明日香は、ベッド脇の引き出しから資料を取り出した。「ずっと前から、この件を調べてたの。仁志の目と耳を盗みながらやってたから時間はかかったけど、それでも役に立つ情報はいくつか手に入れてるの」彼女は少し間を置き、朝陽に視線を向ける。「今の私の状況、あなたももう知ってるわ。株式を奪われ、忠と同じように、実権も失ったの。これから先、星に対抗するのは、正直もう難しいでしょう。だけど、この資料は――それでも私に会いに来てくれたあなたへの、ささやかなお礼だと思って」明日香の元を後にした朝陽は、なぜか気分が良かった。渡された資料は、極めて重要なものだった。認めざるを得ない。明日香は、彼がこれまで出会った女性の中でも、知性だけなら間違いなく三本の指に入る。星と仁志さえいなければ、彼女が雲井家の当主の座を手にするのも、時間の問題だったはずだ。帰宅すると、朝陽はそのまま書斎へ向かい、明日香の調査結果を丁寧に読み込んでいった。仁志は戻ってきてから三か月もの間、傷を癒していた。それだけでも、負った傷の重さが想像できる。明日香の調べによれば、仁志が回復して三か月後、長年内戦が続く小国で、いくつかの軍閥一族が突然、凄惨な死を遂げている。その死に様はあまりにも残酷で、報復だと噂されていた。明日香は、この死が仁志と関係しているのではないかと疑っていた。もちろん、あくまで推測に過ぎない。時間が経ちすぎて、今さら痕跡を追うのは難しい。彼女はさらに、その軍閥たちの動向も調べていた。現地を牛耳る存在で、メコン・デルタの宮崎兄弟と比べても、劣るどころかそれ以上の力を持っていた。明日香は朝陽に提案する。「仁志のほうに、こちらから刺激を与えられるの」さらに、怜央が星を連れ去った一か月間も利用できる、と。その提案を聞き、朝陽は少し驚いた。「航平も星を拉致したことがあるのに、なぜ怜央の件を使うんだ?」明日香は、どこか不思議な笑みを浮かべる。「怜央って、とても極端な人なの。悪事を働く時は、絶対に手加減しない。だけど誰かを好きになった時は、その人に全てを捧げるの。その落差は、きっと星の心に痕を残しているはず。私の知ってる怜央なら、一ヶ月二人きりで過ごしても、星の気持ちを無視して無理強いするようなことはしない。星は彼を許せない。
Read more