Semua Bab 転生モブは推しの闇落ちを阻止したい: Bab 11 - Bab 20

52 Bab

11:湖畔のランチ

「うん、それでいいよ。でもね、アレク様に勝てないってまだ決まったわけじゃない。いつだって挑んでいいし、勝ったり負けたりするのもいいと思う。諦めなければ、何度でも挑戦できるのだから」「ふふっ、エリーさんには敵わないなあ。僕も諦めるつもりはありませんよ。そのうちアレクに勝って、その勝利をあなたに捧げます」 ゼノンは笑顔でサンドイッチを口に入れた。「ん、このサンドイッチもおいしい! エリーさんは料理の天才ですね」「そんな、まさか。そんなもので良ければまた作るよ。聖騎士の立場じゃあまり息抜きもできないかもだけど、たまにはのんびり楽しくやろう?」「ええ、もちろん。また機会があったら誘ってください」 彼は微笑んで少し体を寄せた。「……いえ、次は僕が誘いますね」 近い距離で囁くような声で言われて、私の心臓は飛び跳ねた。 耳が幸せになる声が! こんなに近くで!「う、うん、お手柔らかに頼みます」 しどろもどろで答えた私に、ゼノンは楽しそうな笑い声を上げた。 背後で袋の中のニジイロカエルがケロケロと鳴いて、私も笑ってしまった。   楽しかったカエル採集ピクニックは終わって、あとは帰るだけになった。 森を出て街道まで戻ってくる頃には、西の空が赤く染まり始めている。 暮れなずむ空の複雑な色合いはとても美しくて、思わず目を奪われた。「夕方が終われば夜、闇の時間、か……」 ゼノンの呟きに、横を歩いている彼を見る。「闇とは何なのでしょうね。夜、眠り、死、冥府。こんな力がどうして人間に、僕に備わっているのでしょうか」「そうだねえ……」 彼の問いに対する答えは、私も持っていない。 けれども夜も闇もこの世界に確かに存在して、必要なものだということだけは分かる。「生き物は本能で死を恐れるから、闇にいいイメージがないのは仕方ない
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
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12:ある日の訓練場

 ニジイロカエルを手に入れた私は、さっそく麻酔薬の制作に取り掛かった。 鎮静作用のあるコルカの葉とラーグの種をすり潰して、ニジイロカエルの粘液を加える。 テストは実験動物のネズミを使う。ちょっと気の毒だが、魔法と薬草学の発展のためである。 しばらくの試行錯誤を経て、ネズミを眠らせるのに成功した。 さらに待っていると、ネズミはきちんと意識を取り戻して動き出した。 繰り返し麻酔を与えても、時間が経てばちゃんと意識を取り戻す。 今のところはおかしな副作用もないようだ。 まあ強い薬なので、使わないに越したことはない。 怪我の治療用なら局所麻酔を使いたいところだが、あいにくこの世界の技術では精度の高い注射針が作れない。 使用は重傷者に限って、大掛かりな手術(といってもそんなに高度な処置はできない。骨折の対応とか縫合くらい)をする際に使ってもらおう。 なお、三匹のニジイロカエルは魔術棟の裏の池で飼われている。 一応は魔物だが大人しいもので、水辺から離れることもない。繁殖しないよう気を付けておけば大丈夫だろうと、魔物の飼育係が言っていた。 カエルを手近な素材として利用する魔術士が増えて、新しい魔法薬がいくつか誕生したりしていた。喜ばしいことである。   すっかりおなじみになったゼノンの魔力訓練の日がやって来る。 その日の私は同僚の手伝いを頼まれて、朝からバタバタとしていた。 それでうっかり訓練の時間に遅れてしまったのだ。「大変! 私としたことが、ゼノンを待たせるなんて!」 焦りながら魔術棟の回廊を走る。 二階の回廊に差し掛かった時、訓練場の様子が見えた。 何やらアレクとゼノンが向き合って立っている。「あの二人が戦うところが見られるなんて!」「あたし、アレク様を応援する」「わたしはゼノン様!」 回廊の上から身を乗り出すようにして、女性魔術士たちがきゃあきゃあと声を上げている。 よ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
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13:町歩きデート1

 最近、私とゼノンは時々、休日に一緒にお出かけをしている。 前みたいに少し足を伸ばしてピクニックをすることもあるし、町歩きの時もある。 聖騎士として日々重圧にさらされているゼノンの息抜きのためだ。 今日は町の市場で買い物をしようという話になって、出かける準備をしていた。「エリーは最近よく出歩くようになったね」 鏡の前で髪をとかしていると、兄がひょっこりと顔を出した。「まさか恋人ができたとかじゃないだろうね……?」「違う違う、友だちだよ」 正確に言えば推しで教え子で大事な人だが、そんな言い方をすればシスコンの兄がヒートアップするのは目に見えている。 私は顔立ちはせいぜいちょっと可愛い程度だし、髪色も赤毛でごく普通。緑の目もありふれたもの。ついでに性格も普通。 魔力がまあまあ高い以外は普通人間なのに、なんで兄はシスコン化したんだろうか。解せぬ。「友だちか。ボーイ『フレンド』?」「もう、うるさいな! 行ってきまーす!」 しつこい兄貴を振り切って、私は家を飛び出した。 休日の活気ある町を歩く。 こうしてみれば確かに漫画の皇都と同じ風景なのだけど、戦いで荒廃していた漫画と違って今は人々の笑顔であふれている。 やっぱり漫画と現実は違う世界なんじゃないかと、最近は特に思う。「エリーさん!」 待ち合わせ場所の広場ではゼノンがもう待っていた。「ごめんね、待った?」「いいえ、今来たところですよ」 彼はいつもそう言うけれど、私が先に着いたためしは一度もない。「さあ、行きましょうか」「うんうん。今日はね、市場の東側にあるエリアに行ってみようと思うの。美味しい屋台があるって同僚が言ってたんだ」「それは楽しみです」 市場の東エリアは雑多な地区で、雑貨から魔道具までいろんなものが売られている。 私はかわいい雑貨が好きだし、もちろん魔道具も興味がある。 こうしてお店を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
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14:町歩きデート2

 評判の屋台で串焼きと薄焼きパンを食べる。甘辛いソースがとても美味しかった。「おいしいね~!」 近くのベンチに座って、私はご機嫌でモキュモキュとお肉を食べた。お恥ずかしながら、割と食い意地が張っているのである。 ゼノンは同じ串焼きを食べているとは思えないくらい上品な所作だ。 私が指や口の周りをソースでべたべたにしているというのに、彼はきれいなもの。どうやっているんだ。解せぬ。 食べ終わってささっとハンカチで指と口を拭いていたら、ふとゼノンが顔を寄せてきた。「エリーさん、ちょっと」「ん?」「口元にソースが残っていますよ」 そう言って指を伸ばして私の口端に触った。 それからごく当然のように――その指をぺろりと舐めたのだ。 赤い唇からこぼれた舌は艶かしくて、私は思わず息を呑む。「な、あのっ、何やってんの!」 真っ赤になってベンチから飛び上がった。「何って、ちょっとソースが残っていたから」「何も指で拭わなくていいじゃない! ましてや舐めなくていいじゃない!!」「せっかくおいしいソースなのに、もったいないでしょう」 しれっと言うゼノンは、澄ました顔である。「それともエリーさんは、直接舐め取ってほしかったですか?」「んな……」 意地悪く笑うゼノンに、絶句するしかない。 え? 何? 私の推し、こんな小悪魔キャラだった? 知らなかったんですけど。 いやいや待て待て。 これはきっとあれだ。家族枠だ。 孤児だったゼノンは家族愛に飢えているはず。 それで、少し年上の私を姉に見立てて甘えているんだ。 そうに違いない。 それ以外にない! そこまで考えてやっと心臓が落ち着いてくれた。「ゼノン、お行儀が悪いよ! 人前でそういうこと、しちゃ駄目」「誰も見ていなければいいんですか?」「そういうことじゃなくてね&he
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
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15:町歩きデート3

 ふとゼノンを振り返ると、何故か肩を落としていた。「どうしたの?」「いえ……。エリーさんは手強いなと思って……」「え、私は普通だと思うけど。それよりゼノン、この服似合いそうじゃない?」 私はネイビーのシャツを取り出した。すっきりしたシルエットなので、細身の彼に似合う。  それにゼノンは白皙の美少年。雪のような肌と漆黒の髪の対比、それに冬の空のような青い瞳がどこまでもきれいな人である。  パーソナルカラーでいえばブルベ冬だ。はっきりした色が似合う。 試着してみると、ぴったりだった。  夜空のようなネイビーが、彼の魅力をよく引き出している。「よし、私の見立て通り!」「本当だ、さすがです。服で印象が変わるものですね」 ゼノンは少し照れながらも、まんざらではなさそうだ。「次はエリーさんの服をさがしましょう。明るい黄色とか、ピンク色とか。春の花束みたいな色が似合いますよ、きっと」「ロマンチックな言い方ね。好きな人ができた時のために、そういう言い回しをストックしておくといいよ」 まあゼノンなら放っておいても女性が落ちそうだが。  ちなみに私のパーソナルカラーは、ゼノンの言う通りイエベ春だと思う。なかなか鋭い観察眼だ。さすが聖騎士。  で、ゼノンはまた微妙に落ち込んでいた。難しいお年頃であるらしい? 女性用の服屋に行ってみようということで、店を出て少し歩いた。  すると街路の階段の下で、お婆さんと小さい男の子が座り込んでいる。「どうしましたか?」 ゼノンが穏やかな笑顔で話しかけた。  お婆さんと男の子は、どちらもぐったりとした顔をしている。「買い物に出かけたのですが、疲れてしまって。荷物を持って階段を歩くのが大変で、休んでいたんです」 見れば彼らの足元に大きなカゴが置いてあった。日用品や食べ物がたくさん入っている。「それなら、僕が荷物持ちをしますよ。お家は階段の上ですか?」「え? そんな、そこまで甘えるわけにはいきません」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-16
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16:女神降臨

 私とゼノンの日常はそんな風に過ぎていった。  原作ベースでは大戦が近いと知っていても、日々の暮らしの中では実感ができない。原作と現実は違うのではないかとも思う。  だからまだ余裕がある、もしかすると神々の戦争など起こらないかもとすら思っていた。 けれど私の甘い見通しは、ある大きな出来事で崩れ去る羽目になる。    それは、私がゼノンと出会ってから約一年後。  年が明けて、アレクとゼノンの十六歳の誕生日が間近に近づいた日。  まだ肌寒さの残る早春の日のことだった。 ある満月の夜。明るい月の光すら圧倒して、白く輝く流星が神殿に墜ちたのだ。  ドォンと大きな音がして、辺りはまるで昼間のような光に包まれた。  あまりの明るさに驚いた私は、自室のカーテンを開けて神殿の方を見た。  神殿は未だに神々しい光を放っている。  このシーンは見覚えがある。これは、そう、女神降臨の場面!「女神様がご降臨なされたぞ!」「神殿へ急げ!」 町の人々が口々に叫んでいる。「お父さん、お母さん、兄さん!」 私が部屋を飛び出して居間へ行くと、家族はもう準備を整えていた。「すぐに行きましょう。夜だけれど、これだけ明るければ足元に困らないわ」 お母さんが言って、みんなうなずいた。  私たちは連れ立って神殿を目指した。  つい気が急いて、早足になってしまう。「予兆はあったんだ。神殿の女神像に小さな光が灯ったり、聖女候補生たちが予知夢を見たり」 準聖騎士である兄が言う。「女神様の降臨は喜ばしいが……それはすなわち、冥府の神との戦争が近いということ」 お父さんは複雑そうだ。  お母さんは無言で兄さんの手を握った。  準聖騎士の兄は、戦争が起きれば前線に駆り出される。聖騎士のサポートと兵士の統率が主な任務だ。  最も危険な役割は聖騎士が引き受けて、次は準聖騎士が詰める。  準聖騎士の最重
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-16
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17:ゼノンの心1

【ゼノン視点】 僕は物心ついた時から孤独の中にいた。 孤独が当たり前過ぎて、寂しいと気づきもしなかったほどだ。 貧民街でその日暮らしをしていた僕は、ある日、神殿の使いだという男に出会った。 彼が言うには、僕は聖騎士として高い素質を持っているらしい。 魔力、身体能力、女神の聖騎士としての高い精神力。 それら全てを併せ持つ者は少なく、貴重な人材であると。 聖騎士に興味はなかったが、今よりいい暮らしができるなら、と男の誘いを受けて聖騎士候補生の学校に入った。 学生たちはだいたい恵まれた家庭の子で、僕は異質の存在だった。 子どもというのは無邪気に悪を為す。 異端の僕はいじめられた。 教師の目の届かないところで持ち物を隠され、食べ物を捨てられ、暴力を振るわれて。「さて、どうしたものかな」 口汚い罵声を浴びせられながら、僕は考える。 報復するのは簡単だ。いじめてくる奴らは僕よりずっと弱い。殺してしまうのもできる。 ただ、行き過ぎた報復は大人たちの不興を買うだろう。 この訓練学校は規律こそ厳しいが、衣食住は整っている。不潔な貧民街よりずっと暮らしやすかった。 ここを追い出されるのは、避けたかった。 ほどほどに痛い目にあわせてやめさせよう、と決めたところで、アレクが割って入ってきた。「お前たち、何をやっているんだ! 多数で一人をいじめるなんて!」 彼は自分がいじめられたわけでもないのに、本気で怒っていた。「弱いものをいじめるなど、卑怯の極み! 恥を知れ!」 そう言って、いじめっ子たちを相手に大立ち回りを演じて、全員をのしてしまった。 そうして「これで分かったか! お前たちがいじめたゼノンは、もっと痛い思いをしたんだぞ!」と説教をしていた。「大丈夫か、ゼノン」 ぼろぼろになった姿でそんなことを言うものだから、僕はくすくすと笑ってしまった。「大丈夫だよ。それに、僕は『弱いもの』ではないからね。やり返すタイミングをう
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-17
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18:ゼノンの心2

 聖騎士の叙任式を経て、魔力訓練が始まった際も何も期待はしていなかった。 担当訓練官がずいぶん若い女性だというのは驚いたが、それだけだった。 ……はずなのに。 彼女は、エリーさんは僕の魔力属性に対してこう言った。「闇は冥府の属性、地も地底の冥府につながり、氷は生命を奪う冬を連想しますよね。でもそれだけではないんですよ。闇は安らぎ、地は生命を支える大地。氷だって自然の営みの一環です。冬が来なければ春が来ないのですから」 聖騎士候補生のカリキュラムでは、魔力については軽くしか教わらない。 闇は冥府、氷は冬。端的にそれだけを聞いていた僕は、エリーさんの話に驚いた。 エリーさんは自身も持っている地属性が地味だと言われると怒ってみせた。その怒りは本物で、彼女が自分の属性に誇りを持っているのだと分かった。 それからエリーさんは闇と氷について解説してくれた。 闇も氷も決して恐れるようなものではないと、励ましてくれた。 次に互いの魔力を触れ合わせる。 この行程が僕は苦手だった。むき出しの心に無遠慮な他人の手が入り込むようで、不快感が先に立つ。 けれどエリーさんは慎重に、僕を傷つけないようにゆっくりと進めてくれた。 お互いに共通する地属性を介しての魔力のやり取りはスムーズで、どこか暖かみすら感じる。 夜闇と冬の氷で冷え切った魔力と精神が、ゆっくりと解きほぐされていく。とても不思議な感覚だった。 この時間が終わってしまって、とても惜しいと感じた。 他にもエリーさんは僕をごく自然に身内扱いしてくれたり、アレクと比べる必要はないと教えてくれた。 僕はだんだん、エリーさんという人が気になっていく。 ある時たまたま所用があって魔術棟まで来たが、彼女の姿がない。聞けば薬草園にいるのだと言う。 僕は何気なくそちらに向かった。せっかくだから挨拶していこう、といったくらいの軽い気持ちだった。 教えられた場所に薬草園があった。 そしてその草花の中に立ち、水やりをしているエリーさんは&hellip
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-17
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19:ゼノンの心3

 カエルの捕獲は何の問題もなく済んで、エリーさんとお昼を食べた。 僕のお弁当は寮で出される簡素なもの。 エリーさんはとてもおいしそうなサンドイッチを取り出した。彼女の手作りなのだという。(食べてみたい。どんな味がするんだろう) 心の奥から欲求が沸き起こって、つい体ごと彼女に向き直ってしまった。食欲と私欲に負けた自分が情けない。 けれど結局、エリーさんは二人前のサンドイッチを用意していた。余ったら兄に食べさせると言っていたが、そんなもったいないことはできない。 お兄さんには悪いが、パンくずのひとかけらまで僕が全て平らげてしまおう。 サンドイッチはどれもとてもおいしくて、うっかりすると涙が出そうなほどだった。 こんなことで泣くなど、情けない姿は見せられない。ぐっとがまんする。 サンドイッチがおいしくて、湖畔の風が気持ちよくて。 何よりエリーさんが隣にいる安心感で、僕は余計なおしゃべりをしてしまった。 ゼノン様と呼ぶ彼女からとうとう呼び捨ての権利を勝ち取ったのも、気持ちのゆるみにつながったのかもしれない。 孤児だったこと、子どもの頃は孤独を抱えていたことは誰にも話すつもりはなかったのに。 同情を引きたいわけじゃない。 弱みを見せたくはない。 エリーさんに情けない男だと思われたくない。 けれど彼女の答えは思ってもみないものだった。「ゼノンは、ずっと頑張ってきたんだね」 僕はその言に虚を突かれた。 思わず言い訳じみた言葉がこぼれる。「努力など当たり前です。それに努力したって、アレクには届かなかった……」「勝ち負けとか優劣じゃなくて。今まですごく頑張って、それで今のゼノンがいるの。努力は全て、あなたの血肉になっている」 今の僕がいる……。 どれだけ頑張っても、必ず結果を出せたわけじゃなかった。無駄なことをしたと虚しくなって、それでも心を押し殺して次に進んでいた。 けれど、無駄ではなかったのだろうか。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-18
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20:ゼノンの心4

「ゼノンは最近、よく笑うようになったよな」 武術の訓練を終えて、アレクがそんなことを言う。「以前の僕はそんなに無愛想でしたか?」 首を傾げながら言うと、アレクは苦笑した。「そういうわけじゃないけどさ。前は変に壁を作るっていうか、近寄りがたい感じがあったから」「近寄りがたい? 心外ですね。僕はアレクを友人だと思っていたのに」「俺は平気だよ。でも、他の人たちがそう思っていたってこと」 僕が周囲を見渡すと、先輩の聖騎士たちはちょっと慌てたように首を振った。「まあ何だ、お前は前途有望な才能の持ち主で、しかもきれいな顔をしているだろ。気楽に口をきける雰囲気じゃなくてだな」「でも最近は違うぞ。いい意味で肩の力が抜けた。お前も成長したんだなあ」 彼らは朗らかに笑っている。 候補生だった子どもの頃と違い、聖騎士は精神的に充実した大人だ。心技体の全てが揃っていないと聖騎士の資格がない。 人好きのするアレクはもちろん、生意気な僕のことも暖かく見守ってくれている。 ――成長。 成長できたのなら、それはエリーさんのおかげだ。 脳裏に彼女の姿を思い浮かべる。きれいな朝焼けの色の髪をした、可愛らしい魔術士の彼女を。 自然、笑みがこぼれた。 もっと彼女に近づきたい。心を知りたい。 好きな食べ物、好きな色。好きな花。 エリーさんのことなら、何でも知りたい。 せっかく共に出かける立場になったのだ。これからはなるべく一緒に時間を過ごして、寄り添うようにしたい。「ほら、また笑ってる。機嫌いいじゃん」 アレクががしっと肩を組んできた。 昔は彼の無遠慮なスキンシップが苦手だった。気軽に心にまで踏み込んできて、僕の醜さを見透かされてしまいそうで。 でも、今はもう平気だ。 僕とアレクはライバルだけど、友人で、仲間で。 そうと教えてくれたのも、エリーさんだった。  
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-20
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