All Chapters of 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった: Chapter 741 - Chapter 744

744 Chapters

第741話

いつもと変わらない、低く冷たい声。その声を聞いて、月子はふと錯覚した。まるで最近会ったばかりのようで、もう何か月も連絡を取っていなかったなんて嘘みたいだ。月子は瑛太に用事ができたことを合図し、少し離れた場所で電話に出た。だけど、彼女は「何の用?」といった世間話を口にしたくなくて、黙っていた。3、4秒ほど間があっただろうか。受話器の向こうから、静真の声がした。「あけまして、おめでとう」さらに2秒ほど置いて、月子はなんとか絞り出すように返した。「あけまして、おめでとう」「俺に聞きたいことは何もないのか?」「ない」「ふっ」静真は軽く鼻で笑った。「構わない。ただ、お前に会いたくてたまらなくてさ。声が聞きたくて、電話したんだ」静真は少しも変わっていなかった。いつもみたいに、月子が自分の声を聞きたいかなんて全くお構いなしに自分の想いだけ押し付けてくるのだ。それを聞いて、月子は眉をひそめた。「静真、もうやめてちょうだい。もう、お互い、それぞれの道を歩めばいいでしょ。今さらそんなこと言っても、何の意味もないから。私が隼人さんと付き合ってるのは事実だし、あなたもそれを見て知ってるはずじゃない」その頃、月子から1キロほど離れたホテル。その最上階にあるスイートルームの窓際には、一台の望遠鏡が設置されていた。静真はレンズを覗き込み、まるでストーカーのように、庭で電話をする月子の姿をじっと見つめていた。この数ヶ月、夢を見れば必ずと言っていいほど彼女が出てきた。それなのに月子は隼人と旅行したり、街を歩いたり、景色を楽しんだりして、まるで長年連れ添った夫婦みたいに幸せそうじゃないか。静真の目は充血していた。「お前を愛していると自覚した時から、俺はもうまともに生きられなくなったんだ。お前が俺のそばにいてくれないと、だめなんだ」月子の直感は当たっていた。静真はとても執念深い男だ。たとえ愛情からじゃなくても、彼の性格からして簡単に諦めるはずがない。ましてや今は、「愛してる」なんて言葉を盾にしているのだから。「静真、はっきり言っておくけど、私たちもよりを戻せないから」望遠鏡のレンズ越しに、月子の顔が険しくなるのが見えた。まるで彼が触れてはいけない汚物で、その存在自体が彼女の嫌悪を掻き立てているかのようだった。「本当にもう無理なのか?俺にはま
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第742話

月子の手は少し震えていた。「月子、また会いに来る。待ってろよ」静真が電話を切った瞬間、望遠鏡のレンズに隼人が現れた。彼はすぐに月子を抱きしめて無事を確認すると、鋭い目つきで顔を上げ、静真のいる方角を見つめてきた。かなりの距離があったので視線が合うはずはない。しかし、二人の視線は確かにはち合わせたようだった。見えない火花が二人の間に散った。静真は鼻で笑った。「もうバレたのか?」彼はスマホを放り投げ、その場を立ち去った。月子に会って、声が聞きたかった。でも、見つかる危険もあった……それにしても隼人の動きは早い。自分が何か無茶をするとでも思っているんだろうな。「どうしたの?」月子は静真の言葉からやっと我に返った。顔を上げると、隼人の目に宿る険しい光に気づいた。「何かあったの?」「静真が、ここにいる」隼人は冷たい声で言った。月子は驚いた。静真の執念深さを、少し見くびっていたようだ。まさかここまで追いかけてくるなんて。「もう追っ手は向かわせた。だが、おいつくかどうかは分からない」隼人の言葉には怒気が滲んでいたが、すぐにそれを収めた。そして月子に向き直ると、「あいつから電話があったのか?」と尋ねた。月子は目を伏せ、静真に言われたことを全て隼人に話した。「彼は、私たちの間に刺さる一本の棘になるって」隼人は彼女を見つめ、きっぱりと言った。「そんなことにはさせない」もちろん、月子も同じ気持ちだった。誰を好きになって、誰と一緒にいるかは、彼女自身の自由意志だ。他人に簡単に変えられるわけがないのだ。静真の一件があったので、月子は将来の話を切り出すのを一旦やめた。二人は付き合い始めたばかりだったからだ。まるで長年連れ添った夫婦のようでありながら、まだラブラブな時期でもあった。そこに静真の挑発が加わったことで、二人は暗黙のうちにお互いをより大切に思うようになった。今の二人は、ただずっと一緒にいたいと、そう願うだけだった。未来のことなんて、数ヶ月もすればまた月子の考えも変わるかもしれない、だから今まだ言わないでおこうと月子は思った。そうこうしているうちに、時間はあっという間に流れて6月になった。要と葵の時代劇はクランクアップし、すでに新しい作品に入っていた。美咲が出演した青春映画も撮影を終えた。そして、月子とSYテクノロジーが
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第743話

「去年の6月のこと、覚えてるか?」静真は聞いた。月子はその言葉を聞いた途端、嫌な予感がした。彼女はもちろん、去年の6月に何があったか知っていた。自分が妊娠した時のことだ。どうして静真は、今更そんな話を持ち出すんだろう。昔話でもするつもりなのだろうか?そう思いながらも、月子は思わずぎゅっと手を握りしめた。彼女の顔色が変わったのを見て、静真は言った。「やっぱりお前は、俺たちの子供のことを大事に思ってたんだな」月子の顔は曇った。今となっては子供への執着はないけど、当時はたしかに期待で胸をいっぱいにしてた。それに、初めての子供だったから、意味合いも違った。あの子は結局産んであげられなくて、彼女の心の傷となり、触れられたくない部分になっていた。なのに、静真はわざわざあの子の話をするために自分に会いに来たのだ。月子の凪いでいた目に、ついに感情の揺らぎが表れた。「静真、なんで今更その話を持ち出してくるの?」彼女の眼差しに、静真は胸を痛めた。「すまなかった。あの時の俺は……」月子は彼の言葉を遮った。「今のあなただって、結果は同じよ。だって、あなたはあの子を一度も望んだことなんてなかったじゃない。それなのに今更その話を持ち出して何が言いたいの?私を怒らせたいわけ?」彼女は椅子の背もたれに寄りかかり、静真をまっすぐに見つめた。「半年以上も会ってなかったのよ。この短い時間で、あなたと喧嘩なんてしたくない。子供のことはもういいから、他に話すことも何もないし、仮にあったとしても、あなたがどれだけひどい男だったか思い出すだけだから」その言葉を聞いた静真は、ふっと笑った。それは自嘲的で、悲しそうで、どこか狂気を帯びた笑みだった。「他の夫婦の喧嘩はただの痴話喧嘩でも、俺たちの場合は、互いの心を刺し合うようなもんだったな。月子、昔は俺が悪かった。でも、もし、あの子が無事に生まれていたら、俺たちの結末も違っていたんだろうか」月子はきょとんとした。そんな「もしも」は考えたこともなかった。「そんな仮定、何の意味もないでしょ」「それでも、考えてみてくれと言ったら?」「私があなたとの離婚を決意したのは、流産した時のあなたの冷たい態度が原因よ。あの日、あなたが何をしていたかなんてもう私に言わせないで。まだあなたのことが好きだった頃に、あの子はいなくなったの
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第744話

予想もしてないことを聞かされたとき、人は驚きあまり、最初は信じられないと思うものだ。月子は数秒間、頭が真っ白になった。我に返っても、まだ頭は混乱していた。「静真、いくらなんでもやりすぎよ!子供の話まででっちあげるなんて、どこまで腐ってるの?私がそんな嘘を信じると思った?この嘘つき!」静真は彼女の顔をしばらく真剣に見つめると、念を押すように一枚の書類を取り出した。「これを見て」月子は書類を奪い取ると静真の体に叩きつけ、低い声で叫んだ。「書類までも偽造する気か!」離婚してから、月子が感情的になることはあった。でも、こんな風にちょっとした言葉ですぐに激怒することはなかった。これほど怒ったのは、初めてのことだった。月子がこれほど感情的になり、あんな言葉を口にするのは、本当はこれがすべて事実だと分かってしまったからなのだ。静真は手で書類を受け止め、床に落ちたのを拾い上げた。そして、法的効力がある書類を開くと、月子の目の前で一枚一枚めくってみせた。そこには、赤ん坊の成長に伴ったエコー写真が挟まれていた。「俺たちに子供ができる可能性を知ったとき、このことは誰にも話さなかった。一樹にさえもね。これは俺にとってチャンスだと思ったから、絶対に失敗は許されなかったんだ。会社を理由に海外出張へ行ったのも、ただのカモフラージュだよ」それを聞いて、月子の瞳にはこれほどにない怒りが満ちていた。しかし彼女は歯を食いしばり、手の甲には血管が浮き出るほど拳を固く握りしめながら堪えた。「俺がこの計画を練りに練ったから、隼人ですら何も気づけなかった。俺の目的は、お前たち全員を騙し通すことだったんだ。そして安全だと判断できるまで、誰にも知らせないつもりだった」静真はまばたきもせず、月子の目を見つめた。だが、月子の瞳からは、弱々しい気持ちのかけらもなかった。そこにあるのは、純粋な憎しみと、感情の昂ぶりからこみ上げてきた涙がにじんでいた。「もうすぐ妊娠八ヶ月だ。今さらお前や隼人が気づいたところで、探し当てた頃には赤ん坊が生まれて一ヶ月も経っているだろうから、もう手出しはできないはず。仮に隼人が俺の予想より早く見つけ出せたとしても、医療チームに連絡して帝王切開させれば済む話だ。その子たちが未熟児になっても構わないというならな」それを聞いて、月子は自分の耳を疑った。静
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