ハウスで作業着に着替え、ヘルメットと軍手をはめて空調服のスイッチを入れ外に出た。「始めましょう」 赤さんが号令を掛ける。皆さん、頭上の太陽に恨みを持っているかのように、下を向いたまま各自の持ち場に散らばって行った。小休止後も、あたしは冬凪が掘った土を箕に受けて土山を築く作業をした。こっちでは15分後だったけれど、実感としては久しぶりの作業だったので慣れるまでが大変だった。体全体が暖房器具になったように暑い。頭を下げた時にヘルメットからボトボト音を立てて落ちる汗には何回でもびっくりする。「夏波、水分補給。がぶ飲みして」 いつの間にかボウッとしていたらしく、冬凪が土壁で影になった所に置いた水筒を渡してくれた。蓋を開けると、中の氷がカラカラと鳴った。言われた通りごくごく喉を鳴らしながら飲むと、麦茶が冷たい棒のように胃の中に落ちてゆくのが分かった。頭が少しズキズキしているのに気がついたけれど、冷たい麦茶のせいなのか、暑さにやられたせいなのか分からなかった。 休憩の後、冬凪と堀り手を交代した。冬凪にも疲れが見え初めていたからだった。けれど、エンピで土を掘るのがこんなに難しいとは思わなかった。まず、土に入っていかない。手で押しても、見よう見まねで足を使ってもびくともしない。それならばと、掬い上げようとしたら、ちょっとしか土が乗ってこない。とにかく、今のあたしにはスキルが足りないようだったので、申し訳なかったけれど、すぐに冬凪に代わって貰ったのだった。 お昼になった。クーラーの効いたハウスで冬凪とおにぎりを食べた。一緒にハウスでお弁当していた江本さんが他の現場のクロー話をしてくれた。なぜか冬凪はむこうを向いていてあたし一人が聞いていたのだけれど、話を聞くうち、冬凪は聞きたくなかったんだと分かった。「昔、江戸時代のお墓を発掘したことがあったの。先生(江本さんは調査員の一番偉い人をこう呼ぶ)が、江本さん、幽霊とか祟りとか平気? って聞くから、全然平気ですって応えたら、じゃあ、遺骨出たから洗ってって言われてやったのよ。土がついてるお骨を水で洗うんだけど、もう何百年も経ってるから乾燥してるって思うじゃない。それがね、洗ってるうちになんだかベトベトしてきて、洗い桶に油が浮いてきてね。手なんかヌルヌル
Last Updated : 2025-08-17 Read more