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縁語り其の百四十一:絶対的な存在

작가: 渡瀬藍兵
last update 최신 업데이트: 2025-07-26 19:02:00

 一体、何時間車に揺られているのだろう。

 時間の感覚は、とうに麻痺していた。ただ、物凄い長い時間、単調なエンジン音と振動に身を委ねていたことだけは確かだった。隣では、輝信さんが大音量の音楽を流しながら、ご機嫌にハンドルを握っている。

 この人の体力は、一体どうなっているんだ…。

 たった数回の休憩を挟んだだけで、彼は疲れた様子を一切見せない。僕のように霊的なものに気を取られないから、純粋に運転を楽しめているのかもしれない。その軽やかさが、少しだけ羨ましかった。

「悠斗くぅん! 疲れてないかぁ!?」

「あ、ハイ…僕は大丈夫です…」

 声は出したものの、正直、体の芯までじっとりとした疲労が染み渡っていた。襲い来る眠気に、窓の外の景色へ無理やり焦点を合わせて、必死に意識を保つ。

「そうかァ! じゃあ、あと少しで着くからなぁ!」

 あと、少し…。そのセリフを聞くのは、もう何度目だろう。彼の「あと少し」は、僕の感覚とは絶望的なほどずれているらしい。騙されているわけではないとわかっていても、心のどこかで「またか」とため息が出そうになるのを、ぐっとこらえた。

***

「ほら! あの山が白蛇山だ! んー! 相変わらず、いつ見ても綺麗な山だなぁ!」

 輝信さんは、心底感心したようにそう言った。

 けれど、僕の目には、その言葉とは全く違う光景が映っていた。

 車窓の先にそびえる山は、見るからに異様だった。空は毒々しい紫色に淀み、雲はまるで古傷から滲み出た血のように、不気味な赤色をしていた。山そのものが、一つの巨大な、病んだ生き物のようにすら見える。

 これが、白蛇山…。きっと、輝信さんのような普通の人には、このおぞましい光景は見えていないのだろう。その事実が、僕がこれから踏み込む世界の異常性を、改めて突きつけていた。

 やがて、僕らを乗せた車は、白蛇山の麓近くで静かにエンジンを止めた。先ほどまでの陽気な音楽が嘘のように、世界から音が消え失せる。

「さぁ、ここからは歩きだ。いくぞ」

 その言葉と共に車を降りた瞬間、空気に肌を焼かれるような、鋭い痛みが走った。

 濃密な呪いの気配。迦夜から感じたものとは、次元が違う。肌を
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  • 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜   縁語り其の百五十四:天、堕つる日

    「じゃあ、悠斗君……これから、封印を解くよ」その一言に、僕は思わず息を呑んだ。声は穏やかなのに、そこに込められた決意があまりにも重くて、胸が軋む。美琴はゆっくりと、神楽髪飾りを頭につけた。白蛇を象ったその装飾が、禍々しい神木の前で、清らかな光を放つ。その姿は、まるでこの地に遣わされた“最後の巫女”のようだった。ただそこに立っているだけなのに、神聖で、そして今にも消えてしまいそうに儚げだった。僕たちは、ゆっくりと木の幹へと近づいていく。目の前には、“神木”。巨大な桜の幹が、墓標のように静まり返っていた。そして、その目前で、美琴が立ち止まる。「悠斗君……改めて、ありがとう。ここまで一緒に来てくれて……本当に、ありがとう」彼女が振り返る。その声は、ふっと吹いた風のように優しくて、でもどこか泣きそうだった。「きっと、私ひとりだったら……とっくに心が折れてたと思うから」その言葉を聞いた瞬間、胸が詰まる。当たり前だ。これほどの重圧の中、自らの命を削る覚悟を抱えて、誰が一人で歩けるというのか。この木から溢れ出る“怒り”は、僕の本能に「逃げろ」と絶えず叫ばせている。「……じゃあ、解除するよ」美琴が静かに右手を掲げた。次の瞬間、彼女の掌から放たれた紅い閃光が、音もなく木の幹に吸い込まれていった。そして。ドンッ……ッ!!!腹の底に響くような地鳴りと共に、世界が揺れた。僕の体が、意思と無関係にふらつく。足元の石畳が波打ち、思わず膝をつきそうになった。「うっ……!」──さらに…赤い霧が、木の幹から溢れ出した。ふわり、なんて生易しいものじゃない。空気を塗り潰すように、ぐにゃりと重く、どこまでも濃密な瘴気が、こちらに押し寄せてくる。鼻をつく、鉄の匂い。古く腐りきった血の悪臭が、脳を直接殴る。吐き気が、込み上げてきた。「……っ……うぐ……」喉が焼けるように熱く、目が染みるように痛い。それでも僕は、目を逸らすことができなかった。霧が、少しずつ晴れていく。そして、そこに──“それ”はいた。

  • 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜   縁語り其の百五十三:その花は血を啜りて

    整地された山道を、僕たちは並んで登っていた。石畳の足元はしっかりしているのに、心の中だけが妙にぐらついている。冷たい山の空気が、やけに重く感じられた。その時──「ねえ、悠斗君」美琴が、ふと立ち止まって僕を振り返った。「ん? どうしたの?」「悠斗君って、琴音様の伝説……ちゃんと知らなかったよね?」「うん。詳しくはまだ聞いてない」彼女は小さく頷き、少し寂しそうに微笑んだ。「これから、琴音様と向き合うんだもん。少しでも伝説を知ってた方がいいと思って」「……うん。そうだね」想いが力になるのなら、こういう“知ること”もきっと意味がある。それに、あの琴音様がどんな存在だったのか……僕も知っておきたかった。「まあ、知らなかったのは当然かも。私がちゃんと教えてなかったから……」ぽつりと、美琴が視線を落として言う。きっとそれも、僕を巻き込まないように、遠ざけようとしていた結果なんだ。……その選択がどれだけ辛いものだったか、今ならよく分かる。「だから……今から、その文献の内容を話すね」「……うん。お願い」美琴は一度だけ小さく深呼吸して──目を閉じ、古の物語を静かに語り始めた。> 【一、無垢の童女】> 無垢の童女、泣かず、笑わず。> 村人これを忌みて、「鬼の子」と呼びて遠ざく。> 時至りて、生贄として御神に捧げらる。> 然れど神、己が声を唯一聴く童女を深く気に入り、> 常世の底より命を繋ぎ、此の世へと還し給う。> 是により童女は命を落とさず、村へと帰還を果たす。> この出来事、後に「第一の生還」として語らる。> 【二、神を鎮めし舞い】> 還りし童女、村に迎えられ、> 「救世の子」と崇めらる。> その身、唯一神の言葉を聴きし者なり。> 童女、不可思議なる力をもって神威を鎮め、> 御神の怒り、やがて静寂へと至る。> 再びの生贄を求めし神に、童女は応えず、> 「我、命を捧げぬ。ただ、祈りを捧げよう」と言い放つ。> 神は沈黙を

  • 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜   縁語り其の百五十二:白無垢の君、最後の朝

    鳥のさえずりが、遠くの森からかすかに届いてくる。ひんやりと澄んだ朝の空気が、部屋の静けさを際立たせていた。……朝が、来てしまった。眠っていたはずなのに、胸のざわつきのせいか、いつもより早く目が覚めてしまった。布団の中で身を起こし、ぼんやりと窓の外を見つめる。夜明け前の空はまだ薄暗く、遠くの地平線がわずかに白んでいた。隣では、美琴が静かな寝息を立てている。その寝顔は穏やかで、まるで何事もない日常の続きのように見えた。「……美琴」僕はそっと、彼女の方へ身体を向けて、再び横になる。起こさないように、その柔らかな髪をそっと撫でた。指先に感じる温もりが、胸を締め付ける。(沙月さん……)心の中で、静かに祈る。どうか、彼女を守りきれる力を……僕に。たったそれだけでいい。どうか、力を貸してください。そう願いながら、もう一度そっと目を閉じた。 ***朝日が畳の上に長い影を落とし始めた頃、僕たちは長老の家を訪れていた。「悠斗。もう一度だけ、尋ねる」長老が、真剣な眼差しで僕を見つめる。「おぬしは、本当に──自分まで死ぬかもしれない地へ赴くという、その気持ちは変わらぬのか?」「はい」迷いはなかった。「この心は、もう揺らぐことはありません」そう答えると、長老は深いため息をついて目を伏せた。その横顔には、困ったような色が浮かんでいる。だけど同時に、どこか少しだけ……誇らしそうにも見えた。「……はぁ。美琴も大概じゃが……おぬしも大概じゃな……」ぽつりと、呆れたように言う。でもその声には、確かな温かさが滲んでいた。「……だからこそ、礼を言おう」長老が、静かに言葉を継いだ。「美琴を、これほどまでに想ってくれて……儂は感謝しておるよ」その言葉に、胸の奥が熱くなる。本当は、長老もこんな犠牲……望んでなんかいないんだ。この人の優しさは、先日のやり取りで十分に伝わっていた。だからこそ、今の言葉が、余計に重く感じられる。「よし……美琴。琴音様の巫女服に、着替えておいで」

  • 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜   縁語り其の百五十一:君の涙、僕の覚悟

    「っ……!」美琴が両手で口元を覆い、ただ僕を見つめていた。その瞳は、まるで信じられないものを見るかのように、震え、揺れ……やがて、堰を切ったように涙が溢れ始める。ぽろり、ぽろりと大粒の涙が頬を伝って落ちていく。その一粒一粒が、僕の胸を締め付けた。「……ずっと、好きだったんだ」この気持ちは、もうずっと前から始まっていたんだと思う。最初に出会ったあの桜の下で、一目見たその横顔に心を奪われて。でも、本当に惹かれたのは、君と一緒に過ごした時間の中で、その心に触れたからなんだ。ひたむきに努力して、霊たちに優しく寄り添って、ときに誰よりも勇敢で、でも……誰よりも脆くて、泣き虫で。僕の名前を呼んでくれる声が、隣で笑ってくれる顔が、もう……愛しくてたまらない。「ゆ、悠斗君……っ」美琴が、涙をこらえきれずにその場に崩れ落ちる。肩を震わせて、まるで子どものようにしゃくりあげる彼女を、僕は何も言わずに抱きしめた。小さな身体を、そっと腕の中に包み込む。「……よしよし」背中を撫で、髪に指を通し、優しく頭を撫でる。涙で濡れた頬に触れるたび、僕の胸も痛くて苦しくなった。「わたし……私は……っ……!」うまく言葉にならないその声が、それでもたしかに、僕の心の奥に届いてくる。まだ一年。ほんの一年の、短い時間。だけどその中で過ごした日々の濃さは、僕らの人生を大きく揺るがすには、十分すぎた。霊に寄り添い、命を懸けて戦って、何度も絶望の淵に立たされて、それでも──いつも、そばにいた。だから、これはもう……“好き”なんて言葉じゃ足りないくらいの想いなんだ。僕は──泣きじゃくる彼女の唇に、そっと、自分の唇を重ねた。小さく震えるその唇は、涙の味がして、どこまでも柔らかくて、どこまでも温かかった。そして、同時に震えていたのは、僕の方もだった。この小さな身体で、美琴はどれだけの痛みを抱えてきたんだろう。どれだけの絶望を見て、それでも立ち上がってきたんだろう。なんで、こんなか弱い一人の女の子に、これほどまでに過酷な運命を背負わせたのか。神様だとか、

  • 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜   縁語り其の百五十:月が照らす最後の告白

    ──誰だろう。こんな時間に。部屋に静かに響く、ノックの音。「コン……コン……」と、控えめに、それでも確かな意思を感じる音だった。一度だけじゃない。もう一度──「コンコン」僕は上半身を起こし、音を立てないようにそっと立ち上がる。しんと静まり返った夜の中、扉の向こうにいるのが誰なのか、なんとなく想像がついていた。ゆっくりと扉を開くと──そこに立っていたのは、やはり美琴だった。「美琴……どうしたの、こんな時間に」月明かりに照らされた彼女は、少しだけ頬を赤らめ、目を伏せて呟く。「悠斗君……眠れなくて……。その、一緒に寝ても……いいかな……?」「えっ……。」不意を突かれて、心臓が大きく跳ねた。でも……僕を見上げるその瞳は、真剣そのものだった。「……うん、いいよ。一緒に寝よう」僕がそう答えると、美琴はほっとしたように、ふわりと笑った。その笑顔が、どこか寂しげで、でも、とても優しかった。「ありがとう」美琴は僕の部屋に入ると、慣れた様子で押し入れを開ける。中には予備の布団がいくつも重ねてあった。「美琴、僕が出すよ」彼女の手をそっと制し、僕は押し入れからふかふかの布団と毛布を取り出す。そして、自分が寝ていた布団のすぐ隣に、そっと敷いてやった。「ありがとう!」「なんだか……、一緒に寝るのって、久しぶりだね」あの夜のことを思い出す。(緊張しすぎて、全然眠れなかったっけ……。)「その顔……あの時のこと、思い出してたでしょ?」くすっと笑いながら、彼女が指摘してくる。僕の考えていたことを、まるで当然のように言い当てる美琴。なんていうか──理解されてるんだな、と思う。そのことが、胸の奥をじんわりと温かくした。「ねぇ悠斗君、少しだけ話さない?」美琴は自分の布団にぺたんと座り込むと、隣をぽんぽんと叩き、僕に向かって笑みを浮かべる。「……うん」その笑顔に誘われるように、僕は彼女の正面に座った。月明かりが、二人の間に落ちている。「悠斗君、覚えてる? 私たちが初めて出会った日

  • 縁が結ぶ影〜呪われた巫女と結ぶ少年〜   縁語り其の百四十九:流れ星に祈りを、運命に別れを

    そして、翌日。美琴に手を引かれ、村の小道を並んで歩いていると、「美琴様〜っ!」遠くから、焦った様子の霊砂さんが駆け寄ってきた。肩で息をし、額には薄っすらと汗が浮かんでいる。「美琴様、長老がお呼びです……」その強張った表情に、ただ事ではない空気が滲んでいた。霊砂さんの言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひやりと冷える。ああ……ついに、来てしまったんだ。覚悟していたはずの“その時”が、もう目の前に迫っている。重たい沈黙が落ちる中、僕と美琴は無言のまま目を合わせ──やがて、長老の家へと歩き出した。.***前回と同じように座布団に腰を下ろし、長老へと体を向ける。彼女の顔には、どこか痛ましい色が浮かんでいた。「美琴……明日が限界じゃ。琴音様の呪いが日に日に強くなっておる。これ以上は……すまないが、待てそうにない」長老は申し訳なさそうに、そして絞り出すようにそう言った。その言葉が、僕の心臓を嫌な音を立てて鷲掴みにする。胸が締め付けられ、息が苦しくなる。だが、隣に座る美琴は、驚くほど普段と変わらない様子で、静かに頷いた。「わかりました。明日、琴音様を祓ってまいります」その表情は、僕の目にはあまりに痛ましく映った。まるで、己の運命をただ粛々と受け入れているかのように。その静かな瞳の奥に隠された覚悟の深さに、僕は言葉を失う。琴乃さんのため……それは、分かっている。でも、僕の本心は叫んでいた。もっと自分を大切にして欲しい、と。「っ……」言葉にならない想いが、喉の奥に熱い塊となって詰まる。最後の時までこうして彼女の傍にいられる。その事実は嬉しいはずなのに、彼女との別れが確実に、そして無慈悲に近づいてきていることに、胸にガラスのひびが入っていくような鋭い痛みを感じていた。このまま時間が止まってしまえばいいと、何度願ったかわからない。特訓で得たこの力で、奇跡は起こせるのか? 彼女の負担を減らせれば……一緒に生還できるかもしれない。そんな、淡く切実な、藁にも縋るような思いが、僕の胸の内を焦がした。「悠斗

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