玲奈は胸元を押さえた。病室で智也と愛莉が何を話しているのか、もう耳に入らなかった。病院を出たあとも、心ここにあらずで、足はただ彷徨うばかりだった。一方、病室では――愛莉の口から出た願いを聞いた瞬間、智也の眉間にわずかなしわが寄る。彼は娘の髪を撫で、穏やかに目を落として尋ねた。「どうしてそんなことを言うんだ?」仰いだ愛莉の小さな顔は青ざめ、瞳には涙が光っていた。唇を尖らせ、拗ねたように訴える。「この前、ママが陽葵を迎えに来たとき、私のことなんて見向きもしなかったの。それに雨も降ってたのに、迎えに来てくれたのは宮下さんだったんだよ。私、ちゃんとおばあちゃんの家に連れてってってお願いしたのに、ママは無視して、迷わず陽葵を連れて行っちゃったの。パパ、ママはもう私のことなんていらないんだ」その言葉に胸が締めつけられる。智也は娘の頬を撫で、かすれ声でなだめた。「パパがちゃんと段取りしていなかったせいで、お前にずっと辛い思いをさせてしまったな」愛莉は首を横に振った。「愛莉はパパを責めてないよ。パパはお仕事で忙しいの知ってる。でもあの日、ママはもう来てたのに......一緒に迎えに来ればよかったのに、私を連れて行こうともしなかった」智也はそっと娘を抱き寄せた腕をほどき、小さな顔を両手で包み込む。「愛莉、ママが何をしたとしても、ママはずっとママだ。そして沙羅おばさんは、あくまで沙羅おばさんだ。立場を混同しちゃいけない」愛莉の目から、今度は堰を切ったように涙があふれ落ちた。「だって......ママはもう私を愛してくれないんだもの。だったら、ママを別の人に替えちゃだめなの?」智也の表情が一気に冷たくなる。きっぱりと否定した。「だめだ」その断固とした響きに、愛莉はしゅんと口を閉ざす。智也は娘が落ち込んでいるのを感じ取り、辛抱強く言葉を継いだ。「ママはお前を産んでくれた人だ。それは何があっても変わらない。沙羅おばさんのことが好きで、ママと呼びたいと思うのなら、それは将来のことだ。少なくとも今は、ララちゃんと呼ぶしかない」まだ幼い愛莉には、その言葉の意味をすべて理解できるわけではなかった。けれど、パパの言うことはいつだって正しいと信じている。だから
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