「病院でそんな格好……兄さんを困らせる気?」 婦人科の診察室で、春坂朝菜(はるさか あさな)はお腹をそっと撫でながら座っていた。スマホからは、夫と義妹の声がはっきりと聞こえてくる―― 結婚して三年。なかなか授からなかった命。 やっと、やっと宿った愛しい我が子のことを、早く春坂征史(はるさか まさふみ)に伝えたくて―― でも、耳に飛び込んできたのは、現実を疑いたくなるような、淫らな音声だった。 女の子の声が続く。わざとらしく、ベルトのバックルをカチリと鳴らして。 「でも兄さん、姉さんは今、階下で妊娠検査中なんでしょ?今こんなことして、バレたらどうするの?」 男のくぐもった笑い声が応えた。 「俺はここの主治医だ。それにお前は心臓病持ちだろ。朝菜が見たって、まさか疑うはずないさ。 さ、手で助けてくれ」 ふたりの荒い呼吸音が、耳元で生々しく響いた。 朝菜の全身から血の気が引いていく。 本当に……征史なの? しかも相手は、彼の義妹、神崎句美子(かんざき くみこ)? ガクガクと震える指先。 現実を否定したくても、携帯から聞こえる声は、さらに朝菜を突き落とす。 「兄さんなんてウソつき、口では姉さんが好きって言いながら、身体は私を離してくれないくせに」 征史は手を止めることもなく、気だるげに答えた。 「ベッドの上の腕前なら、朝菜よりお前のほうが上だよ」 「だったら、彼女と離婚して、私と結婚してよ」 句美子が甘えるように囁く。 「姉さんは体が弱くて、もしかしたら子どもが産めないかもしれないけど……私は若いし、元々は兄さんの許婚だったんだよ?」 その瞬間、征史の声色が一変した。 低く、重く、真剣に。 「句美子、くだらないことを考えるな。俺が一生守りたいのは、朝菜だけだ。子供がいようがいまいが、あいつだけは裏切らない」 「今回だけは、朝菜に赤ちゃんができたから……俺も流石に、傷つけたくないんだ。 だから朝菜が無事に出産したら、お前は国外に行け。そしたらまた、俺は朝菜のもとに戻る」 「でも、私は兄さんの妹なんだよ?そんなの……」 句美子の不安げな声を、征史は気怠げに遮った。 「妹?血なんて繋がってないだろ」 「むしろ……スリルがあって、いいと思わないか?」 彼の声
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