「……。分かった」 僕の覚悟を受け止めて、美琴は静かに、だけど力強く頷いた。 「それじゃあ悠斗君……行くよ」 彼女が、空間の歪みへと、すっと手をかざす。その指先から、紅い霊気が奔流となって歪みへと注ぎ込まれていった。 ──バリバリバリバリ!!!!! 「っ……!」 あの、世界そのものが悲鳴を上げているかのような嫌な音が、路地裏全体に響き渡る。 目の前で、本当に空間が引き裂かれていく。昨夜、僕が恐怖に震えながら聞いたあの音は、紛れもない現実だったのだと、今、この身をもって知る。 「いつ襲いかかってくるかわからないから、気を抜かないで」 「うん……」 僕たちは、互いに頷き合うと、その黒く裂けた歪みの中へと、足を踏み入れた。 一歩足を踏み入れた先は、光の一切ない、完全な闇だった。音も、匂いも、方向感覚さえも奪われるような、冷たい無。 「真っ暗だ……」 「……でも、あそこに光が見える。あそこが出口のはず」 美琴が指差す、遥か彼方に、針の穴ほどの、か細い光が見えた。僕たちは、その光だけを頼りに、暗闇の中を進んでいく。 やがて、その光が目前に迫る。 そして、僕たちがその光を通り抜けた、その瞬間──。 僕は、目の前に広がる光景に、目を疑った。 辺り一面、見渡す限り、彼岸花が狂い咲いている。まるで、大地が吸った血を糧に咲き誇っているかのように、その赤はどこまでも濃く、禍々しい。 空を見上げれば、そこには、ありえないほど巨大な、真っ赤な月が浮かんでいた。 そして、極めつけは、この匂い。花が腐って熟れたような、むせ返るほどの甘ったるい香りが、この空間全体に、ねっとりと充満していた。 「うっ…なんだ、この匂い……!」 思わず、鼻と口を手で覆う。 「これが…迦夜の結界……彼女の心の中そのもの……!」 美琴も驚いた様子で呟いた。 現実とは到底思えない、狂気の光景。その、あまりの異質さに、僕はただ立ち尽くすことしかできない。 ふと、その赤い花の海の向こうに、古びた神社のような社と、鳥居が見えた。だが、その社はひどくボロボロで、鳥居は朽ち果てかけている。 「あれは…私たちがいた、白蛇山神社の偽物……」 「白蛇山神社…?」 「そう…。私達の故郷、蛇琴村にある、白蛇様を祀っていた神社。迦
Terakhir Diperbarui : 2025-07-17 Baca selengkapnya