倒れた美琴を背負い、僕は石津製鉄所を後にした。 足元の瓦礫を踏みしめる乾いた音が、虚しく響く。澱んだ死の気配が残るあの場所に、彼女をこれ以上置いておくわけにはいかなかった。 僕自身も、霊力を使い果たし、身体中が軋むように痛む。首の傷は熱を持ち、肩からは血が滲み続けている。足は鉛のように重く、一歩踏み出すたびに、全身の細胞が悲鳴を上げていた。 (くそ……目が……霞む……) だが、背中で微かに息をする美琴のことを思えば――そんな苦痛を気にしている余裕など、どこにもなかった。 「はぁ……っはぁ……っ……美琴、辛いよね……ごめん……。もう少し……もう少しだけ、頑張って……」 返事はない。 背中越しに伝わる彼女の呼吸は、か細く、儚い。その小さな身体の存在だけが、僕を前へと進ませる、唯一の理由だった。 *** どれくらい歩いただろうか。 時間の感覚はとうに麻痺し、頭の中は疲労で白い靄がかかったようだ。 こんな人気のない寂れた道に、タクシーなど通るはずもない。頼みの綱のスマホは壊れ、助けを呼ぶ術もなかった。血まみれの僕たちがバスに乗れば、騒ぎになるだけだ。 (……今は、こうして……一歩ずつ……進むしかない……) 自分を奮い立たせ、また重い足を踏み出す。 だが、足元がふらつき、世界がぐらりと傾いた。霊力の消耗と、純粋な疲労が、僕の意識を深い沼の底へと引きずり込もうとする。 それでも――背中に感じる美琴の存在だけが、今の僕を支える、唯一の光だった。 ──その時。 ――プァァァン! 背後から、不意にクラクションが響いた。 幻聴かと思うほど、その音は遠く、現実離れして聞こえた。 恐る恐る振り返ると、そこには一台の車が、静かに停まっていた。 助手席の窓がスッと開き、懐かしい顔が覗く。 「――悠斗!? なんで、こんな所に…!? それに、あんた、血まみれじゃないか!! 美琴ちゃんも、すごく具合が悪そうだけど!?」 あの松田さんの驚いた声が、僕の疲弊しきった意識を叩き起こした。 その隣には、どこかで見覚えのある男性が、静かにハンドルを握っている。 「松田さん……!?」 呆然と、夢でも見ているかのように、彼女の顔を見つめた。 「あんたも、ひどい顔だね……。ねぇ、彼らを乗せてもいいかい?」 松田さんが運転席の男性に声をかけると、彼は言葉少なく、
Terakhir Diperbarui : 2025-06-13 Baca selengkapnya