東門に立つ任務は、単調で、冷たい。風は絶えず吹きつけ、石畳の地面がじんわりと足の裏を冷やす。通行人は誰も彼を見ようとしない。けれど、まるで全員の目線が同時に突き刺さってくるような感覚があった。「……あれ、何もしないで立ってるだけだろ」「命令だってさ。それにあの見た目だ。……総帥もお盛んなのかもな」後ろから兵士たちの小さな声が聞こえる。わざとらしく笑う音も混じる。リリウスは、聞こえなかったふりをしていた。否、聞こえてはいたが、反応することに意味を見出せなかった。(ここにいるって、選んだのは僕だ。なら、耐えるのも、義務だ……それに、あそこよりはマシだ)静かに、ゆっくりと呼吸を整える。目の前を、さまざまな人々が行き交っていた。農民、行商人、旅人、子ども。それぞれの心が、わずかに、風のようにすれ違っていく。──その中に。不意に、何かが刺さった。(……痛い?)明確な言葉ではない。けれど、何かの感情の塊が、胸の内側を強く押してくる。立ち止まったまま、リリウスは目を瞬かせた。目の前を通ったのは、ただの男だった。ごく普通の旅装束。表情も特別に険しくはない。けれど、すれ違った瞬間に、焼けるような“憎しみ”が流れ込んできた気がした。(あれは……)一歩、足が前に出る。その感情は、通りすがりの一瞬のもので終わらなかった。背中越しに離れていくその男から、いまだに何かが尾を引いている。「……すみません」隣に立っていた兵士に声をかける。「今、通った男。記録を取ってますか?」「は? ……ああ、名簿確認してるから番号は取れてると思うが……おい、どうした?」リリウスの顔色が、少し青ざめていた。「妙な感情が──感応です。まだ完全じゃないけれど、何か……強いものがありました」「お前……分かるのか?」兵士の声が変わった。「とにかく、報告します。記録を調べてもらえますか?」そのやり取りの向こうで、誰かが小さく口笛を吹く音がした。「へえ……使えるじゃん」皮肉か、驚きか、リリウスには判断がつかなかった。その時だった。「特徴を言え」低く、よく通る声。振り返ると、カイルがそこにいた。いつ現れたのかも分からないほど、自然に立っていた。リリウスは一瞬、息を呑む。けれどすぐに視線をそらさずに、言った。「服装や顔立ちは普通でした。ただ……背中か
Last Updated : 2025-05-17 Read more