All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 271 - Chapter 280

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第271話

月子は言った。「おばさん、私の言うことが耳障りなら、自分の発言を改めたら。こっちもあなたの話すことなんて聞きたくないけど」理恵は絶句した。彼女は相当頭にきたらしく、数秒沈黙した後、電話を切った。月子は冷ややかにスマホを見つめ、目には氷のように冷たさが浮かんだ。洵も初めは怒っていたが、月子の反撃で少しは気が晴れた。そして、彼はさらに月子の変化に驚いてもいた。離婚してから、月子は本当に変わった。攻撃的になったのだ。これはまさに洵が望んでいた変化だった。「少し心配してたんだが……」すると、月子は急に顔を上げて言った。「やっと私のことを心配してくれるようになったのね」それを聞くと、洵の顔はこわばった。「自意識過剰だな」月子は彼を見つめた。「なぜ私がやったって反論させてくれないの?」洵は言った。「反論する必要なんてないだろ。彼女がお前を馬鹿にするからって、自分がすごいって証明する必要があるのか?そんなことしたら、相手の思う壺だ!たとえ証明したところで、ああいう人間は、また別の理由で馬鹿にしてくる。お前を馬鹿にし続けることで、自分の優越感に浸ってるんだ。お前の優秀さを認めることなんて絶対にない。だから、そんな人のために何かする必要はない」洵は他人にいいようにされるような男ではない。むしろ腹黒く、ずる賢い。「彼らを翻弄してやる方がましだ。多少悪口を言われたって気にしない。だが、本当に頭にきたら、徹底的に潰してやる」そう言うと、洵は月子を見てニヤリと笑い、手を差し出した。月子は不思議そうに聞いた。「何?」「ハイタッチだろ」珍しく洵が笑った。そう言うと、彼の冷たく鋭い目元が少し和らぎ、少年のような雰囲気になった。澄んだ瞳には、未来への希望に満ちた力強い輝きがあった。月子は離婚してから、人生がどんどん好転しているように感じた。そう思うと、月子も手をだして、「パン!」と洵と勝利を祝うハイタッチをした。「これで一件落着ね」月子の冷たい目元に鋭い光が走った。彼女は、守りたいものと人を必ず守るのだ。洵も便乗するように言った。「大勝利だな。すべてお前の手柄だ」月子は洵の褒め言葉を素直に受け入れた。……洵は姉が生活用品を用意してくれたにもかかわらず、クールな弟キャラを貫き、泊まることはなかった。そし
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第272話

鳴のセキュリティレベルは相当高いのに、月子にとっては簡単に見破れるなんて、考えるとゾッとするな。陽介は尋ねた。「鳴は懲りただろうな?」洵は鳴を笑う代わりに、尋ねた。「もしこれが姉さんから俺たちに向けられた攻撃だったら、どう思う?」「たまげるよな。まるで時限爆弾だ。月子さんの攻撃は防御しても無駄だから、なすすべもなくやられる。怖くって、もう、大人しくするしかないだろ!」洵は言った。「だから、鳴ももう懲りたはずだ」陽介は少し皮肉っぽく言った。「急に『姉さん』とか言い出すなんて、甘えてるのか」洵は鼻で笑った。「どうした?羨ましい?」陽介は軽蔑したように言った。「そうだよ、そうだよ。お前は今、完全に彼女のおかげで威張ってるんだろ」「それがどうした?お前にも姉さんがいれば、同じようにできるだろうが」「……うせろ」洵には、実は真面目な話があった。「Sグループのことを調べてくれ」隼人が自分の姉に言い寄っているため、洵は警戒せざるを得なかった。まずは情報収集からだ。隼人に直接聞く気はない。正直に答えるかどうかは別として、下手に探りを入れると、自分が本気で彼を調査していると勘違いして、自信満々になって、簡単に月子を落とせるとでも思われかねない。実は昨夜、それとなく月子に探りを入れてみたのだが、月子は隼人のことをただの社長、上司としてしか見ていないようだった。彼女がまだSグループに残っているのは、仕事が比較的楽で、会社のデータベースを自由に使えるからという理由のようだ。つまり、Sグループを論文作成ツールとして利用しているだけなんだ。……翌日の出勤日。陽介は洵のオフィスに飛び込んできた。仕事中の洵を上から下まで見て、不思議そうに尋ねた。「お前はゲームのことしか頭にないのに、なんで急にSグループのことなんて気にするんだ?」洵は彼を一瞥し、パソコンの画面を見ながら言った。「姉さんがそこで働いている」陽介は疑わしそうに言った。「はあ?今まで見向きもしなかったのに、なんで今更調べる気になったんだ?」洵は面倒くさそうに言った。「単刀直入に言え」陽介は資料の束を彼の机に放り投げた。「Sグループは設立5年で、時価総額20兆円を超えている。複数の高付加価値分野でトップの地位を占めていて、技術とデジタル化が強みだ。つまり、Sグ
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第273話

陽介は尋ねた。「大体そんなところかな。他に何か聞きたいことはあるか?」洵は表情を強張らせながら言った。「Sグループの社長の名前は鷹司隼人だ」「知ってるのか?どこで知ったんだ?鷹司社長に会ったことがあるのか?」陽介は隼人に強い興味を抱いていた。Sグループは世界規模の巨大企業だ。自分たちの小さなゲーム会社とは比べ物にならない。もし鷹司社長に会えるなら、大変光栄なことだ。しかし、陽介はそんな非現実的な夢を見るつもりはなかった。洵は陽介が調べた資料に目を通した。業界を揺るがすようなニュース記事の数々に、彼は混乱していった。資料を握りしめ、なかなか状況を飲み込めずにいる。洵が何も言わないので、陽介は放っておくことにした。オフィスを出たところで、見知らぬ番号から電話がかかってきた。洵は普段、ゲーム開発の進捗管理ばかりで、細かいところにまで目を光らせている。一方、陽介は対外的な業務を担当することが多く、知らない番号からの電話にも出るようにしていた。電話に出ると、アナウンサーのような落ち着いた低い声が聞こえてきた。「もしもし、Sグループ副社長の山本賢です」相手の話の内容はさておき、声のトーンと響きだけで、只者ではないと感じさせた。そう感じていると、相手から「初めまして、よろしいければお食事に招きたいと思いご連絡をさしあげましたが」と尋ねられた。陽介は一瞬、呆気に取られた。そして、少し経ってからようやく相手が何を言ったのか理解した。陽介は驚いた。彼はスマホを握りしめ、何度も画面を見つめた。そして再び耳に当て、平静を装いながら言った。「はい、山本社長、是非お招きに伺わせていただきたく存じます」「では、今日の午後2時にそちらの会社へ……」「山本社長、場所をおっしゃってください。私から伺わせていただきます」賢はそれを聞くと、軽く笑って「では、そのようにお待ちしてます」と言った。時間と場所を決めると、陽介の頭の中は真っ白になった。しばらく立ち尽くした後、ようやく何が起こったのかを理解し始めた。彼の最初の反応は、詐欺ではないかというものだった。そして、指定された会合でよく使われるレストランのことを急いで調べた。会員制で、予約が必要な場所だった。陽介の心臓は高鳴った。すぐに洵のオフィスへ駆け込み、何が
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第274話

その状況に陽介はさらに自信をなくしていた。透は手を差し出し、自己紹介をした。「はじめまして、山本社長の秘書をしております藤沢透と申します」陽介は我に返り、両手で握り返した。「はじめまして、藤堂陽介です。無限次元ゲーム会社の共同経営者です」賢もまた立ち上がり、手を差し出した。すると、陽介はすかさず両手で握り返した。「山本社長、はじめまして」賢は言った。「緊張しなくていいですよ」30代の賢は、初々しい後輩が好ましいと思っていた。しかし、賢は少しがっかりしていた。月子の弟、洵に会えると思っていたのだ。陽介は賢の言葉で少し緊張がほぐれたが、それでも油断はできなかった。透は、彼らが調べてきた情報ファイルを陽介に手渡した。陽介はそれを見ると、自社に関する非常に詳細なデューデリジェンス調査だった。これは一体何なんだ?陽介は不思議そうに顔を上げた。賢は言った。「あなたたちのゲームプロジェクトは非常に有望だと思います。投資したいと思っていますがご意向はどうですか?必要な金額を提示してもらえたらと思いますが、いかがです?」陽介は絶句した。必要な金額だなんだって、そんなこと聞かれても……今まで金欠に苦しんできた陽介だったが、ここにきて急に投資を申し出る人が増えた。しかも、投資家たちは軒並み大物ばかりだ。そこをSグループまでもが投資してくれるなんて、夢にも思わなかった。しかし、陽介は冷静だった。Sグループは大規模プロジェクトばかり扱っているのに、どうして創業間もない無名のゲーム会社に目をつけたのだろうか?陽介は賢を見つめ、唾を飲み込んだ。「山本社長、本当に投資していただけるんですか?」賢は言った。「もちろんです」陽介は理解できなかった。「どうしてですか?」賢は、今日隼人にオフィスに呼ばれた時のことを思い出した。開口一番、隼人はこう尋ねてきた。「もう知っているのか?」前後の脈絡はなかったが、賢い人間にはそれ以上説明は必要なかったので、賢は「はい」と答えた。隼人はさらに尋ねた。「いつからだ?」賢は答えた。「以前、あなたと月子さんのことを冗談で言ったことはあるが、確信はなかった。2週間前にテニスをした時、月子さんが静真に連れて行かれた後、あなたがいつもより力を入れてプレーしていたので、その時なんとなく
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第275話

月子は陽介からの電話に驚きを隠せなかった。洵が隼人からの出資をすんなり受け入れるとは思ってもみなかったからだ。隼人を使って静真を皮肉ったのは、ただの言葉遊びのつもりだったのに、まさか本当に助けてくれるとは。60億円というのは簡単な金額じゃない。もちろんSグループにとってはたいした額ではないのだろうが、それにしても大きな借りだ。隼人がここまでしてくれる理由を、月子は彼の優しい人である以外に思い当たらなかった。賢が間に入ってくれたのは幸いだった。もし隼人がこの件でわざわざ足を運んでいたら、月子は申し訳ない気持ちでいっぱいになっただろう。普段から忙しい彼に、お金だけでなく時間まで無駄に使わせてしまうのは、本当に気が引ける。……金曜日。月子は彩乃を車で迎えに行った。賢はSグループの幹部で、多くの人がおべっかを使うような相手だ。だからこそ、月子は彩乃を誘ったのだ。車に乗り込むなり、彩乃は月子の頬にキスをした。「やっぱりあなたが一番頼りになるわね!」月子は言った。「私もあなたに稼いでもらって配当金をもらわないとね」彩乃の追加契約には、月子が技術出資したことで、彼女もSYテクノロジーの株主になることが明記されていた。陽介が予約したレストランはとても高級な店だった。月子はナビに目的地を入力しながら、運転中に軽く会話をした。彩乃が言った。「せっかく誘ってくれたんだし、私もある接待があるんだ、一緒に行ってくれない?」月子は尋ねた。「誰の主催なの?」彩乃が答えた。「この前、名華邸のチャリティ晩餐会で鷹司社長と一緒のテーブルになったでしょ?その時、たくさんの人が私に会いたがっていて、吉田さんにまで気に入られちゃったの」月子は宏の顔を覚えていた。「分かった、付き合うよ」もし月子が運転中でなければ、彩乃はきっと彼女の腕にしがみついていただろう。「月子、あなたは私の幸運の女神よ!あなたのLugi-Xのおかげで会社を大きくできたし、今度はあなたのおかげでトップクラスの人脈も作れそう。以前、なぜあなたがSグループを辞めないのか理解できなかったのは、私の視野が狭かったせいね。Sグループで働く小さな秘書であるあなたのおかげで、こんなにたくさんの大物たちと知り合えたんだから!」修也に頼るのもいいが、彩乃は彼に借りを作ったことでそれ
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第276話

潤は冗談だと気づき、「初めまして、月子さん。紫藤潤と申します。彩乃の同級生です」と言った。月子は「初めまして」と挨拶を返した。彩乃は説明を加えた。「私たちは同じ学年なんだけど、彼は金融学科なんだ。合同コンパで知り合ったのよ」潤は驚いたように月子を見て、「あなたもA大学の卒業生ですか」と笑った。「彩乃、こんなに素敵な友達がいたなんて、紹介してくれればよかったのに」彩乃は肩をすくめて言った。「彼女は超優秀な学生だから、遊ぶ暇なんてないのよ」潤は目を輝かせた。「優秀な方ならなおさら仲良くなりたいものだ」社交辞令で、口達者なタイプの彼だった。月子も軽い会話を交わした後、それぞれ別れた。潤と別れた後、彩乃は月子の耳元でこっそりと囁いた。「最初、彼の顔に惚れて、一緒に飲みに行ったんだけど、実は好きな人がいるって言われてさ、それから、飲み友達になったんだけど、彼はかなり謎が多いのよ。こんなに長く付き合っているのに、彼の家のこととか、全く知らないの。口がうまいのも見かけなだけ。こういうタイプの人は深入りできないよね。もしかしたら後で痛い目を見るかもしれないから」月子は呆れて言った。「さっきの会話、まるで親友みたいだったじゃないか」「まあ、社交辞令ってやつさ。少しぐらい猫をかぶってもバチは当たらないでしょ。彼もきっとそうだと思うよ」それを聞いて、月子は何も言えなかった。潤は人の良さそうな顔をしているせいで、すぐに好印象を与えてしまう。本当にいい人ならまだしも、もしそうでなかったら……月子は、純粋な女の子が彼の掌で転がされる姿を想像して、ぞっとした。彩乃は頭の回転が速く、人を見る目もある。だからこそ、社交の距離感をうまく保ち、人間関係を円滑に進めることが出来るんだろうな。二人が個室に到着すると、陽介と洵が先に来ていた。月子たちが部屋に入ると、すぐに陽介は電話に出た。洵の顔は相変わらずクールで近寄りがたかった。しかし、今日はスーツを着ていたので、なんだかみなれなくて、月子は思わず彼を二度見してしまった。彩乃は洵の前に歩み寄り、肩をポンと叩きながら、褒めるように言った。「ますますイケメンになったな」洵は内心喜んでいたが、表情は変わらなかった。そして、彩乃は付け加えた。「でも、私の弟じゃなくてよかったよ」上機嫌だ
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第277話

洵は自分の世間知らずを思い知らされるようだった。隼人が60億円も出したのに、月子に何も下心がないわけがないだろ。彼は歯を食いしばり、隼人を睨みつけた。隼人は公に写真を出していないので、陽介は彼の顔を知らない。しかし、目の前に現れた瞬間、それが隼人だと確信した。賢の雰囲気は陽介に強い印象を与えていた。只者ではないことが一目で分かったが、隼人は更に上をいく。男の自分が見ても、信じられないほどカッコいいと思えたのだ。その上、隼人は賢よりも近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。陽介は賢となら話せるが、隼人を前にすると頭が真っ白になり、何も言えなくなってしまう。まるで威圧されているかのようだった。エレベーターから出てきた隼人は、洵を見て少し驚いた様子で言った。「わざわざ迎えに来てくれたのか?」陽介は目を丸くした。「洵、本当に鷹司社長と知り合いなのか?」隼人の視線が向けられた。「こちら藤堂さん?」その視線に、陽介は身体が硬直した。彼は何とか平静を装おうとぎこちなく「は、はい!そうです!」と答えた。隼人は軽く頷くと、視線を浮かない顔をしている洵に向けて一瞥したが、あえて見て見ぬふりをして言った。「では、行きましょう」陽介は機転を利かせ、前に出て片手を差し出した。「鷹司社長、こちらへどうぞ」まるでレストランの従業員のようだ。洵はそれを見て見ぬふりにした。無理もないことだ。彼自身だって、普段は怖いもの知らずの性格だが、書斎で隼人と話して出て来たあとは気迫に押されガクっとしていたものだった。認めたくはないが、隼人はとてつもないオーラを放っている。一目見ただけで、近寄りがたい雰囲気を感じさせるのだ。そんな彼にわざわざ喧嘩を売るような馬鹿はいないだろう。陽介は隼人と目を合わせることすらできず、ただ前を向いて案内を続けるしかなかった。洵は隼人の後ろを歩き、徐々に並んで歩いたが、身長が少し低いせいで、またもや見下されているような気がして、彼は更に苛立ちを覚えた。「よくもそんな図々しいことができるよな!」隼人は答えた。「月子にバレなければいいんだ」洵は驚き、隼人に目を向けた。しかし彼が表情一つ変えないのを見ると、ますます彼の図太さに感心した。洵は罵倒したかったが、隼人の経歴を知ってからというもの、軽々しく非難すること
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第278話

それを聞いて、洵は却って何も言えなくなっていた。つまり、彼の言葉は半分信じて、半分疑えってことか。なんだか面倒くさくなってきた。隼人と会うたびに、洵は自分がいいように丸め込まれ、向こうのペースに乗せられてしまうように感じるのだ。一体なぜなんだ。十分警戒していたはずなのに。陽介は洵が隼人と話していることは分かっていたが、具体的な内容は聞こえていなかった。しかし、彼は驚いていた。洵は本当に隼人を恐れていないのか?そう考えているうちに、一行は個室に到着した。陽介はドアを開けて、「鷹司社長、どうぞ」と言った。隼人は中に入った。そして、陽介は洵を呼び止め、必死に目配せをした。「お前はどういうつもりだ?」苛立っていた洵は、ふざけたように尋ねた。「俺が鷹司と喧嘩したら、勝てると思うか?」「……バカ言ってんじゃないよ!」陽介はすっかり呆れかえっていた。月子は賢を待っていたのだが、まさか隼人が一人で来るとは思ってもみず、驚いて立ち上がった。「鷹司社長、あなたがいらっしゃるなんて?」彩乃も驚きから我に返ると、月子とほぼ同時に立ち上がり、既に手を差し伸べていた。「鷹司社長、お久しぶりです。私のことを覚えていますか?」隼人は社交辞令的に彩乃と握手を交わし、「覚えていますよ。月子の親友の方ですよね」と言った。彩乃は恐縮しながらも、興奮を隠しきれず月子の服の裾を引っ張った。隼人と同じテーブルに座れるなんて、こんなことが知れ渡ったら、宏でさえ彼女を食事に誘ってくるだろう。今、こうして一緒に食事ができただけでも、彩乃は夢を見ているようだった。隼人は「賢に急用ができたんだ」と説明した。彼に急用ができたとしても、あなたが直接来るなんて、恐れ多すぎるでしょ、と月子は心の中で呟いた。そして彼女は何気なく「山本社長に何かあったのですか?」と尋ねた。隼人は既に席に着いていたので、月子と彩乃も続いて着席した。彩乃は思わず月子の方を見た。彼女はどうして急に真面目になったのだろう。さっきはリラックスしていたのに、今はすっかりおしとやかになっている。一体どうしたっていうんだ?社長が来たから、緊張しているのか?「忍と家を探しに行っている」隼人の声が、彩乃の思考を遮った。彼女はハッとした。「忍が家を探し
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第279話

潤は気さくに話し始めた。その話し方は誰とでもすぐに打ち解けられるような雰囲気で、彼自身の自由奔放な性格が伝わってきた。静真は、彼が世界中を旅して冒険することに情熱を注いでいることを知っていた。家族に呼び戻されなければ、今でもどこかの人里離れた地で現地の人たちと過ごしていたに違いない。静真は立ち上がり、彼の肩を軽く叩いた。「久しぶりだな」潤は静真の隣の椅子を引き、腰を下ろした。「そろそろ勉強も一段落したし、戻ってこようと思って」「これからどうするんだ?」「俺は飽きっぽい性格だから、家の仕事には関わりたくない。だけど、今回戻ってきたからには、しばらくはここいようと思って。特に具体的なプランはないけど、まずは数年、金融系のサラリーマンとして働いてみようと思っている」多くの人が実家に戻って家業を継ぐ中、潤は例外だった。静真は彼の性格を良く知っているので、どんな突拍子もないことをしても驚きはしなかった。「困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれ」「静真さん」潤はウィンクした。「遠慮なんてしないよ」静真は彼より数歳年上だが、とても仲が良かった。年下は年上とつるむのが好きだからだろうか、彼は子供の頃から静真を尊敬し、兄のように慕っていた。そして、静真はもう一人の男を紹介した。颯太。K市で知らない人はいない、大富豪の宏の息子だ。颯太は潤のことを知っていたが、会うのは今日が初めてだった。紫藤家の次男。紫藤家の当主である姉の慧音とは腹違いでの姉弟で年齢差は11歳もあるが、二人の仲はとても親しいのだ。潤は本当にそういった面では控えめな男で、社交界にもめったに顔を出すことはなく、さらに学生時代は、彼が裕福な家の息子だということを誰も知らないほどだった。少し落ち着いたところで、潤は不思議そうに尋ねた。「一樹は今日いないのか?」大抵、静真がいる場所には一樹もいるはずだから、潤と一樹も仲が良かったのだ。静真は言った。「彼のいとこと一緒にマンションを見に行った」一樹と忍は馬が合わない。きっと母親に無理やり付き合わされているんだろう。この話をきっかけに、静真はふと忍のことを思い出した。テニスコートで忍が月子の味方をしたことを、彼はまだ覚えていた。隼人でさえ何も言わないのに、忍は月子が自分にいじめられるのではないかと心配し
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第280話

本当に優秀な先輩だ。だが、それ以上の印象は特になかった。普通なら霞のことを忘れてしまうはずなのに、不思議な巡り合わせで、ずっと覚えていた。潤は純粋で打算のない関係が好きで、だから友達のほとんどは彼の家柄を知らない。だけど、彼の容姿と雰囲気に惹かれて、言い寄ってくる女性はたくさんいて、断っても諦めずにしつこく付きまとう女性も少なくない。面倒くさくなった彼は、好きな人がいると嘘をついた。諦めの悪い何人かの女性は、誰なのかと根掘り葉掘り聞いてきた。その時潤の頭に霞が浮かんだので、とっさに、架空の好きな人の設定に、霞の特徴を色々参考に盛り込んだのだ。自分より少し年上で、気品があって美人で、理系の才女である……しかし、しばらく経った後で潤はようやく気が付いた。霞を思い浮かべたのは、まさに自分はこういうタイプが好きだったからだと。そう考えていると、潤はついさっき会った月子のことを思い出した。彼女はかなり魅力的で、冷たい視線と高い鼻筋、まさに理系女子といった雰囲気。そして、どこか冷淡な感じもする。潤はこういう距離感が好きだ。高嶺の花だからこそ、征服欲が掻き立てられる。冷たい仮面の下に隠された別の顔を見てみたい衝動に駆られた。先輩と呼ばれて、霞は驚いた。「私のこと、知っているんですか?」潤は笑顔で言った。「大学の講演会で、あなたの発表を聞きました。とても感銘を受けましたよ。数年ぶりですが、相変わらずお綺麗ですね」イケメンで、言葉巧みな潤に、霞はすっかり舞い上がってしまった。慧音は政財界に顔が利くやり手の女性実業家で、高嶺の花だ。まさか彼女の弟が自分の同窓生だなんて。数年前に一度会っただけなのに、ずっと覚えていてくれたなんて。きっと、好意を持ってくれているに違いない。霞は喜びを噛み締めながら席に着いた。同窓生という関係のおかげで、会話の糸口を見つけやすかった。潤は金融関係の仕事をしている関係で昨今、あらゆる資本がIT業界に参入することに着目していた。だから、この業界に携わっている霞に潤は最近の取り組みを聞きたかったのだ。霞は、最近のプロジェクト開発で、ある難題をクリアしたばかりだと話した。そして、また別の難点にぶつかったけれど、もう解決しつつある、という話もした。潤は興味深そうに尋ねた。「あな
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