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2-62.志野婦神社へ(3/3)

last update Last Updated: 2025-09-09 18:00:07

 鞠野フスキに聞くと、また二時間半後に来て下さいと言われたのだそう。きっとまゆまゆさんたちが鞠野フスキを避難させてくれたのだろう。辻川ひまわりのことを聞くと一緒にここを立ち去ったけれどその後のことは知らないと言った。

「これからどこへ?」

 鞠野フスキが聞いて来た。まゆまゆさんの指令はここへ来ることまでだったらしい。それならと、光の球が飛び去った辻沢の街中へ行って欲しいと頼んだ。とは言っても当てがあるわけではなく、行けばわかるだろうくらいの気持ちで。

 バモスくんに乗って走る明け方の辻沢は静かだった。町役場倒壊直後の浮き立った感じももうなくなっている。なんでも起きる辻沢では、あの程度のことでは一瞬で冷めてしまうのだろう。

 駅前の大通りを東に向かって走っていると、前方に朝日を背にした志野婦神社の杜が見えた。それを見ているうち、あるイメージが頭に閃いた。それは、志野婦神社の屋根の上に白装束の人が後ろ手に縛られた姿で立っていて、それを参道の階段にいるあたしが見上げているとその人はあたしの視線に気がついて、悲しそうな表情でこちらを見下ろすというものだった。それであの光の球は志野婦神社にある。そう確信した。

「志野婦神社へ」

 鞠野フスキが

「全速(以下略)」

 と言ってもバモスくんは相変わらずの低速力で、かの人の待つ志野婦神社へ向かったのだった。

 神社に着くと鳥居の下で冬凪とあたしは降りた。駐車場にバモスくんを置きに行った鞠野フスキとは社殿で待ち合わせることにした。

 鳥居をくぐり参道の長い階段を登る。途中冬凪が、

「なんで、志野婦神社に?」

と聞いて来た。それで、さっきの突然降ってわいたイメージの話をした。すると冬凪は少しだけあたしから離れて、

「夏波? だよね」

じっとあたしを見ている。それはさっきかわいいと言ってくれた時とは全く別の感情のようだった。

「どうしたの?」

「ううん。なんでもない」

 なら、そんなこと聴かないよね。さらに問い質そうとしたら、冬凪はあたしの手を取って、

「行こう。志野婦に会いに」

と言ったのだった。

境内に着くとヤバいと思った。すでに別
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