アゼルと葵がキスをした。アゼルの無事を知り、安堵したのも束の間、アゼルが口にした「口移しで水や薬も飲ませてくれた」という言葉は私の心を容赦なく切り裂いた。薬を飲ませるためという理由があったとしても、あの小さくて可憐な葵の唇が、他の男、それも私の弟であるアゼルに触れたかと思うと平常心ではいられなかった。胸の奥から形容しがたい熱い塊が込み上げてくる。それは、嫉妬と、そして強い独占欲のような感情だった。翌朝、食堂でのことだ。ルシアンがまたしてもその話題に触れた。「アゼルと葵がキスをしたって、本当?」ルシアンの悪戯っぽい声が響き、私の神経を逆撫でする。アゼルが「ああ、本当だ」と認めた時には、理性で押さえつけていた感情が再び喉元までこみ上げてきた。「へー、葵は何度もしたことは否定するけど、キスしたことは否定しないんだね」ルシアンの意地悪な指摘に葵が顔を赤くして言葉に詰まっているのを見るたび、私の胸は苛立ちに締め付けられた。だが私の平静を最も乱したのは、その後のルシアンの発言だった。「でも、僕たち夜の庭で抱き合った仲だもんね」その言葉を聞いた瞬間、私の心臓は嫌な音を立てた。(抱き合う?ルシアンと葵が?アンナ王女が訪問する前夜に?一体、どこまでの仲なのだ。挨拶のような軽いハグなのか
Last Updated : 2025-08-01 Read more