学園祭当日を迎え、当初やる気のなかったクラス面々の面影はなく、みな活力にみなぎっていた。 率先して導線を確認するもの、最後に掲示物の配置にミスはないかと確認をするもの、シフトを確認して、一緒に回ろうと計画を立てるもの。 クラスTシャツの背中に刻まれた『結束』をその行動で示していた。 まあ、俺だけはクラスの輪から外れてそんな光景を眺めているのだけれど。 あの凛ですら、輪の中にいる。凛を見ていたら目があって、控えめに手を振ってきた。 それにはなんの反応もかせさずに目をそらすすと、他の人物と目が合ってしまった。 どうも怒っているようで、うっすらと赤いオーラが包んでいるように見えた。「あなただけ掲示物がないみたいなんだけど、どういう領分かしら?」「安心しろ。それならとっておきを用意したから」 結局、俺は当日までに推しについての何かを用意することはできなかった。 考えれば考えるほど、何を好きなのか、心の拠り所にしているのかがわからなかった。 強いて言えば浮かぶ顔はあったけど、それを推しと言うのは違うと思った。「何がとっておきよ。どうせ何も出さないで、誤魔化して逃げるつもりなんでしょう?……小さい頃のけんちゃんがそうだったからよくわかるわ」 まあ、吉岡ならあり得るだろうなと思いつつもディスるのはやめた。なにせ吉岡大好きな陽川である。 仕返しが怖い。「それがそうでもないんだな。きっと、けんちゃんは喜んでくれると思うぞ」 あえて吉岡とは呼ばず、陽川の呼び名でそう呼称してみると、陽川は少し目を細めた。「どういう意味よ?」「それはあとのお楽しみってことで」 そう言って、俺はその場をあとにしようとした。 すると、後ろから肩を掴まれた。 半ば強引に振り向かされると、真剣な表情で陽川は言った。「展示に関しては、最悪、ほんっとうに何もなかったとしてもあなたを咎めたりはしない。でも……ちゃんと答えは出してあげなさいよ」 今日と明日で何が起こるのか、陽川は知っているようだった。 いや、そうだよな。それは当然だ。 班分けの時点から始まっていたことなんだ。 俺は「ああ」とだけ返事をして、陽川の手を優しく払った。 そして、一人で廊下に出た。 他のクラスも搬入やらがギリギリになってしまったところもあるようで、デカい緑色の水桶みたいなものが早足で駆
Last Updated : 2025-09-11 Read more