All Chapters of ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Chapter 151 - Chapter 160

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2-48.六道園の違和感(2/3)

「夏波先輩? 夏波先輩。寝てるんですか?」 鈴風に起こされてしばらく自分がどこにいるか分からなかった。見回すと、ここは六道園プロジェクトの石橋の上。そこで立ったまま寝てしまっていたのだ。金曜の夜。何とか一週間のバイトを乗り切って(しかも予定の一日多く)、明日は休みだからと久しぶりに家からロックインしたのだけれど、ベッドに寝そべってVRギアを付けてなんて、考えたらそれって寝落ちの態勢だった。「もう少しで、しばらくロックインできなくなるところでしたよ」「ありがとう。もう目が覚めたから大丈夫」 鈴風がタイミングよくロックインしてくれててよかった。と言うのも、ゴリゴリバースではロックインした人が一定期間反応がない場合、強制的に追い出される仕様になっている。そうなると心身異常の疑いありとされてもう一度ロックインするには医療用VRギアまたはブースでチェックを行い認可を得た後、3日以上のクールダウン期間をおかなければならないからだった。つまりかなりめんどいことになるのだ。「どう? 進捗は?」「順調です。ゼンアミさんたちも問題ない、石が立たない以外はって言ってます」 石が立たないのは相変わらずなんだ。手の打ちようがないのなら、これはもうゴリゴリバースの仕様ってことでいいんじゃないかと乱暴なのことを考えてしまう。「匠の御方。こんばんは」 ゼンアミさんが小さな体を丸くして挨拶してくれた。「こんばんは。外で色々あって長く留守にしてしまいました。ごめんなさい」「前にここにいらしたのは4日前。それほど長くはございませんが」 そうか、4日ならロックイン制限で部活に参加できなかった頃と変わらないか。随分経ったように感じたのは20年前へ行っていた3日間のせい?「外ですか」 ゼンアミさんはその言葉に感慨深げに反応した。「もう長らく行っておりません。ともがらは健やかでしょうか」「ともがら?」「外におりましたころの仲間のことでございます」 一瞬、雄蛇ヶ池であたしたちを襲った蓑笠連中のことを思い出した。簔から伸びてきた生首が「ともがらがなんちゃら」と気味悪く呟いていたから。けれどゼンアミ
last updateLast Updated : 2025-08-24
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2-48.六道園の違和感(3/3)

 州浜から池に向けて岬が出ていることは小さな違いだ。それほど大きく突き出しているのでもない。それでもそれをあたしが気になったのは岬がある場所だった。それは「元祖」六道園で、発現した鬼子姿の十六夜が池の中からあたしを引き上げて舟から下ろした場所だったのだ。その「元祖」六道園もまた、あの場所が岬になっていなかっただろうか? 銀河に棹さして須弥山の向こうに消えた十六夜。その姿に気を取られながらあたしが立っていたのは白黒の砂利が美しい州浜だった。その後すぐ「元祖」六道園は一点に収縮して銀河のどこかに消失してしまった。だから足元など見る余裕などなかった。記憶をたどる。足元を見る。ぼやっとだけど頭の中に州浜の汀が浮かんできた。そこに池に突き出た場所があった。岬だ。「元祖」六道園には岬があったのだった。ということは旧町役場の六道園と消失した「元祖」六道園には岬があったのだ。それがないのはここだけだ。このことは、十六夜が見たという六道園は、本物と何らかの繋がりがあるということを示してるんじゃないだろうか?「確かに、池の中の地形を見ますと、あそこに岬があっても不自然ではなさそうなのですが」ゼンアミさんはとても遠慮がちに、あたしの主張を受け入れてくれたのだった。そのことについてはどうするか今後も考えることになった。しっかりとした証拠が出てきたら、もちろん六道園プロジェクトに反映させる約束も取り付けた。次に行った時、必ず動画を撮ってこなくては。「まだ、石が立たないって聞きました」 ゼンアミさんは、「それがここ最近、一層立たなくなってきたようなのです」「そんな事があるの?」「めったなことでは変化はないのです。つまり良くも悪くもならないです。でも何か大事なものが損なわれるようなことがあると、状況は変わってきます」「大事なものって何?」「世界の成り立ちに関わるもの。大地を支えている物です」 ゼンアミさんはそう言うと、それ以上何も話さなくなってしまった。  ロックアウトしてVRギアを外すとノックの音がしていた。「夏波、起きてる?」冬凪の声だ。「起きてるよ」部屋の扉を開けると慌てた様子の冬凪が立っていた。寝る準備を
last updateLast Updated : 2025-08-24
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2-49.調レイカ(1/3)

 今回のあのころの辻沢行きは5日の予定で1週間分の準備をした。千福まゆまゆさんからは長くなりそうだとは言われたけれど、具体的な日数は冬凪も教えてもらってない。あのTWブースの前で、「今回は何日ですか?」 と聞かれた時の答えがその長さに合っていなかったら、もう少し短くてよいでしょうとか長くいた方がよさそうですとか言ってくれるのだそう。「ある種、ギャンブルなんだね」「そうなんだ。長過ぎた時はいいんだけど、与分なものは土蔵に置かせてもらうから。でも短すぎた時がね」「あーね」 ということで少し多めに持って行って少なく申告する作戦にしたのだった。なんか、遠足って感じになってる。 2人で考えたお出かけコーデの服も登山用バッグにしまい終わって、お財布の中身を調べている冬凪に、「古いお金とかはどうしてるの?」 冬凪は向こうで旧札の諭吉万円とか英世千円とかを使っていた。「ヤオマンコインで買ってる」「高くないの?」「まだ何年も経ってないからレートはほぼ同額」冬凪だってフィールドワークのためにずっとバイトをしているのだから、あたしの分まで負担させたら申し訳ない。「あたしも払うからいくら使ったか教えてね」「分かった」 千福まゆまゆさんから時間は指定されていなかったので、まだ日が昇らない早朝のうちに家を出た。土蔵に着くまでに大汗をかかないようにだ。〈♪ゴリゴリーン。次は六道辻。あなたの後ろに迫る怪しい影。降車後は猛ダッシュでお帰り下さい〉六道辻のバス停を降りたころはには日は出ていたけれどまだ涼しかった。孟宗竹が覆い被さるいつもの道を歩いていると、現場の方からピンクに白ラインのadodasジャージを着た子が歩いてきて、こっちに手を振ってくれた。見た感じ、同い年くらいで、ライトブラウンの髪をツインテールにしていて、すごい小顔の中の瞳は大きく金色をしていた。「知ってる子?」「知り合いってほどじゃないけど」 一応手をふりかえす。その子はすれ違う前に右折してあたしたちの道から外れた。歩きながら目で追いかけると茅葺き屋根のお屋敷に入って行く。
last updateLast Updated : 2025-08-25
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2-49.調レイカ(2/3)

 死語構文はさておき、「帰ってきた」辻川町長といい、調レイカといい、あのころの辻沢の人たちは年を取らなさすぎ。「ヴァンパイアなの?」「かもね」「太陽出てるんだけど」 道に覆いかかる竹の隙間からキラキラと夏の太陽が差し込んでいた。そこを調レイカは平気な顔で歩いていた。ヴァンパイアは太陽に当たると死ぬっていうよね。どういうこと? その疑問にこたえてくれる様子で冬凪は顎に指を充てるいつものポーズになった。「調家は六辻家の筆頭なんだけど屋号もあって、辻に王様の王と書いて辻王って言うんだ。何でだと思う?」 調家は辻沢ヴァンパイアの始祖の一人、宮木野の直系だっていうのは冬凪から聞いたことがあったけど、それだけで辻の王様って言ってたらショボい。「わからない」「それはね、調の血がザ・デイ・ウォーカーだから。調家でヴァンパイアになった者は昼間でも出歩ける最強種になるらしい。昼に行動を制限されるのがヴァンパイアでしょ。そこに自分と同等かそれ以上の存在に襲われたらひとたまりもない。逆らう者がいなくなっての辻の王」 その説明を聞いてずっと引っかかっていたことを思い出した。冬凪は辻沢ヴァンパイアの血筋って言うけど、そもそもヴァンパイアって子孫残せるんだろうか? だっていつまでも若いままなのは死んでるからでしょ。成長も衰弱もしないから永遠に生きられる。なら生殖なんて機能しないんじゃ?  それはまた今度質問するとして、そういえば冬凪は調レイカが要人連続死亡事案のキーマンだと言ってたことがあった。最強種のヴァンパイア。ヴァンパイア同士の権力闘争。なるほどね。「分かった! 犯人は調レイカだ」 それを聞いた冬凪は、悲しそうな顔をあたしに向けて、「夏波はおバカになっちゃったの?」 と言ったのだった。 そうしているうち、竹林の土蔵の前まで来ていた。白い土蔵の中に入って白い方の千福まゆまゆさんに会った。最初に冬凪が「前回の調査報告書です」とA4のキャンバスノートを渡すと、白まゆまゆさんは、「「ありがとうございます。これは後ほどゆっくり読まさせていただきます」」 と安定の二重音声で言って胸に抱いた。そう
last updateLast Updated : 2025-08-25
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2-49.調レイカ(3/3)

 あたしは前と同じでない方がよかったので、「冬凪先行ってくれる?」「全然いいよ」 開き市松人形の中に入った冬凪を見送って蓋がしまりしばらく経つと、白市松人形が中割れして再び開いた。前回帰る時も同じ状況だったのに、今は落ち着いているからなのか、そこに冬凪がいなかったことがこんなにもあたしを不安にさせるなんて思わなかった。何か大きな忘れ物をした感覚。「「藤野夏波様、どうぞ中にお入りください」」 白まゆまゆさんに促されて白市松人形の中に入ると、「「藤野夏波様。お願いがあります。どうか私どもの母の消息をお尋ね下さい」」 と言われた。ひょっとしてこれが調査依頼というやつかと思っているうちに鉄の処女の蓋が閉まり、あたしは無数の星明かりが流れる異空間へ射出されたのだった。 真っ暗な空間に縦筋一本の光が射しそこが中割れに開くと、冬凪と黒まゆまゆさんが迎えてくれた。「夏波、気分はどう?」 雄蛇ヶ池で気分が悪くなったのは、このTWブースのせいかもって冬凪が言ってたのを思いだした。心配してくれてたんだ。「ありがとう。大丈夫だよ」トリマ既視感はなし。冬凪が手を取ってブースから引き上げてくれた。「「では、五日後に。ご無事でお戻り下さい」」 黒まゆまゆさんにお別れして黒土蔵を出ると、竹林の広場は明るい陽射しの中にあった。その真ん中あたりにはバモスくんが停まっていて、運転席で鞠野フスキが、半袖のTシャツに半ズボンというかなりラフな格好で昼寝をしていた。冬凪とあたしがバモスくんに近づくと鞠野フスキは、「夕霧太夫、もうじきけちんぼ池ですよ、ムニャムニャ」と寝言を言った。あたしはその内容よりも、寝言でムニャムニャって言う人が本当にいるとことの方がビックリで、鞠野フスキはやっぱり只者ではないと思った。「鞠野先生、起きて下さい」 冬凪が肩を揺らして起こすと、鞠野フスキは気持ちよさそうに大きく伸びをして、「やあ、藤野姉妹。一ヶ月ぶりだね。元気だったかい?」 と挨拶した。冬凪が、「鞠野先生。今回あたしたちがここに来た理由はお分かりですか?」 と
last updateLast Updated : 2025-08-25
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2-50.蘇芳家(1/3)

 千福家の土蔵のある竹林で鞠野フスキに会った後、ホンダ・バモスTN360の後部座席に乗せて貰った。「全速力で行きましょう」 と言って低速力で走り出したバモスくんは、しばらくしてN市へ向うバイパスに乗った。大曲大橋を越えて辻沢のさらに南部へ向う道へ入る信号待ちをしているとき、「これから山椒農家さんを訪ねるよ」 鞠野フスキが教えてくれた。山椒農家さんといわれたので、てっきり冬凪が親しくしているの四ツ辻の紫子さんのところだと思ったけれど、そうではなく別の場所だった。「蘇芳家というんだよ。千福家や調家とも縁のある旧家で、南辻沢の山間地のほとんどを所有している大地主さんだけど、ご当主は女性で、年齢も君たちとそんなに変わらない方なんだ」 また辻沢の旧家が出てきた。冬凪を見ると、「蘇芳家も六辻家の一つだけど、調、千福より格下」 注釈を入れてくれた。あたしの頭には冬凪のヴァンパイアの権力闘争説があったから、調・蘇芳連合VS千福家的な構図をつい考えてしまう。「その人が爆弾を作った人なんですか?」「それは僕にもよくわからなくてね」昨夜、千福まゆまゆさんに土蔵に呼ばれて、明日冬凪とあたしが来るから蘇芳家に連れて行って爆弾を作った人に会わせるように言われた。それが誰かは聞いてないとのこと。今回の辻沢は前回から一ヶ月経った6月の下旬ということだった。ルーフなしドア板なしでボディーはポールとバーで出来たバモスくんは吹きさらしだ。それなのに鞠野フスキは半袖半ズボン姿で流石に寒いんじゃないか。「その格好、寒くないですか?」 冬凪も同じ事を思ったらしい。運転席の鞠野フスキに声を掛ける。「僕はね。ちょっとでも長く夏を感じていたいんだよ。だから隙があったら夏の装いをするんだ」 と青い顔をして言った。後部の荷台を見ると幌らしき布が畳んで置いてある。「これ、掛けましょうか?」「そうしよう」 途中のコンビニに寄って鞠野フスキがバモスくんに幌を掛ける間、暖かい飲み物を買いに入る。冬凪とあたしはどの季節に来ることになるかわからなかったので夏冬両方の着替えを持って来たけれど着いたばかり
last updateLast Updated : 2025-08-26
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2-50.蘇芳家(2/3)

 幌のドアを開けて外に出ると、沢山の人が屋敷前の広場に集まっていた。背中に空の籠を担いでいて冬凪がそれを、「これから山椒の収穫に行く人たち」 と言った。 その中のダッドキャップを被った半袖Gパン姿の大柄な女性に鞠野フスキが近づいて行って何やら話始めた。少しやりとりをした後、冬凪とあたしを呼んだのでそちらに行くと、その女性は半袖の裾の中にたばこを巻き込んでいるようで、どう見てもアニキみたいだった。年は鞠野フスキが言ったようにあたしたちとそれほど違わなさそう。「この方が蘇芳ナナミさん」 鞠野フスキが紹介してくれたけれど、「まゆまゆのママに会いに来た?」 なんの挨拶もなく要件を話し出した。それには冬凪が、「あたしサノクミと言います。今日会いたいのは」 と言いかけて口をつぐんだ。流石に爆弾を作った人に会いに来たとは言えなかったよう。ならば白まゆまゆさんに頼まれたお母様の消息を知れると思って、「あたしはコミヤミユウと言います。まゆまゆさんのお母様に合わせてください」「あんたコミヤミユウっていうのか? もしかしてフィールドワーカーの?」 あたしはこの名前の設定まで考えてなかったので名付け親の鞠野フスキを振り返ると、「はい、そのコミヤミユウです」 と答えた。それには蘇芳さんは特に反応しないで、「まゆまゆのママはうちにいるよ。ちょうど今実家でいざこざがあって逃げて来てる。会って行きなよ」「はい」「じあ、玄関から入って作左衛門さんに案内して貰って。あたしはこれから山椒の収穫行かなきゃだから」 と屋根のない運転席がむき出しになった軽トラに乗りこむと、集まった荷籠の人たちに声を掛けて広場を出て行った。農道に出る時、蘇芳さんは軽トラを停めてあたしに、「おい。偽物のコミヤミユウさんよ。帰ってきたら本名教えてな。あんたはあたしの知ってるコミヤミユウじゃないから」  そういうとエンジンを吹かして農道の坂を上っていったのだった。あたしはびっくりして言葉を返すことが出来なかった。それなのに鞠野フスキは、「そう言えばコミヤくんは山椒農家でお手伝いし
last updateLast Updated : 2025-08-26
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2-50.蘇芳家(3/3)

 作左衛門さんが部屋を出て行って、鞠野フスキが囲炉裏端にあぐらを掻くのを見て冬凪とあたしもそれぞれの面に座ろうとしたら、「そっちは主人の場所だから、こっちに座りなさい」 と言われた。各面で誰が座るかが決まっているのだそう。鞠野フスキと並んで座り、上を見ると黒々としたぶっとい梁が見えた。何百年も経っていそうな古い匂いがしている。沢山の手鏡が襖や棚の上に立て掛けてあるのが気になった。何かからここを守る呪物のようで気味が悪い。 作左衛門さんがまゆまゆさんのお母様を呼びに行ってから20分? それくらいは経っている。鞠野フスキは口を開けて天井の梁を見上げていて待たされていることをなんとも思っていない様子。冬凪は暇すぎて近くにあった鏡を手に持って変顔を始めてしまっていた。 突然冬凪が鏡を落とした。気づくと部屋中のものが無表情で味気なく音も遠のいて聞こえていた。例の別世界にずれてしまったような感覚が襲ってきていた。廊下から足音が近づいてくる。それは作左衛門さんのものではないとすぐに分かった。たどたどしい足取りだったから。そして間口に現れたのは真っ白い浴衣姿に長い黒髪を垂らした女性だった。一瞬幽霊かと思ったけれど足がある。黒髪の女性はあたしたちがいることに気がついていないかのように部屋の中に入って来て鞠野フスキが主人の座と言った場所にゆっくりと腰を下ろした。鞠野フスキも冬凪も黙っているし、あたしもそれを目で追うだけで言葉が出てこない。女性はうつろな瞳で正面を向いたままでいたけれど、何かに気がついたふうで、「何歳になりましたか?」 その声は井戸の底から聞こえてくるような不思議な響きがあった。誰のことを言っているのか分からなかったので、みんな黙っていると、同じように、「何歳になりましたか?」 と繰り返した。それに冬凪が、「まゆまゆさんたちのことですか?」 と応じるとまた、「何歳になりましたか?」 と言うので、「今、4ヶ月です」 確かまゆまゆさんたちは20年前、こちらの時間軸では生まれたばかりのはずだからそれくらい。ところが黒髪の女性はその答えには満足しなかったようで、「何歳になりましたか?」
last updateLast Updated : 2025-08-26
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2-51.千福ミワ(1/3)

 黒髪の女性が立ち去ってすぐ、部屋の外から話し声が聞こえてきた。一人は作左衛門さんの声のようで、もう一人は女性の声だった。「お客様はどこです?」「そこの居間で待ってるよ」 奥の木襖が開いた。そこに明るい色の和服を着た女性が正座していて、「いらっしゃいませ」と言って頭を下げた。髪もきちんとセットされていてとても清楚に見えた。良家の奥様といった感じ。冬凪もあたしも崩していた足を直して頭を下げた。「千福ミワと申します。まゆなとまゆのの母です」 と頭を上げた顔を見て驚いた。精気のあるなしを無視すれば、黒髪の女性とそっくりだったからだ。どういうこと? と横を見ると冬凪もびっくりした様子でミワさんのことを見つめていた。 まず鞠野フスキから、「私は辻沢女子高の教頭の鞠野と申します。この子たちは生徒で100周年史の編纂を担当しています。はいご挨拶」「100周年史編纂室長の三年、サノクミと申します。よろしくお願いします」 100周年史編纂室? そんなの今初めて聞いたんだけど。冬凪の対応力エグい。  「コミヤミユウといいます。よろしくお願いします」 さっきのように何か言われるかと思ったけれど特になさそうで、ミワさんは、「もう辻女も100周年になるのか」 と感慨深げな様子。鞠野フスキが続けて、「突然ですが、辻沢女子高校のOBとしてインタビューを受けていただければと思いまして。蘇芳様にも先日来よりお願いしていましたが、今日は千福ミワ様が偶然こちらにいらっしゃると聞きまして」 千福ミワさんは、「あたしなどに話すことがあるんでしょうか? 双子を産むのなんて辻沢じゃよくある話ですし」 辻沢には双子がよく生まれるのは事実だ。それがヴァンパイアの血筋と関係があって、特に女子の双子の場合どっちかがヴァンパイアだという言い伝えがある。今回はそこを掘り下げるのかと思ったら、ミワさんから、「そうか。ナナミやあたしに聞きたいって事は、あのことですよね?」 あのこととは、「辻女バスケ部員連続失踪事件」 冬凪がいうと、「まゆ
last updateLast Updated : 2025-08-27
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2-51.千福ミワ(2/3)

 四年前、辻川ひまわりがいなくなった日、部活が終わって六道辻のバス停まで一緒に帰ったのは千福ミワさんだった。家が近いということもあったけれど、キャプテンと副キャプテンという立場もあって、いざこざが多い部をどうまとめるかよく相談し合っていた。それでその日は部室に残って二人で話し合っていたら遅くなってしまった。六道辻のバス停に着いたのは、9時になるかならないか。二人はそこで別れた。その次の日、「学校に来ないなって思ったら家出したらしいって川田先生に言われたけれど、ひまわりは嫌なことがあって逃げ出すような子じゃないからラインとかで連絡した。でも通じない。そのうち、ひまわりのパパ、町長のね、から捜索願いが出されて町を上げての捜索が始まった。辻女のバスケ部員も総出だった」青墓の杜や地下道には行かなかった(そこは警察担当)けれど辻沢中を探し回った。そのうちシオネさんが、続いてココロさんがいなくなった。夏休みの間ずっと捜索は続いたけれど、変な噂が立つようになったころ、突然捜査が打ち切りになった。ココロさんやシオネさんのご両親に辻川ひまわりのパパまでが捜索願いを取り下げてしまったのだった。「変な噂とはどんなのでしょうか?」 冬凪が身を乗り出して質問した。千福ミワさんはその勢いにたじろぎながら、「青墓を彷徨ってるって」 辻沢ではそれはヴァンパイアにやられたことを意味する。ただそれを表だって口にする人はいないから、3人は今も失踪中なのだった。「シオネとココロはともかく、ひまわりについてはいろいろ不審な点があってね」 ミワさんは急に小声になって、これは警察には話してないことだけどと言ってから、「ひまわりはどこかで生きている」 そのときもう少しで辻川ひまわりがヴァンパイアになって町役場にいることを言いそうになった。でも辻川ひまわりの許可がいるだろうと思ったから言わなかった。「嫌なことだらけのこの辻沢から逃げ出したヤツがいたけれど、あたしはそれを信じてここに残ったんだ」「逃げ出した人というのは?」  冬凪がすかさず質問を入れる。「マネージャーしてた調レイカって女だよ。最近辻沢に舞い戻ってきたから、なんなら紹介するけど」
last updateLast Updated : 2025-08-27
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