冥府の神は、長い黒髪の美しい青年の姿をしていた。 ゼノンが二十代の大人になったら、こんな見た目になるかもしれない。 ただ、目の色が漆黒だった。彼の双眸はまるで真っ暗な闇のようで、何も映してはいない。 虚ろな瞳に穏やかな微笑み。何とも不釣り合いで恐ろしかった。「愛し子よ」 彼は言った。低く耳に心地よい、聞く者の魂を揺さぶるような声で。「闇と氷の申し子よ。死と眠りの使い手よ。よくぞここまで育ち、我が呪いに打ち勝った」「何を……!」 私は唸った。必死に心を奮い立たせなければ、この強大な存在の前に折れてしまいそうだった。「勝手に罠を仕掛けておいて、よく言う! ゼノンは絶対に渡さないんだから!」「黙れ、小娘。私はゼノンと話をしている」 その言葉だけで重圧がかかり、口が閉じてしまった。「お前こそ我がしもべにふさわしい。窮屈な生命と肉体を捨て、今こそ我が冥府へ来るがいい。永遠で完璧な幸福がお前を待っている」「…………」 ゼノンは顔を上げた。ひどく憔悴しきった目に、奇妙な熱が浮いている。「永遠に、完璧に。そんな幸福が本当に、あるのですか」「ゼノン!?」 私は悲鳴を上げる。「もちろん、あるとも。我が冥府の神の名にかけて、お前に与えると約束しよう」「僕の幸せは、永遠にエリーさんと共にあること。互いの死で引き裂かれないこと。もしそれが可能であるならば……」 そんな。そんな、待ってと声を上げたいのに、喉はひゅうひゅうと息を吐き出すだけ。「その小娘か。お前の幸福にソレが必要であるならば、受け入れよう。共に死者の国の住人となり、永遠の存在となる――」 冥府の神の声音は優しげで、本当にゼノンを思い遣っているかのようだった。 あの人の言う通りにすれば幸せになれる。苦しみから解き放たれる。 そんな気持ちが私の
Terakhir Diperbarui : 2025-07-08 Baca selengkapnya