倒れた美琴を背負い、僕は石津製鉄所を後にした。 足元のガレキを踏みしめるたび、乾いた音が虚しく響く。 澱んだ空気の残るこの場所に、美琴をこれ以上置いておくわけにはいかなかった。 僕自身も、先ほどの激しい戦いで霊力を使い果たし、身体中が軋むような痛みに苛まれていた。 首の傷は熱を持ちズキズキと疼き、肩からは血が滲み続けている。 足は鉛のように重く、一歩踏み出すたびに全身が悲鳴を上げた。 でも、背中で微かに息をする美琴のことを思えば―― そんな自身の苦痛を気にしている余裕など、どこにもなかった。 「……美琴、辛い時に背中でごめん……。タクシーが見つかれば、もう少し楽になるから」 僕の問いかけに、返事はない。 背中越しに伝わる美琴の呼吸は浅く、時折かすかに揺れる。 霊力を使いすぎた影響は明らかで、その小さく儚い体が、僕の背中でか細く存在しているのが感じられた。 僕は、ただ、この重い一歩一歩を刻むことしかできない。 *** どれくらい歩いただろう。 時間の感覚は曖昧になり、頭の中は疲労で白い靄がかかったようだった。 たぶん、一時間くらいは経っている。 腕も足も、すでに限界を迎え、息は常に喉の奥でヒューヒューと鳴っていた。 視界が揺れ、額から流れ落ちる汗が首の傷に染みて、チリチリとした痛みが肌を這う。 タクシーを拾おうにも、こんな人気のない寂れた道じゃ、一台たりとも通らない。 頼みの綱のスマホは黒崎との戦いで壊れ、救急を呼ぶこともできない。 バスに乗る選択肢も、血まみれの僕たちが乗れば、確実に通報されてしまうだろう。 「……今は、こうするしかないか」 僕自身の疲労も、美琴の安全も、すべてを押し殺して、自分を奮い立たせる。 そして、また一歩、重い足を踏み出した。 でも、足元がふらつく。 霊力の消耗もあるけれど、すでに身体の痛みと純粋な疲労が、僕の意識を深く沈めようとしていた。 それでも――僕の背中に感じる、美琴の存在だけが、 今の僕を支える、唯一の確かなものだった。 ――その時だった。 ――プァァァン! 背後から、不意にクラクションの音が響いた。 その音は、まるで幻聴かと思うほど、僕の耳には遠く、そして現実離れした響きに聞こえた。 思わず立ち
Terakhir Diperbarui : 2025-06-13 Baca selengkapnya