Semua Bab ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Bab 221 - Bab 230

369 Bab

2-70.鬼子とヒダル(2/3)

 冬凪が草陰の怪しげな姿を指して、「あの人知ってる」言った。向こうもそれに気づいて大きな木の後ろに隠れたけれど、あたしにもその顔がハッキリと分かるくらい緩慢な動作だった。まるで見られても平気と言っているよう。「誰なの?」そっちをじっと見つめる冬凪に聞いた。「知り合い。以前は鬼子だった人。あの人はずいぶん前にヒダルに取り憑かれてしまった」クロエちゃんがさらに付けてして、「きっと宿主の体がそろそろ死ぬから次の体を探しているんだよ」クロエちゃんは山道を歩きながら鬼子とヒダルの関係を話してくれた。行旅死亡人の残留思念と言われるヒダルは、他人の魂を吸い取って体を乗っ取り、その人に成り代わる人外だ。それに対し鬼子の魂は、舟にのる人のように体から体を乗り変えて前世、現世、来世と生まれ変わってゆく。それは鬼子の体が魂の入れ物を意味するけど、ヒダルにしてみれば乗っ取りやすい存在となって鬼子に群がるらしい。これまで多くの鬼子がヒダルに体を乗っ取られてきたため、鬼子の最後はヒダルと諦めてしまっている人までいるそう。「そんなことないのに」クロエちゃんは寂しそうに言った。四ツ辻に着いたのは8時を回ったところだった。「ここも結界になっててね」あたしもそれはなんとなく感じた。集落に入った途端に木の芽の香りを感じたからだった。それは山椒農家の集落だからというだけではない気がした。冬凪があたしの手を引いて、「こっちだよ」と案内をしてくれる。いつになく楽しそうだ。ここは冬凪が夏休み前に山椒摘みのボランティアで来た場所で、前から仲良くしてもらっている紫子さんがいる。その紫子さんの家に向っているからだろう。 坂の上の大きな茅葺き屋根の家の玄関先で冬凪が、「紫子さーん。夏波連れて来たよー!」 めっちゃ大きな声で叫んだ。すると奥から出てきたのは藤色の和服姿の女性で、びっくりするくらい綺麗な、というかこの人……。あたしが声が出なくて黙っていると、冬凪が、「分かった? そうだよ。この人が」 まで言ったのを、その和装の女性
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-16
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2-71.薬指の約束(1/3)

 紫子さんは親戚に接するようにあたしを迎えてくれた。玄関の中は広めの土間になっていて、御座に緑の粒が山のように積んである。それが10いくつ。強い山椒の香りを放っていた。「クロエちゃんは何年振りになる?」「うーんと」覚えてなさそう。「上がって」「「「お邪魔します」」」座敷にあがらせてもらった。山椒農家ってどこもそうなのか、蘇芳ナナミさんの家と作りが同じだった。だだっ広い座敷に囲炉裏、天井にはぶっとい梁が渡してある。その上はやっぱり暗闇。 紫子さんが、「クロエちゃんが来ること皆に知らせたら今朝釣ったアマゴを持って来てくれた人がいてね。それ塩焼きにしたから食べて」 そういえばメッチャいい匂いしてる。思い出したように食欲が反応して冬凪とあたしのお腹が合唱を始めた。「そんなに?」言ってるクロエちゃんのお腹も鳴ってるから。「アマゴって清流の女王と言われててすごく貴重でとっても美味しいんだよ」冬凪が教えてくれた。配膳のお手伝いをしながらも我慢出来なくなってよだれたれそうになった。「「「いただきます」」」生まれて初めて食べるアマゴは、「ぜっふぃん(絶品)」どころではなかった。ホクホクの身にちょうどよい塩加減。これまで食べたお魚の中で一番、いや、生涯かけてこれ以上のお魚は食べられないんじゃないかってくらい美味しかった。大袈裟でなく。それと山椒粒の佃煮掛けた白飯。合いすぎて、死ぬ。たらふく食った。眠くなったけど初めて来たお宅で昼寝はまずいと思って我慢した。「あれ見せてあげたら?」 紫子さんがクロエちゃんに言った。「そうだね。もう知ってることだし。ね、夏波」ね、とはよ。あたしは冬凪に何のことかと目で確認したけれど、冬凪にも分からないようだった。「じゃあ、見に行こう。夏波の変態っぷりを」廊下を歩きながらクロエちゃんが前世のあたしは変態だったと言った。「おかげであたし達は地獄に行くことができたんだけどね」言ってる意味が全く分からなかった。「ここがその変態が
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2-71.薬指の約束(2/3)

「変態ってのは半分冗談なんだけど」とクロエちゃんは天井を指さしている。見上げると天井の半分を占める大きさの図面が貼られてあった。冬凪が、「これって鬼子神社の?」それはどう見ても和船の断面図だった。喫水線の部分から上が鬼子神社の空祭壇の間から上の部分、下が中板間と船底の部分だった。「そう。エニシに集められたあたしたちは、これに乗って地獄に行った」鬼子神社のすり鉢を抜けて石畳の参道を滑り降り鳥居をくぐったらその向こうは地獄だった。クロエちゃんたちにとって、それは次元を越える体験だったのだそう。それを聞いてあたしはミワさんと交わした誓いのことを思い出した。ミワさんとまゆまゆさんたちを会わせるため次元を結ばなければならない。「じゃあ、夏波やあたしもこれに乗ったら次元を越えられるのかな」 冬凪も同じ事を思ったらしかった。「それがね」 クロエちゃんは残念そうに、「これが使えたのは一度きりだったんだよね」 他にも地獄から連れ帰りたい人がいたのだけれど二度目に試したらまったく動かなかったらしい。エニシは、その時その時で自分たちの方法を見つけ出すことを強いるのだそう。 次元を結ぶ方法をここに探しに来たわけではなかったけれど、それこそ渡りに船と飛びついてしまったので無駄にがっかりした。「自分で探さなきゃなんだね」 冬凪があたしを見て言った。「何かあるの?」 クロエちゃんに聞かれて、ミワさんのことを話そうかとも思ったけれど、それをするには白黒のまゆまゆさんのこととか、まだ知られていいかわからないことが多すぎた。だから今もっともホットな話題の、「ユウさんのこと」 と応えた。ただ、ユウさんが何処にいるかなんてあたしには想像も付いていなかったのでほんの急場しのぎのつもりだった。けれどもクロエちゃんは、「そうだね。ユウはもうこの世にいないから」 と、とんでもないことを言ったのだった。「どういうこと?」 あたしに問い詰められて、「あ、口止めされてたんだった」もう遅いよ、クロエちゃん。ユウさんは、鬼
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2-71.薬指の約束(3/3)

――『夕霧物語』「夕霧太夫のゆびきりげんまん」―――― 「伊左衛門は、いるかえ」 夕霧太夫の寂しげな声がした。「はい、太夫。ここに控えてございます」「こっちへ、おいで」 夕霧太夫が日々生活する部屋にはなんぴともそこを開けてはならない隠し戸がある。ただ、夕霧太夫のお呼びがあった時だけは中に入ることが許される。年に一度あるかないかの僥倖。それが今だった。伊左衛門は打ち震えながら隠し戸を開けてにじり入る。 中は十畳ほどの広さ。調度はすべて黒檀で、落ち着いているが凛とした空気が漂っていた。部屋の中央に青白い月光が差し込んでいる。外戸が開け放たれているのだ。見ればその月影に夕霧太夫のお姿が染め抜かれている。夕霧太夫は欄干に凭れて夜の景色を眺めていたのだった。もともとこの世の者とは思えぬ夕霧太夫の横顔を、冬の月がいっそう凄惨に映して美しい。「伊左衛門、近こう」 太夫は伊左衛門を側に呼んだ。「はい、太夫」 伊左衛門が太夫の足下ににじり寄ると、「伊左衛門や、あたしはもうじき死にます」 と夕霧太夫は寂しそうに言われた。「そんな」 伊左衛門は二の句を告げぬまま、嗚咽した。これまで夕霧太夫のお言葉は必ずそうなった。伊左衛門が水際に打ち上げられて藻屑のように横たわっていた時も、「この者をあたしの部屋へ連れて行く」 と言って本当になった。だからきっとご自分のお命のこともまた、かならずやそうなるのだ。「あたしが死んでひと月たったらむくろを掘り起こし、きっと辻沢にある青墓の杜に連れて行っておくれ」 辻沢という場所は知らなかったが、青墓の名なら
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2-72.ブクロ親方(1/3)

 座敷に戻って紫子さんと色々話をした。あたしに会ったのが初めてじゃないと言ったは鬼子神社であたしが生まれた時に紫子さんがエニシの糸を結び直してくれたからだと知った。紫子さんにはエニシの赤い糸を操る特別な力があったのだそう。「あった?」 過去の話のように聞こえた。「もう使えなくなってね」 最近衰えてきたと言った紫子さんはいったいいくつなのか。すごく若いようにも見えるし、クロエちゃんの接し方からして絶対年上な感じはするのだけれど、やっぱり辻沢の人たち共通、年齢不詳なのだった。「あたしもそろそろ四ツ辻の世話役を辞めさせて貰おうと思っててね」 四ツ辻には集落の代表を務める世話役という役職ある。村の行事を取り仕切る役なのだけれど、辻沢町役場やヤオマン勢力との折衝を請け負うこともあるのだという。それを代替わりするにあたって候補者を選ばなきゃいけないとなって白羽の矢が当たったのが、「冬凪ちゃん」 まだミユキ母さんには相談してないけれどと言った。冬凪はそれにはまんざらでないようで、「夏波、どう思う?」 そんないきなり言われても困るけれど、「冬凪はどうなの?」「あたしは四ツ辻が好きだから」 いいらしい。それってここに移住して山椒農家を始めるってことなのかな。冬凪の夢だったフィールドワーカーはどうするんだろう。「大学はどうするの?」「行くよ。大学終わったら四ツ辻を拠点にして辻沢を調査するつもり」 そういうところまでちゃんと考えているのが冬凪らしいと思った。あたしなら、ボタンがあったら取りあえずポチッてして何か起きてからどうするか考える。「そこまで考えてるなら、あたしは反対なんてしない」「よかった」 あたしは多分ここに住むことはないだろう。そう思ったら冬凪と一緒に暮らせるのもあと何年もないんだと気づいて、急に寂しくなってなってしまった。「そろそろ帰ろうか」 クロエちゃんが時計を見て言った。それとほぼ同じくして外でボボボボボというエンジン音が聞こえて来た。「迎えに来たみたいだから」 クロエちゃんと冬凪とあたしは、
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2-72.ブクロ親方(2/3)

 四ツ辻からは、鬼子神社に来た時の峠のワインディングロードへ抜けることができない。だから、うねうねとした山道を下って辻沢の街へ出る。山道は舗装されてはいるものの狭く、路肩の下は切り立った崖になっている。その底を覗き込むと白い渓流が細く見えていて、落ちたら車ごと粉々になってしまいそうだった。ブクロ親方はそんな道を猛スピードで駆け下りてゆく。なんでこんな道のカーブで突っ込んでいけるの? 対向車来たら終わりじゃない。「スピードどうですかね?」 とめっちゃ遠慮して言ったつもりだったけれど、ブクロ親方は、「そうですね。車、もっとスピードに慣らしとかなくちゃですね。もうすぐマヒが帰ってくるんで!」 とアクセル踏み込みやがった。 前後左右に頭振られて死んだ。藤野の家に着いたときには髪の毛バッサバサになってた。それでも、「「「ありがとうございました」」」 とお礼をしてブクロ親方のポルシェを見送った。真っ赤な残像を残して秒で視界から消えた。 リビングのソファに腰掛けて一旦気持ちを落ち着かせて、「すんごい運転だった」「マヒが帰ってくるから浮ついてるんだよ」「マヒって誰のこと?」 クロエちゃんもゲーマーのイザエモンのことをマヒって言った。「世界最強の伝説的ゲームアイドル、夜野まひる。あの子、鬼ゴリのチブクロだから」 だからブクロ親方だったんだ。池袋でも傘袋でもなくチブクロ親方。チブクロといえば浄血集団のことだけど。「ブクロ親方って浄血とかする人なの?」「浄血? 何それ」 クロエちゃんにゲーム部の部室で一年生の子が血を搾り取られてそれがチブクロの仕業だったらしいと話した。「それはカタリだね。チブクロは夜野まひるが所属していたゲームアイドルグループRIBのファンの呼称ってだけ」 そして、夜野まひるが飛行機事故で冬のオホーツク海に消えた後、海の中から瀕死の夜野まひるを救い出し北海道を一緒に旅して辻沢に連れ帰ったのがブクロ親方だと言った。「生きてるの? その夜野まひるさんって」 クロエちゃんはこっそり、しかも小さく頷いて、「誰にも
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2-72.ブクロ親方(3/3)

 取りあえず順番にシャワーを浴びて夕食にした。豚バラ肉とゴーヤーを買ってあったので、異端の、と言いたいところだけれど、こればかりは本格的ゴーヤチャンプルーを作る。あたしはミユキ母さんに沖縄料理のお店に連れて行ってもらって一度だけ食べたことがあるけれど、基本はVR動画とかで見た通りのもの。だから出来た物が本当にゴーヤチャンプルーって言っていいかどうか不安があるけれど、ミユキ母さんも冬凪もあたしが作るゴーヤチャンプルーが好きと言ってくれるので夏の定番料理。あたしはゴーヤチャンプルーが豚肉の一番美味しい食べ方かもって思ってる。豆腐は島豆腐がいいみたいだけれど、スーパーには置いてないことが多いので木綿豆腐の堅そうなのを買っておく。準備段階で平皿で重しをして木綿豆腐の水を抜く。ゴーヤは種を取って切ってから塩もみして絞り、苦みを取っておく。まず豆腐を丁度良い大きさに切って焦げ目が付くまでフライパンで炒めて別皿に取っておく。次に豚バラ肉を赤いところが無くなるまでごま油でよく炒める。その後ゴーヤーを入れて炒め、早めに塩を降り入れて火が入ったなーというところで水100ccを入れる。醤油とカツオ出汁を入れて、置いておいた豆腐を混ぜ炒める。弱火にして軽く溶いた卵を入れて放置。皿に取って鰹節をたんまり掛けたらできあがり。それにお味噌汁とサラダを付けて、白飯でどうぞ。「「ぜっふぃん(絶品)」」 二人とも満足そう。よかった。 お皿をかたづけたあと、クロエちゃんには内緒で冬凪と二人で今後の作戦会議をした。少し課題を整理すると、・十六夜を解放するために人柱をブッコ抜かなければならない。調由香里、千福ミワさん、志野婦のことだったらしいけれど、現在の所、ブッコ抜けたのは調由香里の首だけ。・ミワさんとまゆまゆさんたちを遭わせるために次元を繋げなきゃいけない。でも、クロエちゃんたちが地獄へ行ったときに乗った鬼子神社の屋形船は使えそうにない。自分たちでその方法を探り当てなきゃならない。・鬼子神社に薬指を置いてどこかに行ってしまったユウさんを探す。クロエちゃんは何処に行ったか知ってる風だけれど、今はミユキ母さんに口止めされてて言ってくれない。 問題山積だ。冬凪の顔を見たけれどどうしてい
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2-73.受胎告知(1/3)

 冬凪との作戦会議の後、自分の部屋に戻ってVRギアに火を入れた。リング端末をかざしてまゆまゆさんのバッキバキのスマフォからダウンロードした六道園の動画を取り込んむ。ゼンアミさんにも見て貰うので、ホロ動画変換ツールの「ゴリゴリ鳥」(デファクトの「ホロホロ鳥」をYSSがパクった)を使って向こうで撮った複数の動画から立体ホロ動画を生成する。このツールは2D動画から焦点深度を計算して自動3D化した上でホロ動画を生成する優れものだ(パクりだけども)。より多くの動画を合成することで精度もあがる。出来上がるのに少々時間が掛かるので、その間にVRギアのメッセージをチェックする。それほど多くないメッセージをスライドしていると気になる差出人のものがあった。十六夜からだった。最初は連絡が出来るまで回復したのかと沸いたけれど、すぐにそんなはずはないと思い返した。あたしがここを留守にしていたのはたったの一日なのだ。20年前の辻沢では一月近く経過したようだけれど、こちらの時間で言えば昨日の朝に出て夕方帰ってきただけだった。その後、クロエちゃんと山の中の鬼子神社に泊まり、次の朝に四ツ辻まで山道を歩き紫子さん宅でお世話になって、夕方ブクロ親方のポルシェで藤野家に帰ってきたのだった。 メッセージを開けて待っていると真っ白い空間に和装の人が現れた。相変わらず真下を覗き込むような姿勢でいるのは高倉さんだ。「こんばんは。高倉さん、胸を張って正面を見てください」 高倉さんは言われたとおりにして、「あ、藤野夏波様。こんばんは。今日は見ていただきたいことがあってご連絡差し上げました」 きっと十六夜の容態のことだと思ったけれどそれほど不安には思わなかった。なぜなら、赤いエニシから伝わってくる十六夜の気持ちは平常だったから。「十六夜のことですね。見せてください」「では、ご一緒にどうぞ」 すると真っ白い空間が大きなベッドがある十六夜の部屋に変わった。高倉さんが立っているのは、VRル
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2-73.受胎告知(2/3)

 20年前の辻沢で作左衛門さんは言っていた。(まあ、二人とも苦労が多いよ。辻川はDV野郎でひまわりの体は痣だらけだったって聞いたし、千福はエロじじーで毎晩風呂場を覗きにくるっていうしね。こう言っちゃあ何だが、まゆまゆたちだって誰の子かわかたもんじゃない。鶴亀鶴亀)「そうです」 高倉さんは何を肯定したのか。そろそろあたしも分かって来たのだけれど高倉さんはあたしの心の中を覗いて話をしている。だから率直に、「誰の子なんですか?」 十六夜を妊娠させたのはいったい誰だ。そんな悲惨なことは考えるのも嫌だけれど、十六夜のこの状態ならこの屋敷に出入りする全ての男が容疑者になる。けれど高倉さんは全く違う説明をした。そもそもこの部屋に入れるのは医者と高倉さんだけで、十六夜がVRブースに拘束されてからずっとこの部屋は監視されていて、そのような事は起きた記録はない。それ以前に交渉があったかといえば、最初の検査の段階で見つかっていないのだからそれもない。実は、このような状態になったのは昨日の昼すぎ突然だったのだそう。それで改めて検査したところ、「胎児の姿が」 高倉さんが正面の大型モニターを指した。するとそこにエコー画像が表示されて赤ちゃんの姿が映し出されのだけれど、すでに人と分かる姿をしていた。でも、その赤ちゃんは変だった。首の周りに何かが巻き付いていたのだ。保健で響先生が妊娠出産のことを教えてくれたけれど、その時雑談でしたへその緒が首に巻き付いて出てきた赤ちゃんの話を思いだした。でも、それはへその緒とは違って形がハッキリとしていた。それは荒縄だった。胎児の首に荒縄が巻き付いていた。「これって、もしかして」「そうです。十六夜様は神の子を授かりました」 ―――十六夜は志野婦を身ごもっていたのだった。〈♪ゴリゴリーン〉 耳元でアラームが鳴った。しばらく状況が呑み込め
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2-73.受胎告知(3/3)

 朝。ピーカンだった。雨止んでるよ。ワンちゃんバイトなしかと思ったけれど、そんなに甘くなかった。 朝ご飯を食べてる時、冬凪に十六夜の妊娠について話してみた。クロエちゃんは時差ボケらしくまだ起きていないよう。「何か感じてた?」「全然。むしろ良くなってると思ってた」 やっぱりそうだ。十六夜にエニシの赤い糸が繋がった冬凪も同じだった。とんでもない事が起こっているはずなのに、冬凪もあたしも焦る気分にならないのだった。十六夜が幸せならそれでいい。仲の良い友だちが出産するってこんな気持ちなのかも。 六道辻に着いて竹垣の道を歩いていると、行く手に小さな体で大きなリュックを担いでせっせと歩く人がいた。江本さんだった。すぐに追いついて、「「おはようございます」」 と挨拶すると、いつもより少し沈んだ声で、「ナギちゃんにナミちゃん。おはよう。今日の現場は大変よ」 冬凪に同意を求めるように言った。「雨で足場が悪いし、土が重くなってますもんね」「水が出ると始末が悪いよ。ホント、今日は休みたかった」 それから朝礼までずっと江本さんは「帰りたい」とか「来なきゃ良かった」と小声で言い続けていた。 9時になって朝礼が始まった。赤さんが、「今日は水が出てますので、まずそれを綺麗にしてから、精査。その後掘削に入ります。午前中はそれでいっぱいいっぱいでしょう。足下ゆるいですから、滑らないように気をつけてください。それでは、今日も一日、ご安全に」「「「「「「「「「「ご安全に」」」」」」」」」」 皆さん道具置き場に集まって最初に手にしたのはスポンジが入ったバケツとひしゃくだった。「あれで何するの?」冬凪に聞くと、「溜まった水全部、排水して綺麗にするんだよ。大きいところはポンプ使うけれど、水たまりレベルは全部、皆んなでひしゃくとスポンジ使って掻い出すの」 マジか?「あの水全部スポンジで吸い取るってこと?」
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