「…………葵、今話を聞いてきたよ」私たちの会話が聞こえたのか定かではないが、書架の影からキリアンが静かにまた姿をあらわした。キリアンの声は、私たちの間に流れる重い空気をそっとかき消すようだった。アゼルの悲しみに満ちた瞳と、キリアンの落ち着いた表情。二人の王子に挟まれ、私はただ立ち尽くしていた。 「リリアーナ王女には、葵のことを医療問題を解決するために呼んだ博識者で、先日命を狙われることがあったから、安全を守るため身を隠していると説明しているみたい。」 「事実と嘘をうまく入れ込んだな。それっぽく聞こえる」 キリアンの説明にアゼルは感心しながら頷いた。 「だから、葵には王宮内の宴や公務には出ないし今までどおりが一番だけれど、屋敷の中で万が一、王女と会っても問題はないよ。」 「分かった、二人とも心配してくれてありがとう。」 「あ、ああ……」 二人が来てくれたことが嬉しくて、二人の目を見て微笑んでお礼を言うと、アゼルはどこか戸惑ったようなぎこちない返事をした。キリアンもいつもより短くて素っ気ない言
Last Updated : 2025-08-10 Read more