All Chapters of 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか!: Chapter 411 - Chapter 420

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第411話

史弥は眉をひそめ、その一言で酒の酔いも一瞬で覚めたようだった。彼は悠良に問いただす。「お前......俺の叔父を知ってるのか?」「知らないわ。まあでも、もし教えてくれるなら別に構わないけど」悠良は、たとえ史弥が孝之を助けなくても、自分にはまだ別の切り札があると伝えたかった。実際には、その切り札がどんな人物なのか、顔すら知らない。それでも、ほんのわずかな望みであっても決して捨てるつもりはなかった。史弥が言ったことの一つは正しかった。彼女は決して家族を諦められない。孝之は、この世で残された最後の家族。どんな手を尽くしてでも守らなければならない。悠良は、史弥がほっとしたように息をついたのを見逃さなかった。まるで、彼女がまだ「叔父」の正体を知らないことに安堵しているかのように。彼女はその不自然さを鋭く察し、彼を見据えて尋ねる。「その顔......もしかして、私、その『叔父』に心当たりがある?」史弥は顔を引き締め、低く警告した。「悠良、忠告しておく。俺の叔父は善人じゃない。人を喰うような男だ。一度関わったら、一生逃れられない。それに、白川家の名誉に関わる。お前が誰と付き合おうが勝手だが、俺の叔父だけは絶対に駄目だ!」史弥がまるで爆薬のように一気に火がついたのを見て、悠良はかえって面白くなった。彼女は手の中のキーリングを回しながら、わざと挑発する。「何それ。あんたが石川と関係を持つのはいいのに、私がシングルの身であんたの叔父を選んだら、『白川家の恥』になるってわけ?」悠良は、またしても史弥に対する認識を覆された。自分は本当に愚かだった。こんな醜悪な男と、何年も一緒に過ごしていたなんて。史弥は口を固く結び、顔は鍋底のように暗く沈んでいる。「必ず後悔することになる。俺の元妻が叔父と関係を持つなんて、白川家は絶対に許さない。悠良、お前も長年うちに嫁いでたんだ、うちの当主の手段を知らないわけじゃないだろう?」彼の言葉に込められた脅しを、悠良は敏感に感じ取った。目を細めて笑みを浮かべたが、その笑みは冷たく、瞳には一切届いていない。「だから何?まだ私が昔のように、あんたに従順な悠良だと思ってるの?」今の悠良は、まるで別人のようだった。纏う空気はかつてとはまるで違い、その変
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第412話

だが、彼女が自分と一緒にいないというのなら、他の誰かと一緒になることも絶対に許さない。史弥の漆黒の瞳に、一瞬鋭い光が走った。彼がマンションを出たところで、見覚えのある車が少し離れた場所に停まっているのを目にして、思わず眉をひそめる。あれは、伶の車?こんな時間にここに車を停めているということは、悠良と一緒に上がってきたのか?夜も更けて......二人はどこへ行くつもりだ。史弥はすぐに自分の車に乗り込む。杉森が振り返って尋ねた。「白川社長、今から戻りますか?」「少し待て」数分後、悠良が階上から降りてきた。しかも着替えまで済ませており、そのまま伶の車に乗り込む。史弥は焦ったように杉森の腕を叩いた。「追え」杉森もようやく気づく。特に、伶の車はあまりにも目立つ。雲城であの車を持っているのは彼一人。街に出れば必ず人目を引く。「小林さん、また寒河江社長と一緒に......?」史弥の目が冷たく細まる。ふと、あることを思い出した。「覚えてるか?この何年か、俺の叔父はよく海外に行ってた。もともと国内の事業だけに専念して、海外との取引は嫌ってたのに......悠良が消えたあの年からだ、急にあちこち飛び回り始めたのは」杉森も頷く。「言われてみれば確かにそうでした。けど......二人の関係って......」口にするのもためらう。史弥はそこまで深読みしていなかった。ただ、伶と悠良の間には何かある、と直感していた。だが、どうしても信じ難い。伶は天才。家の老人ですら恐れぬ傲慢な男。これまで幾人もの名家の令嬢が紹介されてきたが、一人として彼の目にかなわなかった。見た目も家柄も釣り合いそうな相手ですらだ。唯一、少し親しく見えたのは遠縁の従妹くらい。だがそれも、親族付き合いの延長にすぎず、本気で気にしている様子はなかった。その頃、助手席に座る悠良はどこか上の空。何か思案しているようだった。伶は横目で彼女を数度見て、口を開く。「ずいぶん遅かったな。まさかシャワーでも浴びてたのか?」低く響く声に、悠良はようやく我に返る。「違います。さっき下で史弥に会ったんです」「復縁を迫られたか?」あまりにも直球な言葉に、悠良は思わず目を丸くする。「どうして分かるんで
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第413話

伶はそのとき、すでに車をマンションの入口前に停めていた。彼が少し身を屈めると、熱気が迫り、悠良はたばこの鋭い匂いを感じた。だが、その体温に温められたそれは、不思議と柔らかく、纏わりつくようだった。低く響く声が、風と一緒に耳の奥へ流れ込む。「俺ならどうかな」悠良は一瞬、自分の耳を疑った。本当に聞き間違いではないかと。しばらく固まったまま、ようやく言葉を絞り出す。「......今、なんて?」悠良がまるでお化けでも見たかのようにじっと見つめてくるので、伶は気まずそうに視線を逸らし、窓を軽く叩いた。「何でもない。降りよう」彼はもう玄関に向かって歩き出していた。悠良はそのときになってようやく我に返り、シートベルトを外して降車する。どこか魂の抜けたような足取りで入口へ。頭の中を占めるのは、さっきのあの言葉だけ。「俺ならどうかな」って、どういう意味......?別の方向に考えるのは怖かった。考えたことすらないからだ。自分と伶は、まるで違う世界の人間。それに、彼が自分を好きだなんて、とても思えない。あの地位と立場があれば、望む女性などいくらでも手に入るはず。何も、バツイチの自分を選ぶ理由なんてない。悠良は首を振り、その考えを必死に追い払った。きっと、あの人の本気じゃない。ただのからかいだ。ユラをからかうみたいに。そう思うと、さっきまで胸を締めつけていた重苦しさが一気に軽くなった。安心して室内に入り、扉を閉める。ユラは最初、伶を見ても特に反応しなかった。だが悠良を見るやいなや、嬉しそうに駆け寄り、飛びついてきた。犬は言葉を話せないが、その熱烈さは伝わってくる。彼女が犬を飼い始めたのも、ユラの存在があったからだ。ふと、実家に預けているムギのことを思い出す。元気にしているだろうか。あとで電話を入れてみよう。悠良は犬の頭を撫でながら、伶に問いかけた。「いつも何時くらいに寝てますか?」ちょうど上着を脱いでいた伶は、横目で淡く彼女を見る。「そんなに俺に寝てほしいのか?」悠良は気まずそうに鼻先を触る。「別に......ただ、このところあまり寝てないみたいだから、早めに休んだほうがいいかと思って」伶は小さく鼻で笑った。「俺が寝てる隙
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第414話

「こっちはもう少し戻れそうにないから、あの子のこと、しばらく頼んでもいい?」「大丈夫よ。あ、そうだ悠良、この前うちのことを調べてる人がいたの。そっちで誰かに探られてるんじゃない?」雅の言葉に、悠良は胸の奥に嫌な予感を覚えた。史弥なのか、それとも伶か。あるいは他の誰かか。「ごめん。私のほうで、何か手がかりを残してしまったのかもしれない」彼女たちの機関は完全に閉鎖的で、内部でさまざまな研究を行っているが、外部には一切公開されない。徹底した機密保持だ。そこで働いている者でさえ、家族にさえ口外は許されない。だから悠良は孝之にすら、自分の行動を話したことがなかった。雅は念を押す。「とにかく、そっちで調べてる人にやめさせたほうがいいわ。上から問題にされたら、悠良だけじゃなく私まで困ることになるよ」「わかった、ちゃんと対処する」そう答えて電話を切った。ユラと一緒にソファに座りながら、悠良は考える。自分を調べているのは、史弥か、それとも伶か。だが直接確かめるのは危険だ。下手に探れば、自分が暴露するも同然。史弥にはもう会うつもりはなかった。顔を見るだけで吐き気がするから。問題は伶――この人は史弥より百倍も手強い。少しでも言葉を誤れば、すぐに見破られるだろう。自分の目的を達する前に、彼の鋭い勘に暴かれてしまう。慎重に動くしかない。悠良は一階で十一時ごろまで過ごした。伶からメッセージが来て、ようやく二階へ上がる。ちょうど男が浴室から出てきたところで、身にまとっているのはバスローブだけ。しかも彼は一切気にする様子もなく、自然体のまま。広い胸板があらわになっていて、悠良は思わず深く息を吸った。目の保養だ。伶は椅子の上のタオルを手に取り、無造作に髪を拭く。「そんなに遠くからで見えるか?もっと近くで見ようか?」悠良はまるで現行犯で見破られたように慌て、視線を逸らす。「そ、それより......今日は、どんな曲を?」伶はソファに腰を下ろし、脚を組んでだらしなくくつろぐ。「先に言えよ。最近、何ができるようになった?」「えっと......先に寒河江さんの好きな音楽を教えてくれれば、それを覚えますから。あ、そういえば、この二日間で面白い話を読んだんだけど、聞く
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第415話

史弥は悠良の服装が乱れていないのを見て、ようやく安堵の息をついた。だが、その表情は依然として重苦しい。「ここで何をしている」悠良は、まさかこの場で史弥に会うとは思ってもみなかった。五年前にも、彼が伶の家に来ているところに何度か鉢合わせしたことがある。その頃の自分は立場が違っていて、彼を避けなければならなかった。だが今は違う。彼女は独身で、誰と一緒にいようと、誰の家にいようと、彼には一切関係ない。悠良は、相変わらず史弥に冷たい態度を見せた。「あんたに関係ある?」史弥は眉をひそめ、悠良の手首を掴む。瞳の奥には荒れ狂う波のような感情が宿っていた。「悠良......忘れるな。俺たちは夫婦――」「もう離婚したでしょう?今さら夫婦だなんて......あんた、酒で頭やられた?」悠良はこれ以上時間を無駄にしたくなかった。彼の顔を見ているだけで気分が悪くなる。「くだらないこと言ってないで。相手してる暇ないの」そう言って、彼女はドアを閉めようとした。だがその瞬間、史弥は素早く手を伸ばし、ドア枠を押さえた。「勘違いするな。俺はお前に会いに来たんじゃない。寒河江社長に用がある」悠良は伶が自分の叔父であることを知っているかどうか――彼にはまだ確信がなかった。だが、もし知らないのなら、あえて暴く必要もない。彼は悠良の仕事の能力をよく知っていた。伶に至っては言うまでもない。この二人が組んだら――まさに「虎に翼」というものだ。それでも、悠良に頭を下げさせる方法は一つしかない。なぜなら今の彼には、孝之というたった一人の親族しか残っていないのだから。もし他に選択肢があれば、わざわざ孝之を狙うこともなかった。悠良は、伶に用があると言われては、無理に追い返すこともできなかった。ここは自分の家ではないのだから。彼女は身を引いて、仕方なく中に入れる。史弥は口の端をわずかに上げ、得意げな笑みを浮かべた。踏み入ろうとしたそのとき、どこからともなく犬が飛び出し、一直線に史弥に突進した。勢いは凄まじく、史弥はそのまま床に叩きつけられる。犬――ユラは激しく吠え立てた。ユラは大型犬。普段は子羊のように大人しいが、本気で牙をむけば、人を怯ませるのに十分だ。史弥は顔を歪め
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第416話

彼は突然、悠良に歩み寄った。だがあまり近づくことはできず、声色は冷え切っていた。「お前、五年前にもここに来ていた?」悠良は犬とじゃれていたため、史弥の言葉の意味を深く考えずに聞き返した。「何の話?」史弥は、まるで頭の中で何かが繋がったような表情を浮かべ、独り言のように呟いた。「以前、玉巳が『悠良はここにいる』って言ってたけど、俺は信じなかった。何度かこの部屋に女がいるんじゃないかと疑ったこともあったが、調べさせても結局何も出てこなかった。だって、あいつの周りに女なんかいたことは一度もなかったからな」悠良は眉をひそめた。あれほど前のことを、彼が今でも覚えているとは思わなかった。しかし、そんなことを認めるつもりは毛頭ない。「あんた、いよいよ自分を欺くようになったわけ?自分の罪悪感や後悔を隠すために、私にも同じ罪を着せるつもり?」史弥はさらに追い詰めるように言葉を重ねる。「じゃあ誓えるか?お前と伶の間に何の関係もない、一度もここに来たことがないって、お前の父親にかけて誓えるのか?」悠良は唇を固く結んだ。誓うことはできない。因果応報という言葉を、彼女は信じているのだ。その逡巡を見て、史弥の疑念はさらに確信に変わる。彼は細めた瞳で悠良を鋭く射抜いた。「どうした、誓えないのか?ならお前に俺を責める資格なんてある?お前だって――」「白川社長、最近は会社のことで手一杯だったと聞いた。前妻を追いかけたいのは勝手だが、ここは君たちが昔を蒸し返す場所じゃない」階段の上から、低く響く、重圧を伴った声が聞こえた。その声を耳にした瞬間、史弥の背筋に悪寒が走る。思わず拳を握りしめるが、酒の勢いもあってか、なおも言い返した。「寒河江社長は今や相当な身代だろう?離婚した女と、こんな夜更けに二人きりでいたら......世間に広まって評判を落とすとは思わないのか?」伶はゆっくりと階段を降り、悠良の隣に立った。「評判?そんなもの、俺にあった?」その口調はぞんざいで、余裕に満ちていた。「もし復縁を狙って来たなら、日を改めろ。俺のベッドは狭い。三人も寝られない」悠良は思わず目を見開き、伶を振り返った。この男は、またしても妙なことを言い出す。三人も寝られないって......彼女と彼
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第417話

悠良はちらりと伶に目をやった。伶は相変わらず冷ややかな表情で、まるでこの件とは一切関わりがないかのようだった。だが、伶が干渉するかどうかは関係ない。悠良は史弥を一瞥し、そのまま彼の方へ歩み寄った。史弥の顔には喜色が浮かぶ。やはりそうだ、悠良の性格からして孝之を見捨てられるはずがない。それに自分の叔父の性格くらい、よくわかっている。気まぐれで、何を考えているのか常に掴めない。いくら身近にいても、理解できるものではない。悠良の気性では、とてもじゃないがあの男を御せるはずがない。史弥は目を細め、笑みを浮かべながら悠良の手を取ろうと手を伸ばした。だが、彼女はなかなかその手を取ろうとしなかった。次の瞬間、悠良の言葉が史弥を奈落へと突き落とす。「忠告しておくわ。さっさと諦めなさい。あんたみたいな人間と一緒になるくらいなら、一生独りでいた方がマシよ。あんたと石川がやらかした醜聞、今でも目に焼きついてる。吐き気がするほどよ。私がそんなクズを欲しがると思う?「やり直したい?笑わせないで。そんなことするくらいなら外で男のモデルでも雇うわ。お金さえ払えば、彼らは私を大事に扱ってくれるもの」その言い方は、史弥など男娼以下だと言っているも同然だった。史弥は怒りで頭が真っ白になり、額の青筋を浮き立たせて歯ぎしりする。「俺を馬鹿にしてるのか!」悠良は堪えきれず、くすっと笑った。「どうしてそう思う?さっきのどこに『やり直す』なんて言葉があった?どこで『あなたについて行く』って――」怒りに支配された史弥は、彼女の手首を乱暴に掴み、強引な口調で言い放った。「嫌がろうが構わない!今日こそは必ず連れて帰る!」七年も自分と過ごした女が、よりによって自分の叔父と寝るだなんて......想像するだけで、口にハエを詰め込まれたような不快感に襲われる。無理やり引きずられそうになり、悠良も表情を険しくして怒鳴った。「放して!あんたにそんな資格あると思ってるの?!」史弥は顔を歪め、さらに力を込めて自分の方へ引き寄せる。「資格?お前は生きていようが死んでいようが、白川家の人間だ!」悠良は唇を固く結び、反撃しようとしたその時、伶が彼女よりも早く前へ出て、無言で彼女を自分の胸に引き寄せると、もう片方
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第418話

史弥は悠良を指さし、目に悔しさをにじませた。「いいだろう......覚えておけよ、絶対に後悔させてやる!」悠良は最後まで我慢できず、きっぱり言い返した。「ご心配なく。私は一生、離婚したことを後悔なんてしないから!」その一言で史弥の怒りはさらに燃え上がり、バンッと大きな音を立ててドアを閉める。ユラも不満そうにワン!と吠えた。悠良は顔を横に向け、伶を見ながら遠慮なく問いかける。「さっき、どうしてあんなことを?余計に誤解されるでしょ。今のあの人、狂犬みたいにいつ噛みついてくるかわからないんですよ」伶は表情を変えず、細めた眼で階段の手すりにだらりと凭れ、長いシルエットを見せながら淡々と答える。「言わなかったら、あいつが素直に帰ると思う?」悠良は一瞬考え、なるほどと頷く。確かに史弥はそういう人間だ。きっぱりと諦めさせない限り、決して引き下がらない。今日だって、どうしても自分を連れて行くつもりだったはずだ。でも、たとえ伶がいなくても、自分は絶対について行くつもりはなかった。だから、人が去っただけでもう十分。「もう寝ましょう」伶はふと目を伏せ、問いを重ねた。「彼にバラされるのが怖くないのか?」「何を?私は今シングルですよ。誰と一緒にいようが、あの人には関係ないでしょ。それに、仮に相手が彼の叔父でも......あの男に口出しする資格なんてありません」そう考えるだけで、悠良の胸はすっと晴れやかになる。「もし私が史弥の叔父の彼女、あるいは奥さんになったら......あの人、私のこと『叔母』って呼ぶことになる。ふふ」想像するだけで気分爽快だった。これなら、彼は二度と復縁を口にできない。もししつこくまとわりついてきたら「変態!」と叫べばいい。そうすれば自分の手を下さなくても、誰かが勝手に裁いてくれる。伶は、笑みを浮かべる悠良を見て、少し身を屈めて耳元に囁く。「あいつの『叔母』になりたいのか?」熱い吐息が耳にかかり、悠良は驚いて思わず後ずさる。だが踵が後ろにいた犬に当たり、犬も彼女も一緒によろめいてしまった。犬はすぐに体勢を立て直したが、悠良はそうはいかない。足を滑らせ、そのまま後ろに倒れ込む。伶はほとんど反射的に彼女を引き寄せたが、結果的に一緒に倒れてしまった
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第419話

驚いたことに、自分でも伶を少しも拒絶していないことに気づいた。気分屋なところはあるけれど、この男は教養も容姿も体格も、文句のつけようがない。ただ、彼が自分を好きだなんて、勘違いするつもりはない。もしユラがいなければ......悠良がどうやってこの状況を切り抜けるか考えていると、再びノックの音が響いた。ユラはすぐに反応し、史弥が戻ってきたと思ったのか、伶の体から飛び降りて玄関へ駆けていく。その隙に悠良は彼を押しのけ、慌てて立ち上がった。さっき伶が自分の頭を庇って手を添えてくれたことを思い出す。もしそうじゃなければ、あの高さから真後ろに倒れたら脳震盪くらいじゃ済まなかったかもしれない。伶がドアを開けると、ユラは人影を見るなり外へ飛び出そうとした。「ユラ、戻れ!」低く一喝され、犬は素直に足を止めて引き下がる。その様子を見て、悠良は妙な既視感を覚えた。あれほど大きな犬なのに、伶の前ではまるで小さなポメラニアンのようだ。大型犬というより、完全にペット扱い。でも自分の前ではやたら横柄で......いや、きっと伶の前で好き勝手できる者なんてほとんどいないだろう。伶は受け取ったデリバリーに「ありがとう」と一言言ってドアを閉めた。閉めた瞬間、香ばしい匂いが部屋中に広がり、悠良のお腹がタイミング悪くぐうっと鳴った。「どこで食べる?」伶が尋ねる。悠良はちゃぶ台を指差して答えた。「ここにしましょう」海外で必死に働いていた数年。史弥との経験から、悠良は悟っていた。男に頼ることは、結局いつか自分を後悔させるだけだと。貧しくても裕福でも、自分の人生を他人の手に握らせてはいけない。史弥が機嫌よければ宝石を買ってくれ、美味しいものを食べさせてくれた。けれど気持ちが他の女に向いた瞬間、自分は簡単に捨てられ、玉巳といちゃつく姿を見せつけられる羽目になった。あの時間は地獄だった。けれど結果的に今、苦しんでいるのは史弥の方。それでも足りない。もっと苦しませてやらなきゃ。伶は焼き肉をちゃぶ台に置くと、冷蔵庫に向かった。「何か飲むか?」「ジュースで」悠良は即答した。酒を飲む気はなかった。二人きりの夜に酒......余計なことが起きそうで怖い。まして今の状況では、
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第420話

けれどこの味は、どこか懐かしい。悠良の瞳が一瞬きらりと輝いた。思い出したのだ。「この焼き鳥......A大の正門前にあった屋台?」「ああ」悠良の胸が弾む。「やっぱり!ここの味、本当に美味しいんです。でも、どうして寒河江社長がこの店のことを知ってるんです?」伶は気まずそうに眉を上げた。「本当に、覚えてないのか?」「え?」悠良は首をかしげる。この焼き鳥と彼に、一体どんな関係があるというのだろう。「どうして君がこの屋台を好きになった?」その言葉に、悠良の記憶が呼び起こされる。「当時、A大の正門前に焼き鳥なんてなかった。学生は夜間、校外に出られませんでしたから。でも史弥が、私が焼き鳥好きだって知ってて、わざわざ遠くの屋台を移転させてきたんです。毎月補助までして。食べたくなると、彼が塀を乗り越えて取りに行ってくれました。でもその後、店主の家に事情ができて、屋台はなくなってしまったんです。この何年も、いろんな店で食べ比べましたけど......やっぱりあそこを超える味には出会えなかった。まさか今日また食べられるなんて。寒河江社長のおかげですね」悠良は嬉しそうに食べ続け、伶の瞳に宿った光が少しずつ陰っていくことには気づかなかった。彼は眉を寄せ、低く問う。「本当に白川が?」「ええ、そうですけど......どうかしました?」伶は鼻で笑った。「なるほど。あいつ、ずいぶん計算高いな」「?」「いや。いずれ分かるさ」悠良は今夜の彼がどこか妙だと感じつつ、深く追及はしなかった。焼き鳥を食べ終えた頃には、すでに夜中。片付けを終え、悠良は彼に話をしてやっているうちに、逆に自分が眠り込んでしまった。伶はまだ眠れずにいたが、隣から聞こえる穏やかな寝息に気づく。淡い灯りに照らされた横顔。長い睫毛の下に落ちる影が、月のように弧を描いていた。彼の唇が自然に言葉を紡ぐ。「一体誰が誰を寝かせようとしてるのか......」*その頃、伶のマンションを出た史弥は、怒りに任せてハンドルを叩きつけていた。運転席に座る杉森が慌てて彼を制し、そのまま車を発進させる。帰り道、玉巳からの着信がひっきりなしに鳴り続ける。だが今の史弥は頭に血が上っていて、応じる気分ではなかった。悠良と伶が
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