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第14話

Author: ルーシー
翌日、玲奈がこの田舎に来てちょうど2か月目だった。つまり彼女が久我山に戻る時でもある。

校長の阿部は、彼女に感謝を示すため学校をあげて送迎会を開いた。

玲奈は自分が去ることに寂しさを感じていたが、これも人生、その一つ一つのシーンにおいて、やるべきことがある。

彼女は車を運転して久我山に戻った後、白鷺邸へ戻り、自分にとって大切なものをまとめて春日部家に送った。

白鷺邸には2年あまり住んでいた。だから、結構な荷物があったのだが、大切なものだけまとめて、それ以外は持って行かなかった。

彼女が新垣家を離れても、帰る場所があって本当によかった。

そしてまたその翌日、彼女は朝早くに病院に到着した。

その日手術を行う担当医師が、彼女に第一助手を頼んできたのだ。

手術室で、術前に手をしっかり洗い準備をしていると、玲奈は後ろから誰かの驚く声を聞いた。「玲奈?」

玲奈は手術着を着用し、マスクと帽子を被っていて、両目だけが見えていた。彼女は後ろを振り向いて傍にいる男性を見ると、少し驚いてやっとその相手のことを思い出した。「東先輩?」

東昂輝(あずま こうき)も目元だけ見せて、笑って言った。「うん、そうだよ」

玲奈はとても驚いた。「先輩もこの病院で仕事をしているのですか?」

昂輝はそれに答えた。「ちょっと助っ人にね。昼時間ある?一緒に食事でもどうかな?」

玲奈は断ることはなく「ええ、ぜひ」と返事をした。

昂輝は彼女に笑いかけた。「手術が終わったら待ってるよ」

昼12時、玲奈はあるレストランを選んだ。

確か昂輝はイタリアンが好きだったから、彼女はその店を選んだ。

料理が運ばれてきて、彼女は昂輝にサラダを取り分けながら言った。「先輩、本当にお久しぶりですね」

昂輝はそれを受け取ってお礼を言った。「そうだね。最近どうしてた?」

玲奈は自分の生活についてあまり多くのことは語らず、ただ大雑把に「まあまあです」と返事した。

昂輝は玲奈の薬指にある指輪の痕に気付き、一瞬動きを止めて尋ねた。「結婚してるのか?」

玲奈は否定はせずに「ええ、可愛い娘がいるんです」と言った。

昂輝は微笑んだ。「おめでとう。だけど、どうして俺たちを結婚式に呼んでくれなかったの?」

玲奈は視線を落としそれに答えた。「結婚式は挙げていないから、みんなを呼ぶこともなかったんです」

昂輝は
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