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縁語り其の百六十五:壊れた心の在り処

Auteur: 渡瀬藍兵
last update Dernière mise à jour: 2025-08-04 19:05:00
どんなに触れても……君は起きてくれない。

「美琴……美琴……ほら……起きて……。」

「一緒に……桜織市に帰ろう……?あの学校に行って、いつものように……過ごそうよ……」

僕は震える指で、彼女の冷たい頬をさすった。

何度も。何度も何度も何度も。

何度も何度も何度も何度も、何度も。

でも、君は起きてくれない。

もう僕の心は……砕け散る寸前だった。

「悠斗さん……もう……休ませてあげましょう……っ……。」

霊砂さんの声が、僕の耳に届いた。その声は、今にも泣き出しそうに震えている。

……っ。

僕は、覚悟をして、ここまで来たはずだ。美琴の寿命が近いことを知り、どんな結末が待っていようとも、最後まで彼女の傍にいると決めていた。

でも……こんな別れ方は……あまりじゃないか……。

こんな……こんな……希望を見せておいて、こんなお別れは……あんまりじゃないか……。

僕の胸は、激しい痛みに締め付けられた。どこからこんなにも大量に湧いてくるのか、涙が止まらない。

「美琴……。」

僕は、もう一度、美琴の頬をさすった。その命の温もりが失われた冷たさが、僕の心に深く突き刺さる。

「悠斗さん……まだきっと……美琴様の魂は、この世に縛られています……。悠斗さんが美琴様を見たという事は……つまり、そういう事なのです……」

霊砂さんの言葉が、僕の頭の中に響いた。

「次に、ご自分が何をすべきか……わかりますよね……?」

霊砂さんの、懇願にも似た声が、僕の心臓をさらに強く締め付けた。

ずっと……美琴の傍にいたんだ……。彼女の魂が縛られているのなら、それを解放してあげなければならない。

頭では、それが正しいと理解している。

でも……そんな簡単に割り切れるわけ……ないじゃないか。

僕の心が、その現実を拒否する。彼女を手放すなんて、そんなことができるはずがない。

「悠斗さん……っ! お願いです……お願いですから……美琴様を解放してあげて下さい……」

霊砂さんの悲痛な叫びが、僕の胸に突き刺さる。

「美琴様が……地縛霊になってしまっても……良いんですか!?」

その問いは……やめてくれ。頭ではわかっていても、そんなに簡単に割り切れるわけがないんだ……!

美琴と過ごした時間は、あまりにも濃く、かけがえのないものだった。それを……わかっているのか……?

いや……
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