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2-47.爆殺の報酬?(1/3)

last update Last Updated: 2025-08-23 06:00:44

 小爆心地の駐車場にあるエクサスLFAのところまで来ると、キュピっという音とともにハザードランプが点滅した。響先生が運転席側に回りながら、

「送るよ」

 と言ってくれたので助手席側のドアを開けると、シートの後ろがすぐ壁になっていて後部座席がなかった。

「これって、あたしたち乗ったら定員オーバーですよね」

「ツーシーターだからね。ま、気にすんな。バス停までだから」

 教師とは思えない発言をした。いいのかなと戸惑いながら、あたしから先に真っ赤なシートに座った。座席が深いせいで沈み込んだ姿勢の上に冬凪が乗ったものだから、あたしは全く前方が見えない状態になった。だらだら坂を戻ってヤオマン御殿を過ぎたら数百メートルで大通りの三宅商店の角に出る。そのすぐ近くがバス停だから車でならすぐだ。我慢しよう。

 エンジンが掛かると、ボボボボという重低音が振動と一緒に背中から響いてきた。冬凪が、

「この車、初めて見ました」

 普段は紫キャベツみたいな軽自動車だ。

「特別な日にしか乗らないからね。いつもは家のガレージでシート掛けてある」

「この車って先生の持ち物なんですか?」

 直球の質問。フィールドワークで培った冬凪のインタビュースキル発動だ。

「そうだけど。教師の給料じゃ買えないって?」

「はい。高い車みたいだから」

 車は駐車場を出て坂を上り始めたよう。

「買ったんじゃないよ。あたしがヤオマンHDに勤務してた頃に貰ったんだ。この車はヤオマンHDが辻川元町長に買い与えたものだったんだけど、町長が死んでヤオマンに車だけ戻された時に、社長があたしにくれたんだ。今の会長がね」

「2億円の車をですか?」

「今はそんくらいするか。貰った20年前は3千万だったけどね」

 にしても家一軒が買える値段だ。貰えるものとは思えないけど、お金持ちにとってはそういうこともありなんだろうか。

「どうして先生が貰えたんです? 会社で重要な任務を果たしたとか? 例えば、邪魔者を消すとか」

 サイドウインドウを見上げると、ヤオマン御殿の柵の鋭く尖った忍び返しが見えていた。

「ハハハ。冬凪は物騒なことを言うな
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