「夏波先輩? 夏波先輩。寝てるんですか?」 鈴風に起こされてしばらく自分がどこにいるか分からなかった。見回すと、ここは六道園プロジェクトの石橋の上。そこで立ったまま寝てしまっていたのだ。金曜の夜。何とか一週間のバイトを乗り切って(しかも予定の一日多く)、明日は休みだからと久しぶりに家からロックインしたのだけれど、ベッドに寝そべってVRギアを付けてなんて、考えたらそれって寝落ちの態勢だった。「もう少しで、しばらくロックインできなくなるところでしたよ」「ありがとう。もう目が覚めたから大丈夫」 鈴風がタイミングよくロックインしてくれててよかった。と言うのも、ゴリゴリバースではロックインした人が一定期間反応がない場合、強制的に追い出される仕様になっている。そうなると心身異常の疑いありとされてもう一度ロックインするには医療用VRギアまたはブースでチェックを行い認可を得た後、3日以上のクールダウン期間をおかなければならないからだった。つまりかなりめんどいことになるのだ。「どう? 進捗は?」「順調です。ゼンアミさんたちも問題ない、石が立たない以外はって言ってます」 石が立たないのは相変わらずなんだ。手の打ちようがないのなら、これはもうゴリゴリバースの仕様ってことでいいんじゃないかと乱暴なのことを考えてしまう。「匠の御方。こんばんは」 ゼンアミさんが小さな体を丸くして挨拶してくれた。「こんばんは。外で色々あって長く留守にしてしまいました。ごめんなさい」「前にここにいらしたのは4日前。それほど長くはございませんが」 そうか、4日ならロックイン制限で部活に参加できなかった頃と変わらないか。随分経ったように感じたのは20年前へ行っていた3日間のせい?「外ですか」 ゼンアミさんはその言葉に感慨深げに反応した。「もう長らく行っておりません。ともがらは健やかでしょうか」「ともがら?」「外におりましたころの仲間のことでございます」 一瞬、雄蛇ヶ池であたしたちを襲った蓑笠連中のことを思い出した。簔から伸びてきた生首が「ともがらがなんちゃら」と気味悪く呟いていたから。けれどゼンアミ
Last Updated : 2025-08-24 Read more