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2-45.響先生(2/3)

last update Last Updated: 2025-08-21 11:00:33

 グラグラする扉は気味の悪い音を立てて開いた。中に足を踏み入れようとすると、足下の地面がいきなり敷地の中央に向って斜面になっていた。爆心地と呼ぶにふさわしいすり鉢状の地形がそこに広がっていて、その真ん中に屋敷があった名残のコンクリ土台がむき出しになっていた。響先生の姿を目を凝らして探したが見当たらない。

「降りる?」

「行ってみよう」

 滑らないように膝を曲げ手を斜面に添えながらゆっくりと降りて行く。なんとかコンクリ土台にたどりついて這い上り、響先生を探したけれどやはりダメだった。間取りに仕切られたブロックの中に大量の枯れ葉が溜まっていたので、もしかしたら枯れ葉の中に隠れているかもと思ったけど、まさかね。

「響先生、敷地を通り抜けただけだったんじゃ?」

 とは言ったものの、入って来た門扉の方向以外は高い壁に囲まれていて抜け道などなさそう。

「駐車場に車を置きに来ただけでどっかに行ったのかも」

 どこに消えたかは不問に付すとして。

「そんなはずないよ。響先生にはここに来る理由があるからね」

「どんな?」

「それは先生が」

 と冬凪が顎に指を充てるいつものポーズをしようとしたら、

「失踪したココロの親友だから」

 背後から響先生の声が聞こえてきた。

「そして今日がココロが戻ってきた日だから」

 振り向くと手に懐中電灯を持った人が立っていた。そこさっきあたしたちがいたところなんだけどな。失礼ですけど、どっから湧いて出たんですか?

 響先生は間取りの枠を跨いであたしたちがいるブロックに入って来た。先生は懐中電灯とは反対の手に花束を持っていた。あたしがその花束を見ているのに気がついた響先生は敷地の奥を懐中電灯の明かりで照らして、

「あそこの隅にココロが飼ってたネコたちのお墓があってね。今日はこの花を手向けに来た」

 敷地の角に枝を思いっきり伸ばした山椒の木があって、その下枝の奥に3つの木札が立っているのが分かった。

「あたしたちもお参りします。ね、夏波」

 反対する理由はなかった。

 ネコのお墓は、山椒の下枝が邪魔でしゃがまないとそばまで行けないことが分かった。そ
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