個室の空気は一変していた。玲奈は気づかれぬように歩を進め、心晴の隣に寄り添った。音楽と照明を止めた心晴の行動に、和真は苛立ちを隠さず声を荒げる。一瞬にして場の喧噪が止み、空気が張り詰めた。心晴は立ち尽くし、冷静な眼差しで彼を見据えた。声は低く抑えられていた。「和真......あなたは、私と一緒にいて楽しい?」その問いに、和真は一瞬たじろぐ。彼女は人前で決して恋愛のことを口にしない――その彼女が、こんな場で口にした。「楽しいさ。どうした」投げやりな響きが混じる。心晴の目に赤みが差した。それでも口元には薄い笑みを浮かべる。「......でも、私はもう楽しくないの」浮気も、暴力も、まだ堪えられた。だが――自分の両親を侮辱する言葉だけは、決して許せなかった。「彼女の親が頭を下げに来なければ結婚しない」そんな男と一生を共にするくらいなら、独りでいた方がましだ。傍らの玲奈も、その真剣さを感じ取っていた。今回ばかりは違う、心晴は本気だった。「どういう意味だ?また喧嘩をしたいのか?」和真の声には苛立ちと呆れが混ざっていた。いつだって最後は彼女が折れる。それが常だった。だが、今夜は違った。心晴はまっすぐに彼を見据え、はっきり告げる。「和真――私たち、別れましょう」一瞬、彼は言葉を失った。だが、すぐに冷めた顔に戻る。何度も口にされてきた言葉だ。結局は彼女の方から戻ってきて、泣いて縋ってくる。だから今回も同じだと高を括っていた。心晴は和真の態度を予想できていた。だから、失望はない。玲奈の手を引いて部屋を出る。背後ではすでに音楽が流れ、ライトが点き、笑い声が戻っていた。「和真、ちょっとは機嫌を取った方がいいんじゃないか?」友人が口を挟む。「心配するな、どうせすぐに戻ってくる。俺を離れて、誰があんな女をもらう?散々遊ばれた女を欲しがる男なんていない」「さすがにそれは言い過ぎじゃ......」マイクを握り、笑い飛ばす。「怖がることなんてない!盛り上がれ!どうせまた俺に泣いて縋るんだ」増幅された声は廊下まで響き渡った。――心晴に聞かせるために。玲奈は隣の心晴の手を、無意識に強く握った。「大丈夫よ
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