「その……美琴、ごめん……」 悠斗は、消え入りそうな声でそうつぶやいた。 少しの間を置いて、湯気の向こうから美琴の声が返ってくる。 「……すみません。本気で怒った訳じゃないんです……。ただ、恥ずかしくて……」 最後のほうは、しぼむように小さかった。 それも無理はない、と悠斗は思う。あんなふうに振り回されて、平然としていられるはずがなかった。まして相手が、あんな悪戯好きの霊ならなおさらだ。 喉の奥がつまったようになって、うまく言葉が出てこない。 そのとき、不意にさっきの光景が脳裏をかすめかけた。悠斗ははっとして、湯の中で小さく首を振る。今それを思い出すのは、違う。そう自分に言い聞かせるように、もう一度だけ深く息をついた。 「さっきのは、間違いなく霊だよね? それとも……妖怪的な……? 人に化ける霊なんて見たことないよ」 気まずさを振り払うように、悠斗は話題を変えた。湯気の向こうに美琴の姿は見えない。ただ、湯が小さく跳ねる音だけが、まだ近くにいることを教えてくれる。 「おそらく霊ですね。しかも、あの声……」 美琴の声色が、すこしだけ落ちた。 「なにか思い当たることが?」 「さっきのは、おそらく陽菜さんですよ」 「えっ? 人を助けてくれる霊が?」 思わず聞き返す。湯気の向こうで、わずかに間が空いた。 「はい。先輩はそれどころじゃなかったみたいですけど」 さらりとした口調のくせに、刺すところだけは正確だった。悠斗の肩がびくりと跳ねる。 「ご、ごめん……」 反射のように謝ると、美琴は小さく息をついた。 「さっきのはしょうがないですよ。でも——忘れてくださいね」 穏やかな声だった。穏やかなのに、返事以外の選択肢がどこにもない。 「そ、それはもちろん……」 うなずきながら答える。姿が見えていなくても、ここで変な間を作ってはいけないことだけは、はっきりとわかった。 湯気の向こうは静かだった。視線など届くはずのない距離なのに、美琴がこちらをじっと見ている——そんな気配だけが、妙にくっきりと肌に残っていた。 * それからしばらく湯に浸かってはみたものの、心はまるで休まらな
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