All Chapters of ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Chapter 191 - Chapter 200

220 Chapters

2-61.冬凪の献身(3/3)

「冬凪」肩を貸すと、「ごめんなさい。助けられなかった。あたしのせいだ」光の球を放してしまったと言った。「違うよ。あたしがもっと早く気づけばよかったんだよ」その時、辻川ひまわりが大きな羽を広げて目の前に降り立った。「どっちのせいでもない。敵は前からミワに執着してこの機を伺ってた。どのみち向こうに捕らえられるのはわかってたこと」そしてミワさんは人柱にされてしまったのだと言った。「どこにいるかは分かるの?」調由香里の時、辻川ひまわりはその場所が分かると言っていた。「巨大なクレーターが見える」それを聞いて冬凪は頭を上げ、「爆心地なんじゃ?」「どの?」「千福家のかも。今晩これから千福家で爆発が起きる」 辻川ひまわりはそのまま千福家に飛んだ。あたしは冬凪をおんぶして六道園の残骸を出、植え込みの中で頭を抱えている鞠野フスキを助けてバモスくんに向った。駐車場に集まっていた沢山の人(ヴァンパイア?)は既にいなくなっていて、響先生の紫キャベツの軽自動車もなかった。その代わり沢山の消防隊員や警察官が緊急車両で押し寄せていた。 あたしは鞠野フスキに行き先を言った。「千福家へ行ってください」「ぜ(ry)」 千福家へ向う途中、辻沢の街中は人で溢れていた。町役場が倒壊すれば流石の辻沢も大騒ぎになるようだ。 スマフォが鳴った。出ると、「「今すぐお戻りください」」 安定の二重音声はまゆまゆさんだった。あんな小学生みたいな純粋顔して冬凪の血を啜ってたなんて。それが腹立たしかった。電話を切って、「戻って来いって」 冬凪に伝えると、「?」 理解不能のよう。「どういうことだろう? ミワさんが捕らえられたこと知っててかな。これから重大局面ってことも分かっててかな」 土蔵に直行するのか、それとも千福家の爆発を待つのか? 行く先はとりあえず千福家に違いないのだけれど、どっちなのかで、これからの様相が全然違う気がした。 満月の下、バモスくんは辻沢をゆっくりと走る。とっ
last updateLast Updated : 2025-09-06
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2-62.襲い来る者(1/3)

 千福家の近くまで来ると、その先の竹垣に響先生の紫キャベツの軽自動車が停まっていた。中に人がいるようだったけれど誰かは分からない。バモスくんは屋敷の手前の小道に入り竹林の土蔵に向った。爆発を待つにしても門前では都合が悪いと判断したからだった。竹林の広場に月明かりに照らされて辻川ひまわりが立っていた。 「レイカとカリンが中に入って行った」  爆発で千福オーナーが死ぬ。その時、二人がいたことは記録に残ってない。ただ20年後に生きている二人が無事に出てくることは決まっている。では中で何があったのか。冬凪に聞こうとしたけれど助手席に埋まって眠っているようだった。  バモスくんの荷台に置いてある登山用リュックの中でスマホが成った。取り出して出ると、 「「中にお入りください」」  まゆまゆさんだった。冬凪の想定は爆発の瞬間になんらかのアクションがあるだろうから、その時ミワさんを奪還できるのではというものだった。今、入ってしまったらそれができなくなってしまうのじゃないか。白土蔵を見ると扉が開いていて、中から白まゆまゆさんがおいでおいでをしていた。まゆまゆさんに何か別の策があるのを期待して、辻川ひまわりと鞠野フスキを呼んで全員で近づくと、 「「藤野姉妹だけです」」  と言われた。辻川ひまわりと鞠野フスキの二人はもともとこの時間に留まる気でいたそぶりで広場に戻っていった。  冬凪をおんぶして白市松人形の前に来ると白まゆまゆさんが、 「「どちらが先に入られますか」」  と聞いた。するとそれまで眠っていると思っていた冬凪が小さく手を上げて、 「夏波を先に」  と言った。あたしはそれを制して、 「あたしが後で」  と冬凪を白市松人形の中に押し込んだ。中割れ扉が閉じ排気音が聞こえてしばらくしたら、白市松人形が割れて冬凪はいなくなっていた。 「「それでは藤野夏波さん。こちらを装着してください」」  と差し出されたのは、ヤオマン御殿のVRルームで十六夜が、瀉血のため腕に装着していた鉄管だった。これで十六夜の体から玉の緒を吸い出していたのだ。あたしは言われたままそれを腕に付けて白市松人形の中に入った。
last updateLast Updated : 2025-09-07
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2-62.襲い来る者(2/3)

 中割れ扉が閉まり中が暗闇になると、腕の鉄管が締め付けてきた。やがて上腕から首筋とこめかみにかけて涼しく感じ出すと同時に床が抜けた。光の筋の宇宙空間を下降してゆく。これまでと違うのは異常な心拍数だった。ドキドキなんてものじゃない。ドドドドドといった早さで心臓が鼓動していた。再び暗闇、縦に光の筋が入って中割れ扉が開き、黒まゆまゆさんに迎えられた。いつの間にか鉄管は外れて無くなっていた。「冬凪は?」「ここだよ」 すぐ近くの茶箱にもたれかかってこっちを見ていた。顔色は少しよくなった気がしたけれど憔悴していることに変わりなさそうだった。「あたしの顔、どう?」「牙がちょっと伸びたかな」 唇をめくって触ってみると犬歯が尖って長くなったようだったけれどそれは微妙な変化だった。手の爪を見てみた。いつもよりもすこし尖っていたけれどそれほどの変化ではない。あんまり変わってない感じ?「これくらいの血じゃ平気なのかも」「そうだといいけど」 黒漆喰の土蔵の中で泥水で汚れた服を着替えさせてもらった。登山用リュックを開けると一番上に辻女の制服が二組乗せてあった。冬凪がこっそり持って来たのだ。コーデしている時間はなさそうなのでそれに着替えることにした。冬凪は自分で着替える力も残ってなかったのであたしが着替えさせてあげた。 冬凪を抱き起こして黒まゆまゆさんに挨拶をし黒漆喰の土蔵を出た。そして外の光景を見て驚いた。あたりは静寂が支配していたけれど竹林がなくなっていた。それどころか千福邸も跡形も無くなっていて、竹垣の道まで全てが見通せていた。そこに広がっているのは爆心地。遺跡調査地と同じ爆心地の光景だった。しかしそれは出来立ての真新しい爆心地なのだった。よく見ると響先生の紫キャベツが竹垣の中に突っ込んで大破していた。でもそれだけだった。調レイカも響先生もだれも見当たらなかった。バモスくんを探した。どこにも無かった。もちろん鞠野フスキもいない。辻川ひまわりを探した。爆心地にはいなかった。冬凪を白漆喰の土蔵の前に残してあたりを探した。黒漆喰の土蔵の裏手でうめき声がした。そちらに回ると血まみれの辻川ひまわりが力なく横たわっていた。片羽がもげて離れた土の上に落ちていた。「何が
last updateLast Updated : 2025-09-07
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2-62.襲い来る者(3/3)

 黒漆喰の土蔵の屋根を見た。そこに月を背にして何かが蹲っていた。その背に光るものを担いでいた。その銀色に輝く放物形に見え覚えがあった。刹那、そいつが夜空に跳ね上がった。月を背にしたまま猛烈なスピードでこちらに落ちてくる。あたしは咄嗟に辻川ひまわりの腕を取り白漆喰の土蔵の扉の前に放り投げた。同時に背後に衝撃を感じ吹き飛ばされた。太ももが焼き切られたように熱い。見るとそこがぱっくりと割れ肉の色が見えていた。上から飛び降りてきたそいつは地面に突き立ったものを引き抜こうとしていた。その武器を引き抜くと先に着いた土を足でこそげ落としながら言った。「女子高生がこんな時間にうろちょろしてたらいかんな」 そいつの声に聞き覚えがあった。何度か聞いたことがあるくぐもった声をしていた。でも、どこでなのか咄嗟には思い出せなかった。「さあ、こっちに来なさい。私がお仕置きをしてあげよう」 そいつが地面から引き抜いたのは先端が銀色に光るシャベルだった。こいつの武器はエンピだ。つまり、「あんたエンピマン?」「そう呼ぶヤツもいる」 唾を吐き出して言った。そいつの体は痩せ、神経質そうな顔つきをしていて決して強そうには見えなかった。でも、その全身から噴出する怒気には猛烈な圧力を感じた。あたしは、辻川ひまわりと冬凪のところまで下がった。冬凪を見た。逃げる力もなさそうだった。辻川ひまわりは羽をもがれた大きな傷の他にも、全身に切り傷や打撲傷を負っていた。相当長い間エンピマンと闘っていたのだろう疲労が見えていた。回復が早いというヴァンパイアと言っても、これではしばらく闘えそうになかった。「冬凪、十六夜は強い?」 と聞いてみた。「強いよ」「すごく?」「すごく強い。伝説の夕霧並みに強い」 あたしはそれを聞いて覚悟した。このままあたしがエンピマンに殺られるわけには行かなかった。辻川ひまわりがこんな状態であたしが殺られたら冬凪だって危ない。ならば、あたしがきっとこいつを滅殺する。それがあたしの因縁生起。「ひまわり、やって!」 あたしは腕をまくり辻川ひまわりの目の前に差し出した。辻川ひまわりはあたしの意図を知って、鋭い爪をあたしの腕に突き
last updateLast Updated : 2025-09-07
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No.4 鬼子の闘い(1/3)

 ボクが”あたし”との統合を果たそうとしていた矢先、「元祖」六道園が消失した。それからボクは、冷たく暗い海でずっと漂い続けていた。そこはまるで原始の海のようだった。空には赤黒い雲が垂れ込め見渡す限り黒い波が広がっていた。波間の向こうに、いくつもの巨大な竜巻が空と海とを繋ぎ、電光を伴って万物を宙に吸い上げていた。泳いでも泳いでも陸地らしい場所にたどり着けなかった。しまいに力尽きて水に沈み息が出来きず意識を失ったが、気づくと元の水面に浮かび上がっていた。ボクはそれを何度も何度も繰り返す永劫無窮の中にいたのだった。それはまさに地獄。  それが今、再び目覚めることが出来た。強い衝撃とともに。空を見上げると満月が掛かっていた。潮時のようだった。でも不可解だ。この体はボクが知っている”あたし”ではなかったから。腕を見るとそこから血潮がほとばしり出ていた。まあ、こんなのはすぐ治る。近くにあの子がいた。どうやら眠っているようだった。見慣れないヴァンパイアもいた。敵意は無い。それ以前に片羽をもがれ体中に傷を負って動けずにいた。状況が呑み込めないまま、強烈な殺意を背後に感じ振り向いた。男がシャベルを抱え無表情でこちらを見ていた。エンピマンだった。 「ほう。鬼子とはな」  エンピマンとは以前に青墓で対峙したことがあった。その時は探り合いで終わったがその力が侮れないことは分かった。 「鬼子なら穴埋めにふさわしい」  エンピマンはシャベルを構え直した。ボクは前に出て距離を詰める。エンピマンがそれを嫌がって後ろに下がる。さらに詰めるとさらに下がって行く。さらにさらにとやって闘いの場所をあの子のいる土蔵から引き離す。  一閃、目の前を光が横切った。危なく避けたがシャベルの刃で首が飛ぶところだった。見極めが出来ないほど初動の気配が薄い。すかさず追い蹴りで次打を回避する。転じて逃げる相手に二の手三の手の蹴りで追い詰める。大きな木に誘導してそこで仕留めるつもりが、直前の大ジャンプで樹上に逃げられた。枝を伝って登れば上からシャベルが降ってくる。同じくジャンプでさらに樹上に飛び、見下げる形で敵を捉えると、枝を蹴って再び地面へ逃げられた。ボクは敵と土蔵の間に着地してあの子を守る。再び最初の立ち位置に戻っていた。  にら
last updateLast Updated : 2025-09-08
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No.4 鬼子の闘い(2/3)

 ずいぶん前の潮時に青墓を彷徨っていたら、「わがちをふふめおにこらや」 という声がどこからともなく聞こえてきた。初めは気にせず屍人や蛭人間の滅殺に注力していたが、あまりにしつこく聞こえてくるので、次の潮時にその声の主を探して青墓をほうぼう歩いてみた。青墓は奥深く方角をすぐに見失うけれど、闘いを極力避け探すことに徹し歩き回った。何度か挑戦したものの、結局その声の出所を見付けることは出来ずじまいだった。後に夕霧太夫にあの声は何かと尋ねたところ、500年前に埋められた人柱の声だと言った。その人柱は土中で今も生きていて、この世界を支えているのだという。ならば、今埋めようとしている人柱は何のための物だ? (それはボクに、いや、”あたし”に関係があることか?) 十六夜ではないこの”あたし”はあの地獄からボクを連れ出してくれた。だから思惑に従いたい。「お前が発現した理由の一端がある」 ならばエンピマンを倒して、あの連中を排除しなければならないということ。このときボクに闘う理由ができた。 エンピマンを掴まえる必要があった。このまま逃げ回られていてはあの人柱が完成してしまう。どうする? 胸に体当たりを食らわせる勢いで突進した。これではジャンプはないだろう。飛んだ瞬間足を掴まえられるからだ。後ろにも逃げられるが直線攻撃は横方向の動きに反応しにくい。エンピマンが横に飛ぶ初動に入った。次動作での蹴る足を狙って組み付く。成功した。鬼子の手の長さを見誤ったよう。すかさずくるぶしから膝に回転を加え倒す。うつ伏せになった背中の腎臓めがけて打撃を食らわすと、「グ!」 そりゃあ痛いだろうよ。立ち上がりさまシャベルを足で押さえ、そのまま後頭部を連打。土に顔面がめり込んでゆく。本来なら鉢が割れスイカのように血飛沫を上げるのだが、相当な石頭だ。一瞬の間でシャベルに足を掬われ体が浮く。その隙にエンピマンが跳ね起き後方に飛び去った。顔についた泥を拭いながら唾を吐き、「目上に対して失礼だろう」 その言葉の終わる前に次の攻撃。距離を詰めてパンチと蹴りの連続攻撃。向こうはシャベルでそれを防御する。いくつか届いた打撃も体を微
last updateLast Updated : 2025-09-08
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No.4 鬼子の闘い(3/3)

 エンピマンは園芸用スコップをナイフのように突き出し迫ってくる。猛烈なスピードに押されながらも、こなれてないと見切って、両手が伸びるタイミングで懐に入り下から顎に頭突きを食らわした。宙に浮くエンピマン。血飛沫が満月を彩る。体が着地する前に胴体を抱えそのまま地面に杭打ちすると、骨がひしゃげる音がした。エンピマンは逆さに突き立ったまま激しく痙攣しだす。やがて体から黒煙が立ち登り徐々に外郭が剥離しだすと、風にさらわれ霧消したのだった。それは屍人の最後によく似ていた。つまりまた青墓のどこかでよみがえるということだ。 きびすを返し爆心地へ奔った。窪地になった中心に降りて行くと盛り土の跡があったが誰もいなかった。蓑笠の連中の姿を探した。爆心地の何処にも姿はなかった。そこは風も無く雨上がりの後に匂うオゾン臭が漂っていた。 あの子とヴァンパイアが待つ土蔵の前に戻った。あの子は寝息を立てて眠っていた。その横に座っているヴァンパイアに、(すまない。間に合わなかった) すると立ち上って、「仕方ない。どうにもならないこともある」(この子は?)「じきに起きるが怖がらすな」 と言うとよろよろと歩き出した。引きちぎられた背中の羽が痛々しかった。(どこへ?)「帰る。次のミッションがある」 ヴァンパイアを見送った後、ボクは土蔵の前の階段に座り、寝ている子のことを見ていた。目の下に隈が出来ていた。濡れた髪がやつれた頬に張り付いていた。随分と疲れている様子。この子はずっとボクを支えてくれた。潮時では近づいて来てはくれなかった。でも今は、こうしてすぐ側で寝息を立てている。なんだか不思議な感じがした。目を覚ましてボクのこの顔を見たら驚くだろうか。潮時が明けるにはまだ早そうだし充分可能性はある。少し離れて座っていようか。それにしても気持ちよさそうな寝顔だ。顔を近づけてみると幼子のようないい匂いがした。なんだかボクまで眠くなってきた。ちょっと横になろう。さすがに今の闘いで疲れたんだ。 ―――そして、 あたしは目を覚ました。起き上がって見回すと、白漆喰の土蔵の前にいてあたりは静まりかえっていた。横を見ると冬凪が寝ていた。エンピマンは? いないようだった。
last updateLast Updated : 2025-09-08
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2-62.志野婦神社へ(1/3)

 周りに人がいないことを確認して、ボロボロの制服を登山用のリュックのお出かけ用の服に着替えた。着替え終わってもう一度周りを見てみた。二つの土蔵は爆風のせいだろうずいぶん壊れてしまっていた。爆心地に面した白漆喰は特に酷い被害で瓦が飛び漆喰が剥がれハカマのナマコ壁もところどころ崩れてしまっていた。竹林があったところが爆心地の縁になっていたけれど、周囲に土砂が押し出されてはいなかった。それを見ると今回の爆発は外へでなく中へ力が働いたんじゃないかと、ありえないことを思わないではいられなかった。  爆心地の真上に光の球があった。その中に人の影が見える。ミワさんが戻った? と思ったけれどそうではなかった。その中の人は真っ白い羽織袴を着て首に掛かった荒縄で後ろ手に縛られていた。月光の咎人? 馬には乗ってないけど。夢に見るクチナシの人、志野婦が光の球の中に囚われていた。  なんでその時走り出したのかは分からない。助けなきゃと思ったのかもしれない。ただ近くへ行きたかっただけかもしれない。兎に角、全力でその光の球の真下へと急いだ。真新しい爆心地の斜面を転びそうになりながら駆け下りて光の球の真下まで来た。そこは建物ないのに濡れた廊下の匂いとクチナシの香りがする異様な場所だった。手を伸ばせば届きそうに思えたそれは、見上げると絶対届かない上空にあった。白装束の人はその中でゆっくりと回転していたのだった。見ているうち回転は速くなっていき、姿形も分からない状態になると、今度は光の球自体がだんだんと小さくなり始めた。最初は大玉くらいだったものがバランスボールくらいになって、バスケットボール、サッカーボール、ソフトボールと縮まっていき、最後は卓球の球の大きさになった。そして一瞬強い光を放ったかと思うと、ものすごいスピードで辻沢の街方向へ飛び去ったのだった。  あたしはそれを見て、冬凪もあたしも勘違いをしていたんじゃないかと思い付いた。それで急いで白漆喰の土蔵の前に戻ったのだけれど、寝ている冬凪の顔を見たら、もう少しこのままにしておいてあげたくなった。それで冬凪が起きるまで待つことにした。  空には満月。潮時の月が地面を乳白色に染めていた。少し離れた所に折れたシャベルが落ちている。銀色の尖端がこっちに向いていて、まるであたしのことを睨んでいるように見えた。あたしは鬼子になってエンピマン
last updateLast Updated : 2025-09-09
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2-62.志野婦神社へ(2/3)

「まゆまゆさん、戻って来いって言わないね」  冬凪はしばらくなんのことか思い巡らす風でいたけれど、やっと今の状況を思い出した様子で、 「まだ、ミッション達成してないんだと思う」  あたしも同じ意見だった。 「あたしたちのミッションって爆弾作った人と会うことだったけど、それって本当にミワさんでよかったんだろうか?」 「どうしてそう思う?」  ミワさんは、調由香里にレイカをヴァンパイアにして欲しい、辻沢をひっくり返す爆弾になるからと言われて実行した。オッパイを飲ませてV化するっていうのはなんか変だけども。 「ミワさん、最初の爆発のことはなんて?」  小爆心地でのことだ。 「いい花火が上がった、完成したって」  あたしも、アレがレイカの能力なのかと思った。でも、 「町役場倒壊の引き金になった爆発って議事堂の上で起こったでしょ」 「確かに」 「あの時はあたしも見過ごしたけれど、思い返すと調レイカって」  冬凪はいつもの顎に指を当てるポーズになって考えてるよう。調子戻って来たね。そして頭の中で何かを見付けて、 「外にいた」  そうなのだった。爆発の前、議事堂が炎に包まれるもっと前に沢山の人が避難して駐車場に出て来た。その中に蘇芳ナナミさんと一緒にレイカもいたのだった。だから、 「爆発とレイカとは関係がない?」  遠隔能力とかって言わなければ、普通はそう考えたほうが当たってる気する。となると、 「ミワさんはレイカをヴァンパイアにはしたけれど」  冬凪がそれに続けて、 「爆弾は作ってない」  つまり爆弾を作った人は他にいて、冬凪とあたしのミッションはその人に会うこと。  エニシの月が西に傾き東の空が赤く染まり始めていた。今回ここに留まる予定の5日のうち3日目が過ぎようとしていた。実質1日しか過ぎてないけども。  プップッピーピー。 聞き慣れた音がした。そちらを見ると爆心地の縁を巡ってバモスくんが近づいて来るのが見えた。ずいぶん待って目の前で停まり、運転席の鞠野フスキが、 「やあ、藤野姉妹。今回は2時間半ぶりだ。しかし」
last updateLast Updated : 2025-09-09
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2-62.志野婦神社へ(3/3)

 鞠野フスキに聞くと、また二時間半後に来て下さいと言われたのだそう。きっとまゆまゆさんたちが鞠野フスキを避難させてくれたのだろう。辻川ひまわりのことを聞くと一緒にここを立ち去ったけれどその後のことは知らないと言った。 「これからどこへ?」  鞠野フスキが聞いて来た。まゆまゆさんの指令はここへ来ることまでだったらしい。それならと、光の球が飛び去った辻沢の街中へ行って欲しいと頼んだ。とは言っても当てがあるわけではなく、行けばわかるだろうくらいの気持ちで。  バモスくんに乗って走る明け方の辻沢は静かだった。町役場倒壊直後の浮き立った感じももうなくなっている。なんでも起きる辻沢では、あの程度のことでは一瞬で冷めてしまうのだろう。  駅前の大通りを東に向かって走っていると、前方に朝日を背にした志野婦神社の杜が見えた。それを見ているうち、あるイメージが頭に閃いた。それは、志野婦神社の屋根の上に白装束の人が後ろ手に縛られた姿で立っていて、それを参道の階段にいるあたしが見上げているとその人はあたしの視線に気がついて、悲しそうな表情でこちらを見下ろすというものだった。それであの光の球は志野婦神社にある。そう確信した。 「志野婦神社へ」  鞠野フスキが 「全速(以下略)」  と言ってもバモスくんは相変わらずの低速力で、かの人の待つ志野婦神社へ向かったのだった。  神社に着くと鳥居の下で冬凪とあたしは降りた。駐車場にバモスくんを置きに行った鞠野フスキとは社殿で待ち合わせることにした。  鳥居をくぐり参道の長い階段を登る。途中冬凪が、 「なんで、志野婦神社に?」 と聞いて来た。それで、さっきの突然降ってわいたイメージの話をした。すると冬凪は少しだけあたしから離れて、 「夏波? だよね」 じっとあたしを見ている。それはさっきかわいいと言ってくれた時とは全く別の感情のようだった。 「どうしたの?」 「ううん。なんでもない」  なら、そんなこと聴かないよね。さらに問い質そうとしたら、冬凪はあたしの手を取って、 「行こう。志野婦に会いに」 と言ったのだった。 境内に着くとヤバいと思った。すでに別
last updateLast Updated : 2025-09-09
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