電話に出るなり聞こえてきた声はゾンビのような女のうめき声だった。「あ……あ、あー、あ────」 思わずスマホを放り投げそうになるも、どことなく聞いたことがある声で、自分の勘が正しいのか、電話の向こうへ問いかけてみた。「まさかとは思うが……滝沢か?」「そ、そそうそう、そう。滝沢です」 かなり焦った様子だ。なにか危険な事にでも巻き込まれたのだろうか?「落ち着いて話せ。何があった?」「す、す、スマホ」「スマホ?」「しゅしゅ、しゅうりにき、きた」 話している内容があまりに端的で、話の概要が見えてこない。「スマホの修理をしに行ったのか。そこで何かあったのか?」「そ、そう、で、でも、は、話し、がつ、通じなくて、た、たすけてほしい」 いつにもまして、言葉が出てこない様子だった。 それだけ滝沢を焦らせる何かがあったのだろう。 とりあえず、俺に何かしら助けてほしい事がある。と言うところだけは理解できた。「俺は、どうすればいいんだ?」「え、駅前の、こ、コウシュ────」 そこまで聞き取れた所で、ブーというブザー音と共に同時に通話が切れ、ツーツーという電子音が鳴り響く。「なんで切ったんだよ」 まあいい。どうして欲しいのかはだいたいわかった。 おそらく、スマホの修理に行って何らかのトラブルにあったから助けてほしい。そういう事なのだろう。 途中で通話が切れてしまったけれど、滝沢が俺に伝えたかったのはおそらく、『駅前のコウシュ──に来てほしい』と言うことだと推察できる。 コウシュ──とは公衆電話から着信があったことから、公衆電話だと推測するのは容易だ。 もうすぐ夕飯だっていうのに。「ったく、しょうがねえなあ」 玄関横にぶら下がっている自転車の鍵を掴み取り、キッチンの方角に向かって叫ぶようにして言った。「母さん。ちょっと出かけてくるから、先にご飯食べてて」 母さんからの返事が返ってくる前に玄関を出た。 小言を言われるのは滝沢ではなくこの俺だ。たまったもんじゃないからね。 ─────────────────────── できるだけ急いでペダルを漕いで、やってきたのは平和台駅だ。携帯ショップに修理をしに来たと言っていたから、この辺りで携帯ショップと言えば平和台駅なのだ。 おそらく滝沢はこの周辺の公衆電話の近くに潜伏しているはずだ。
Last Updated : 2025-06-30 Read more