先程の男の姿が、まだ瞼の裏にちらついていた。 引きずるような足取り。途切れない呻き。そして、胸元に刻まれた無数の裂け目。十年以上もあの痛みの中を歩き続けているのだと思うと、悠斗の胸の底に鈍い重さが沈んでいく。 「さっきの人を、苦しみから解放してあげたいね……」 「ええ、私がしてみせますよ。十年以上の刺された痛みを抱えるなんて、辛すぎます」 美琴の声に気負いはなかった。ただ当然のことを口にするように、静かで、揺るぎない。その落ち着きに、悠斗は小さく頷いた。 「そうだね」 二人は構内をゆっくりと歩いていた。天井の鉄骨が所々抜け落ち、隙間から差し込む外光が埃の粒子を白く浮かび上がらせている。足元には砕けたコンクリートの破片と、用途の分からない金属部品が散乱していた。 「そういえば……、さっき美琴の姿を見た瞬間酷く怯えたようだけど、なにがあったのかな」 ふと思い出したように、悠斗は口を開いた。あの逃げ方は異常だった。美琴は手を差し伸べようとしただけだ。それなのに、まるで天敵に出くわしたかのような——。 「……きっと、私の気に当てられて怯えてしまったんでしょうね」 美琴の足が、わずかに遅くなった。 「えっ? 気って……霊気だよね?」 「はい。先輩、私の血は呪われていると言いましたよね。その影響で、私から滲み出る霊気は彼らにとって同様に紅い攻撃的な霊気として映ります」 淡々とした説明だった。感情を排した声。事実だけを並べるときの美琴の話し方を、悠斗はよく知っている。そしてそれが、彼女にとって触れたくない領域に近いほど顕著になることも。 「あ、そうだ……! たしかに美琴の霊気を霊眼術で見ると紅い……!」 はっとして、悠斗は隣を見た。霊眼術越しの美琴の輪郭。そこからかすかに立ち昇る霊気は、深く、鮮烈な紅。 「はい。今までの方々も、最初は同じように怯えていました」 今までの人達——。 その一言が、悠斗の中で引っかかった。記憶が巻き戻る。 廃病院で出会った誠也。あのとき最初に発した声は、助けを求めるものではなかった。風鳴トンネルで詩織が叫んだ言葉も、同じだった。 ——『来るな』。 どちらも、美琴に向けられていた。 「あれは自分たちの場所を荒らすなって意味じゃなくて……美琴に怯えていたってこと?」 声が、思ったより
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