僕たちは、藤次郎さんに案内され、桜翁の根元に隠された秘密の通路を降りていった。 ひんやりと湿った石の壁が、僕たちの足音を不気味に反響させる。階段はどこまでも深く、まるで地の底へと続いているかのようだ。下から吹き上げてくる、淀んだ冷たい空気が、肌にまとわりついてくる。 「藤次郎さん、こちらには……何が封印されているのですか?」 階段の途中で、美琴が静かに尋ねた。 「先程も言ったが沙耶様がな……故郷からこの翁の苗と共に持ってきたらしい。そして、この地下に“何か”を封じた、とだけ文献にある。詳しくは儂にも分からんが……“白蛇山の怨霊の分身体”とだけ、記されていた」 怨霊の、分身体……? 白蛇山──初めて聞く地名。だが、その名前を聞いた瞬間、隣を歩く美琴の呼吸が、僅かに止まった。その顔から、すっと血の気が引いていくのが、薄暗がりの中でも分かった。 (やっぱり……何か知っているんだ…。) 「美琴……まさか、それって“琴音様”のこと?」 ふと湧き上がった疑問を、そのまま口にする。 美琴は視線を伏せたまま、ゆっくりと答えた。 「分かりません……。ですが、もし琴音様ほどの力を持つ存在なら……白蛇山から“霊脈”を辿り、この桜翁に影響を及ぼすことは、可能だと思います」 まるで神話のような話だ。神を鎮めたとされる巫女が、呪いとなって封じられ、千年経った今も影響を残しているなんて。現実感はないはずなのに、桜翁のあの禍々しい異変が、その全てを冷たい事実として証明していた。 地下通路を歩き、10分ほどが経った頃。 空気が、一変した。 黒く、重く、ねっとりとした気配が辺りを包み込む。それは魂が直接圧迫されるような重圧で、僕の背筋を冷たく撫でていった。 やがて、行く手に巨大な木造の観音扉が、地の底の番人のように立ちはだかっていた。 見ただけで分かる。“何か”がいる。強大で、得体の知れない“それ”が、この扉の向こうに──。 「悠斗君、ここから先は……本当に危険かもしれません。引き返すなら……今のうちです」 美琴の声が、わずかに震えていた。彼女さえ怯えさせるほどの相手が、この先に封じられている。 ──怖い。 本当は、足がすくんで、今すぐ逃げ出したい。 でも、それよりも遥かに強い想いが、僕の心を支配していた。 「正直……怖いよ。でも、美琴が行くって分かってる
Terakhir Diperbarui : 2025-06-23 Baca selengkapnya