All Chapters of 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~: Chapter 91 - Chapter 100

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91.焦がれる想いと平静を乱す嵐

アゼルと葵がキスをした。アゼルの無事を知り、安堵したのも束の間、アゼルが口にした「口移しで水や薬も飲ませてくれた」という言葉は私の心を容赦なく切り裂いた。薬を飲ませるためという理由があったとしても、あの小さくて可憐な葵の唇が、他の男、それも私の弟であるアゼルに触れたかと思うと平常心ではいられなかった。胸の奥から形容しがたい熱い塊が込み上げてくる。それは、嫉妬と、そして強い独占欲のような感情だった。翌朝、食堂でのことだ。ルシアンがまたしてもその話題に触れた。「アゼルと葵がキスをしたって、本当?」ルシアンの悪戯っぽい声が響き、私の神経を逆撫でする。アゼルが「ああ、本当だ」と認めた時には、理性で押さえつけていた感情が再び喉元までこみ上げてきた。「へー、葵は何度もしたことは否定するけど、キスしたことは否定しないんだね」ルシアンの意地悪な指摘に葵が顔を赤くして言葉に詰まっているのを見るたび、私の胸は苛立ちに締め付けられた。だが私の平静を最も乱したのは、その後のルシアンの発言だった。「でも、僕たち夜の庭で抱き合った仲だもんね」その言葉を聞いた瞬間、私の心臓は嫌な音を立てた。(抱き合う?ルシアンと葵が?アンナ王女が訪問する前夜に?一体、どこまでの仲なのだ。挨拶のような軽いハグなのか
last updateLast Updated : 2025-08-01
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92.新たな波乱、ルーウェン王女の来訪

ゼフィリア王国との一件が落ち着き、王宮にようやく穏やかな空気が戻りつつあった頃、バギーニャ王国に新たな隣国からの訪問話が舞い込んできた。今度の相手は、以前からの友好国であるルーウェン王国だ。国王からの書簡には、親睦を深めるために王女を派遣したいと記されており、その裏には、将来的にサラリオ王子の妃として、両国の絆をより強固にしたいという意図が明確に見て取れた。ゼフィリア王国の時とは異なり、何人かいる王女の中でも今回は第一王女のリリアーナ王女のみの訪問。しかも、書簡には明確にサラリオ王子の名を記載しての縁談であり、相手国の本気度がひしひしと伺えた。「キリアン、縁談の話って頻繁になるものなの?」ある日の午後、王宮内の書架で誰もないことを確認してから、私はキリアンにそっと尋ねた。書架の間に差し込む柔らかな光が、彼の銀色の髪をきらめかせている。「あんまりないよ。特に、国王陛下とサラリオ兄上のような、国の中心となる皇族に関してはね。ただ、偶然なんだけれど、バギーニャ王国の周辺の国は、王家の正当な血筋の者は王女しかいないんだ。いてもすごく歳が離れていたり、リオやレオンみたいにまだ幼くて。僕たちの年代で、男の皇族がいないから話が上がりやすいんだよね。男性がいれば、国内同士の結婚もあるよ」キリアンは、いつものように落ち着いた声で、丁寧に説明してくれた。彼の言葉は、常に論理的で分かりやすい。「そう、なんだ……」私は、彼の言葉を聞きながら、国の繁栄のためには、男女が揃い、子をなすことがいかに重要かという、普遍的な事実を改めて実感した。不妊治療や先進医療などないこの時
last updateLast Updated : 2025-08-01
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93.常に思っているside葵

リリアーナ王女が来訪が決まったある日、私はサラリオ様から執務室へ呼ばれた。「ゼフィリア王国の一件もあるため、王女が訪問している間は、葵に関する変な噂が流れたりしないように、公の場に姿を見せない方がいいと考えたのだがどうだろうか?」前回のこともあり、私を守るために事前に説明し、意見まで求めてきてくれたことが大事にされていると感じて嬉しかった。「誤解がないように言っておくが、これは葵を守るためだ。決して葵のことを悪く思い、隠したいわけではない。私は常に葵のことを思っている。」彼の瞳が私を真っ直ぐに見つめる。その澄んだ碧色の瞳には嘘偽りのない誠実さが宿っていた。『私は常に葵のことを思っている。』その言葉が私の胸を熱くさせた。まるで愛の告白のように聞こえて頭の中をこだまする。胸がバクバクと大きな音を立て、頬に熱が集中していくのを感じた。そして、その戸惑いは声に漏れた。「常に……ですか。」自分でもわかるほど上ずった声と、真っ赤にしている私を見てサラリオ様は一瞬だけ目を見開き無言になってしまった。(ああ……。私ったら勘違いしてしまった。サラリオ様は王国の長として皆の安全を守るのが使命だもの。安全に過ごせるように考えているとい
last updateLast Updated : 2025-08-02
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94.常に思っているsideサラリオ

「今度こそは誤解がないように、葵を不安にさせないようにしなくては。」王女訪問を間近に控え、葵を執務室に呼び寄せた。「ゼフィリア王国の一件もあるため王女が訪問している間は、葵に関する変な噂が流れたり、良からぬことを考える者が出ないように、公の場に姿を見せない方がいいと考えたのだが、どうだろうか?」前回の失敗を繰り返さぬよう慎重に言葉を選んだ。「誤解がないように言っておくが、これは葵を守るためを思ってのことだ。決して葵のことを悪く思い、隠したいわけではない。私は常に葵のことを思っている。」その瞬間、葵の頬がふわりと赤くなる。「常に……ですか」恥ずかしそうにそう呟いた。私の言葉が特別な意味合いで彼女に伝わってしまったのだと察し、私は内心で激しく動揺した。そしてある想いが頭をよぎる。(国務の一環として説明したつもりだったが、このまま自分の思いの丈を伝えてしまいたい……。安全を守るためという理由だけではなく一人の女性として、葵のことを強く、強く想っている。そう伝えるのはどうだろうか。)言葉を続けることができず私は黙り込んでしまった。私を見つめる葵の瞳は、戸惑いと、ほんの少しの期待を秘めているように見えた。「ご配慮いただきありがとうございます。訪問時の件、承知いたしました。」無言の私に葵は感謝の言葉を述べにっこりと微笑んだ。その笑顔を見た瞬間、私の心の奥底に抑え込んでいた感情が、爆発しそうになった。(本当は、葵が誰にも触れられぬよう自分だけのものにして隠しておきたい。彼女をこの胸の中に引き寄せて、私の手で葵を幸せにしたい)今すぐにでも葵を抱きしめたい衝動に強く駆られた。彼女の笑顔は、私の心に温かさとそして苦しいほどの切なさを同時に与えていた。
last updateLast Updated : 2025-08-02
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95.月夜の訪問、二人の恋路

「私は常に葵のことを思っている」あの言葉を葵に伝えて以来、私の心は落ち着きを失っていた。執務が一息ついた時も、休憩中に窓の外を眺めている時も、そして夜、ベッドに入り目を閉じた時も、ふとした瞬間に葵のことを思い出していた。葵が、私の言葉に戸惑いながらも頬を赤らめて「常に……ですか」と呟いた表情が、何度も何度も脳裏に蘇る。あの時、葵は本当に私からの愛の告白を待っていたのではないだろうかーー彼女の瞳に宿っていた微かな期待の光を感じ取っていた。(もしかしたら、この気持ちを正直に伝えたら葵は頷いてくれるかもしれない。)そんな淡い希望が私の胸に燃え始めていた。ルーウェン王国のリリアーナ王女が来訪するまで、あと一週間と迫っている。今回の訪問の真の目的が、私と王女の縁談であることは明らかだった。王として国の繁栄を考えるならば、この縁談は最善の選択かもしれない。しかし、もし縁談が成立してしまえば、この先、私は永遠に葵の側にいることができなくなってしまう。国の王として、私はこの縁談を受け入れるべきなのか?それとも、一人の男として自分の心に従うべきなのか?理性と感情が激しくせめぎ合う。夜になり月の
last updateLast Updated : 2025-08-02
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97.愛の告白、通じ合う想い

「縁談の話が来てから、ずっと考えていた。もしも成立して王女が来たら、葵が王宮内にいることはできても、私の手で葵のことを護ることも、幸せにすることも出来なくなる。今でもアゼルやルシアンたちが、葵とキスやハグしたと聞くだけでも面白くないのに、王女が嫁いで来たら、この先ずっとこのモヤモヤを抱えて生きていくかと思ったら、耐えられなかった。」アゼルやルシアンたちへの嫉妬……。普段、言葉や顔に見せないサラリオの本心を聞けて心が揺れた。「サラリオ様…それって……」「私は、葵が好きだ。一人の女性として愛している。出来れば、私自身の手で葵を幸せにしたい。そして、ずっと側にいて欲しい、そう思っている」夢でも見ているようだった。現実なのか、それともあまりにも都合の良い夢なのか、頭が上手く理解できない。しかし、もしこれが現実だとしたら、こんなに嬉しく、心が震えることはないと思った。「ありがとうございます。……嬉しいです。」私の返事に彼の表情が少しだけ緩んだ。その瞳には、安堵の色が浮かんでいた。しかし、すぐに申し訳なさそうな表情をして言葉をつづけた。「今回は、今の時点で断るのは友好関係が悪くなる可能性があるため迎えるつもりだが、縁談自体は断りたいと思っている。そのためには国王への提言など、少し時間がかかる。もし、私のことを信じてもらえるなら、気持ちがあるなら、平和的にこの件を終わら
last updateLast Updated : 2025-08-03
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98.触れる唇、初めて知る愛のカタチ

(このまま、ずっとこうしてサラリオ様の腕の中に抱かれていたい…)サラリオの胸の鼓動や体温、吐息を感じながら抱きしめられると、まるで時間が止まったような不思議な気持ちになった。触れられることに自然と恐怖はなかった。それどころか、自分はずっと前からこの時を待っていたのではないかと思うくらい、穏やかで心落ち着く幸せな気持ちになった。アゼルやルシアンに抱き寄せられた時は驚きと緊張で心臓が跳ね上がったが、今は磁石の法則かのように自然と、ぴったりとくっつていった。「サラリオ様……」自分の気持ちと同じことを相手も想っている。通じ合えた喜びに抑えきれない気持ちが込み上げ、気がついたら瞳は潤んでいた。頬はきっと、熱を帯びて紅潮しているだろう。私は静かに顔を上げてサラリオ様の澄んだ碧い瞳を見つめた。彼は、そんな私を優しく、愛おしそうに見つめ返してくれる。視線が交わった瞬間、私の視線は彼の口元へと引き寄せられていた。サラリオ様は、私の視線と気持ちに気がついたようで大きな手で私の頬を優しく撫でた。顔が、ゆっくりと、ゆっくりと近付いてくる。私は、目を閉じてその瞬間を心待ちにした。やがて、柔らかな唇が触れ合い、互いの温かさを確かめ合うように動かし合う。先日のアゼルとの口移しのキスとは全く違う、優しく、深い愛情に満ちたキスだった。
last updateLast Updated : 2025-08-04
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99.愛の誓い

サラリオ様の唇が、私を愛おしむかのようにそっと触れてくる。傷を癒す猫が毛づくろいするように、ゆっくりと優しく私の上唇や下唇、そして舌を包み込んでいく。滑らかに舌と唾液が混ざり合う熱を帯びた優しいキスだった。互いの熱を共有し、私たちが互いに抱く深い想いを言葉を超えて伝えているようだった。唇と舌が苦しいほどに情熱的に交わる、でも離れがたくて、少し隙間があくと埋めあうようにぴったりと重なり合い、声にならない吐息がこぼれる。「サラリオ様……」虫の鳴くような、小さく漏れた私の声だったが、目の前にいるサラリオ様の耳にはしっかりと届いたようで、彼はハッと我に返ったように、ゆっくりと身体を離した。少し乱れた息と紅潮した頬で視線を左右に動かし、情熱の赴くままに動いた自分に対して少し動揺しながらも冷静を取り戻そうとしている。「すまない、今日は気持ちを伝えるだけのつもりだったんだ。だが、葵を見たらつい……。でも、私の先程の言葉に嘘・偽りはない。私のことを信じて待っていて欲しい」彼の言葉には、自らを抑えきれなかったことへの戸惑いと、それでも私を愛し、守りたいという強い決意が滲んでいた。碧い瞳は、先ほどまでの情熱的な光から真摯で誠実な光へと戻っていた。しかし、その瞳の奥には、変わらぬ私への想いが深く宿っているのが見て取れる。「はい、サラリオ様のことを信じています。私も、嘘・偽りはありません」
last updateLast Updated : 2025-08-04
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100.過去との決別と夫の幸せを願う気持ち

気持ちが通じ合えば、交際や結婚ができる世界ではないことは私もよくわかっている。ましてや、サラリオ様は次期国王となる存在で隣国からも縁談の話が絶えない。私を選んでくれたことは幸せなことだったが、この先には課題も問題も山積みだ。身分の違い、噂、そして王女の来訪……。それでも、こうして、私の元まで来て気持ちを伝えてくれたことが、何よりも嬉しかった。真剣に向き合おうとしてくれるサラリオ様のために、私が出来ることを探して、今後も影ながら支えたいと心から思った。(幸助さん、私がいなくなり、もし自由の身になったのであれば、どうか佐紀さんとの幸せをお祈りします。)届かないとは思いながらも、遠く離れた故郷にいる元夫の幸せを願い、私は静かに瞳を閉じた。そして、もう二度と、この温かい腕から離れまいと、心の中で強く誓った。 そして、ふと日本にいた時の夫、幸助さんの顔が頭をよぎった。幸助さんは、佐紀さんという女性と互いに好いて想い合いながらも、私との政略結婚のせいで結ばれることができなかった。あの時は、家のために嫁いで、幸助さんのために身を捧げるつもりでいたのに、彼に拒否されたことに大きなショックを受けた。しかし今、幸助さんと佐紀さんのように私とサラリオ様の関係も悲しい結末をたどる可能性もあるのだ。そんな結果を迎えても、結婚後も妻に指一本触れることなく、想い人に一途に愛情を捧げた幸助さんは、誠実で優しい人だったのだと心からそう思えた。
last updateLast Updated : 2025-08-05
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