冬凪とあたしが参道の階段を登り切ると、志野婦神社の境内は別世界へと絶賛ズレ込み中だった。社殿の階の上に小柄な老人がいて冬凪とあたしのことを見下ろしている。見回せば暗がりの中に沢山の蓑笠連中が蠢いていて、また闘わなければいけないと思うとうんざりした。さっき強制瀉血で発現したばかりだから。てか、鬼子のおかわりなんてできないよね? と不安になったけれど、なんだか様子が変だ。蓑笠連中からあのブツブツ声が聞こえてこない。なんだっけ?「とりがら」じゃない、「ぬけがら」でもない。すると冬凪が、「ともがらがわざをまもらん、だよ」「それな」(死語構文) いつも一緒の生首くんたちも遠慮してるのか蓑の中で黄色い目をギラギラさせてこちらを見ているばかりだ。「話し合いをしたいのです。お二人と闘うつもりはありませんよ」 笑みを浮かべて言うのも気味悪かったけれど、それより声に親しみを含ませようとしているのが怖かった。あたしのことをジトっとした目で見て、「夏波殿には始めて会った気がしません」 あたしの名前を知ってた。始めて会ったのに向こうはこっちのことを知り尽くしている恐怖。ストーカーなの? 会ったことがないって言うけれど、あたしとどこかで接点があるような。改めて見直してみる。背はあたしの半分くらいで時代劇に出てくる茶人のような渋めの格好をしている。顔に見覚えはない。おじいさんかおばあさんか分からないけど、ポニーテールにした白髪や顔の皺の多さから、相当なお年寄りなことはわかった。「あなた誰?」 冬凪が聞いたのにそちらは見ずにあたしのことを見つめたまま、「六道殿の命により、この地に技をなしに参った者です。名は」 そこで少し間を置いて、「トラギクと申し上げておきましょうか」 なんで「トラギクです」って言わないの? ハンドルネームってこと? ハンネで粘着する老人ってばキモ過ぎ。「技って人柱を埋めること?」 冬凪がド直球な質問をする。「はて、人柱とはなんのことですかな?」 すごいシラの切り方。さらに冬凪が、「調由香里さんや、千福ミワさんを光の球に閉じ込めたじゃない」
Last Updated : 2025-09-10 Read more