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縁語り其の百六十七:残照の君

Auteur: 渡瀬藍兵
last update Dernière mise à jour: 2025-08-04 19:15:00
「ここは……」

霊眼術が、まるで道を示すかのように、僕をとある場所へと辿り着かせていた。

そこは──白蛇山の山頂。琴音様との激戦が繰り広げられた、因縁の場所だ。

巨大な桜の木がそびえ立っている。けれど、血のように赤黒かった花びらはもうない。呪いが浄化された山頂は、がらんとした静寂に包まれ、風の音だけが虚しく枝葉を揺らしていた。月光が木々の隙間から差し込み、幻想的な影を地面に投げかけている。

(よく来たな……)

その声が、再び脳内に直接響く。

導かれるように桜の巨木へ目を向けると、幹からひとつの碧い光がじわりと滲み出てきた。光はゆらめきながら輪郭を帯び、やがて一人の女性の姿を形作る。

古風な髪飾り。濃い青色の着物。そして首元に寄り添う、白い蛇──。

呪いの象徴だった角も、禍々しい気配も消え失せ、ただ神秘的な雰囲気を宿して、彼女はそこに立っていた。以前の狂気に満ちた表情とは正反対の、深い悲しみを湛えた瞳がそこにある。

「あなたは……!!!」

僕が声を掛けようとした、その瞬間だった。

より強く、はっきりとした声が、僕の思考に割り込んでくる。

『……妾は琴音。』

思考
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