月子はそれをまじまじと見つめた。「素敵ですね」「気に入ってくれたならよかった」隼人はそう言うと、いつものように安定した運転で車を走らせた。月子は前方の車の流れを見ながら、結衣のことを考えた。緊張しないわけがない。しかし、隼人が一緒なら安心できた。彼は静真とは違うのだから。そして、改めて昨夜、慌てて逃げ出した時のことを思い出した。隼人に気づかれただろうか。今考えると、少し恥ずかしい。あんなに慌てることなかったのに。月子は、何もなかったかのように隼人と今まで通りに接しようと決めていた。しかし、行動はなかなか思い通りにはいかなかった。ただ一度経験したことで、月子は隼人との距離感を掴めるようになった。何とかうまくやれているようだった。もう彼の言葉に惑わされて、変に考えたり、おかしな行動をとったりすることもなくなった。「いつ買ったのですか?」月子は何気なく尋ねた。「来る途中で」隼人はそう答えたが、実はかなり前から買ってあった。I国までわざわざ飛んで行って買った石彫芸術品は、彼の家に置いてある。まだ渡していないが、あれは心から彼女に贈りたいと思っていたものだ。今贈ってしまったら、月子はまた恋人の振りをするために買ったのだと勘違いするかもしれない。だからもう少し後になってからにしよう。プレゼントはまだ少ないが、これからもっと増えるだろう。月子は褒めた。「本当に冴えてますね。そこまで考えてませんでした」隼人は胸を締め付けられるような思いがした。「そんなことまで、お前が気にする必要はない」「ふふ、あなたは今まで私に何一つ心配させたことがないじゃないですか」月子は言った。「鷹司社長、あなたは本当にいい人ですね」隼人はただのいい人と思われたくはなかったが、結局、そう思われてしまった。……ほどなくして、二人はとある隠れ家レストランに到着した。そこは落ち着いた雰囲気で、サービスも行き届いていた。個室に着いたが、結衣はまだ来ていなかった。当然だ。目上の人を待たせるわけにはいかないのだから。月子は席に着くと、顔を上げ、中庭に美しく手入れされた庭園を目にした。隼人はメニューを見ていた。彼は優雅で気品のある雰囲気を纏っていたが、表情は落ち着いていた。まるで数十億円の契約書を見ているかのようだった。この店を利用
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