響先生の車が停まったのは、来る時に見た小爆心地の屋敷跡の前だった。「行ってみよう」 冬凪が早足でダラダラ坂を降りてゆくのであたしもその後について行く。「ねえ、響先生の車ってあんなだった?」 学校に乗ってくるのは紫色した正直だっさい軽自動車で、エンジンからしてボボボボと重低音のするあんなスポーツカーではなかった。「ちょ、隠れて」 って言われてもこんな高い垣根の間の一本道でそれは無理。それで冬凪と道の端にしゃがんで思いっきり体を縮めた。そうしてから道の先を見てみると、響先生の車が屋敷跡の前で切り返しをしていた。「戻って来る?」「わかんない」 冬凪とあたしは、そのままじっとしていたのだけれど、もし戻ってきたらこの格好をなんて説明すればいいか考えてたら笑けて来て、「あたしたちシマエナガに見えるかなw」(死語構文)「どうした? 夏波」「なんでもない」 結局、響先生の車はこっちに戻って来ることはなく、小爆心地の屋敷の駐車場に入ったようだった。「夏波、ついて来て」 冬凪が態勢を低くして石垣に沿いに小走りする姿がスパイ映画みたいだったから、「がんばるますw」(死語構文) 冬凪は動きを止めて振り返ると、「それ、そろそろやめない?」「ごめん」 怒られた。「緊張しすぎると笑いが止まらなくなるって言うじゃない?」「言うけども、夏波のは自分から笑いに行ってるから。死語構文とか使って」 確かにそうだ。あたしはわざと可笑しがっていた。十六夜を見舞ってヤオマン御殿を出て来たら普段とは違う高級車に乗った響先生と鉢合わせした。それだけでも変なのに、まるでついておいでと言うかのように小爆心地の屋敷跡で停まり中に入って行った。この、仕組まれたかのようなシチュエーション。ホワイトラビットがあたしを引きずり回すシステム。どうもあたしのことをどこかに連れて行きたい人たちがいるらしい。それが誰かは知らないけど、その人たちが期待するキャラに成り切って最後までお付き合いして正体を突き止めてやりたくなったのだ。ここはめっちゃ緊張する場面。だ
Last Updated : 2025-08-21 Read more