外から一人のスーツ姿の男がすぐに入ってきた。宏昌は見知らぬ男を目にして、思わず問いかける。「悠良、こいつは」その呼び方に、悠良は内心少し笑いそうになった。雪江はもちろん、宏昌までもがまるで芝居をしているようだった。小林家の内輪揉めが外に漏れて評判を落とすのを恐れ、自分の体面のために急に親しげに振る舞っているのが見え見えだ。悠良は淡々と紹介する。「こちらは岩本さん。父の離婚案件を専門に扱ってくださる方。雪江、安心していいわ。あなたを脅かすつもりなんてないから。法律にはちゃんと決まりがあるし、私個人がどうこうできるものじゃない。信じられないなら、自分で調べてみればいい」そう言って、彼女は軽く岩本に目配せをした。岩本(いわもと)は一枚の書類を雪江の前に差し出す。「状況を踏まえて、この資料が比嘉さんの疑問すべてに答えるはずです」雪江は半信半疑のまま書類を受け取り、最後まで目を通す前に瞳孔を大きく見開いた。「あり得ない......これは嘘よ!私はもう調べたの。もし精神に問題があると判断されれば、遺言は本人の独断で決められないって!」岩本は冷静に説明する。「ですが、法律上は明確に定められています。意識が混濁している、もしくは過去の行為から精神に重大な問題があったと立証できない限り、小林孝之氏の遺言は有効です」雪江の表情は凍りつき、口から機械的に同じ言葉が繰り返し漏れる。「あり得ない......そんなの絶対にあり得ない......きっと嘘よ!悠良、小林家の財産を全部独り占めしたくて、こんな詐欺師を連れてきたんでしょ?そんなでたらめ、私が信じるとでも思ってる?」悠良は肘をついて、頬杖をつきながら冷めた口調で返す。「信じなくてもいいけど......彼の言葉は裏を取ればすぐ分かるわ」岩本はさらに一歩前に出て、名刺を差し出した。「もし信じられないなら、いつでも調べてください。うちは正式な事務所です」俯いたまま名刺を受け取り、印字された事務所名を見た瞬間、雪江の目が驚きに見開かれる。青山法律事務所。「......あなたは、青山の?」岩本はうなずいた。「はい。青山の者です。青山は業界でもかなり知られていますから、比嘉さんも耳にしたことはあるでしょう」その言葉を聞いた瞬間、雪江の頭は
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