涼介に向き直って言った。「長谷川さん、結衣も来ましたし、食事にしましょうか」ちょうどその時、明輝も戸口から入ってきた。静江の言葉を聞くと、すぐに同意して言った。「長谷川さん、どうぞ」静江と明輝が自分に対して丁寧な態度を取るのを見て、涼介は口元に笑みを浮かべ、頷いて言った。「ええ」彼ははっきりと覚えていた。五年前、初めて汐見家を訪れた時、玄関で静江が見せた、あの嫌悪に満ちた表情を。彼を辱めるため、静江はわざと使用人に使い捨てスリッパを渡させ、リビングの床は拭いたばかりだから汚さないようにと、見下すように言ったのだ。明輝は彼を一目見るなり、腹黒い男だ、結衣と付き合っているのは汐見家の財産目当てで、汐見家を利用してのし上がろうとしているに違いない、と言い放った。当時は貧しい学生だったから、静江と明輝は彼を見下し、思う存分辱めることができた。ちょうど今、彼がフロンティア・テックの社長になり、二人が逆に彼に媚びへつらわなければならないのと同じように。涼介と明輝は並んでダイニングへ向かい、静江と満がその後ろについて行った。ダイニングに着くと、結衣が上座に座っているのを見て、静江の顔色が変わった。「結衣、誰があなたにそこに座っていいと言ったの!立ちなさい、長谷川さんに席を譲るのよ!」「この席が気に入ったの」「長谷川さんはお客様なのよ、あなた、少しは……」空気を読んだらどうなの。静江が言い終わる前に、涼介が笑って言った。「構いませんよ。彼女が気に入っているのなら、そこに座らせてあげましょう」涼介が気にしていないのを見て
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