Semua Bab ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Bab 61 - Bab 70

88 Bab

1-19.水底の石舟(2/3)

 VRブースにロックイン・OKのサインが点いた。部活の時はいつも十六夜が使う右側のVRブースに入ってゴーグルを付け、六道園プロジェクトにロックインする。目の前が暗転して、暗転して、暗転して、おや? いつもなら一瞬でアクセスポイントの石橋の上にいるのになかなかロックインが完了しない。こんなに「距離」を感じたのは初めてだった。ゴリゴリバースのメンテの影響なのだろうか? それでも家からロックインした時に初っぱなからはじかれたのとは違って、少しずつ中に入っている感覚があった。それでVRゴーグルを付けたまま待っていたのだけれど、少し不安になって、「鈴風、大丈夫?」 と内部マイクを使って呼びかけてみた。ところが鈴風の返事がない。マイクが効かなくても隣のブースにいて聞こえないはずはないのだが。耳を澄ますと何やら水が打ち付ける音がしている。匂いを嗅ぐとなんとなくきな臭くも感じる。火事!? VRブースが火を噴いたんだ。あたしは慌ててVRゴーグルを外して状況を把握しようとした。ゴーグルを取って驚いた。そこは部室のVRブースではなく、暗い海の波間だったからだ。あたしは首から上だけを出して波間に浮いていたのだった。空を見上げると赤黒い雲が覆っていた。見渡す限りの黒い波は、まるで原始の海のようだった。電光を伴い万物を空に吸い上げるような巨大な竜巻が波間の向こうに見えた。それが一本ではなかった。何本も空と海とを繋いでいた。まるで火龍の群れが天を目指して上昇しているかのようだった。「鈴風!」叫んだが返ってくるのは波の音ばかりだった。波間に浮かびながらも、ここはいったいなんだと考えた。夢にしては体験解像度があり過ぎた。髪も着ているものも濡れていて水を被った感覚がある。味も塩辛い。未知のローカルバースに迷い込んだとするのが一番もっともらしいと思えたが、これほどのリアリティーが実現できるのはヤオマンHDが管理するゴリゴリバースだけだと思い直した。ならば、ここはゴリゴリバースのどこかか。鈴風もこことは別の場所に飛ばされたのかも知れない。でも、どうやってもとのVRブースに戻ればいい? ブースでなくても六道園プロジェクトにロックインさえできれば。 そろそろ落ち着いていられなくなってきた。立ち泳ぎに疲れてしま
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-25
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1-19.水底の石舟(3/3)

 その時だった。海底の白い砂を蹴立てて石舟が近づいてきたのだ。その船は大徳寺の庭園にある石舟のように人が跨げるほどの小さなもので、ゆっくりと、すごくゆっくりとだがあたしの方に向かってきていた。「ここです! 助けてください」 出せる限りの声を振り絞って叫んだ。それでもその石舟は意地悪するように、じりじりと進んでくる。「急いで! 息が続かない!」 と言った時、まるで石舟の中から現れたように舳先に顔を見せたのは、「夏波! 慌てんな」 ニコニコ笑顔の十六夜だった。「息が苦しいの。もう死ぬかもなの」 ようやく石舟が側まで来て、十六夜が差し伸べた手にしがみつく。「声が出るってことは息してるってことだよ」 確かに。水の中だけどあたしってば息してた。 あたしは十六夜に引き上げられてその後ろに跨がった。そして十六夜の背中にしがみついたのだった。「ありがとう。おかげで助かったよ」「夏波一人でも大丈夫だったさ」「あたしだけだったら勝手に窒息死してた」「そんなことないよ」「なんで?」「だって、ボクらは沈まない」 突然暗転した。猛スピードでどこかへ移動する感覚があった。いや、ずれていくと言った方がよかったかも。そのずれる感覚が無くなり明るくなったので目をゆっくりと開けた。遥か上空に青いテクスチャーの天蓋が見えた。これが約束通りリアルな天空になるのはいつのことだろうと考えていると、視界に見慣れた顔が現れた。「夏波センパイ、大丈夫ですか? ずっとうなされてて」 鈴風だった。「大丈夫だよ。十六夜が助けてくれたから」「十六夜センパイの夢を見てたんですね。それで十六夜、十六夜って」 とあたしから誰かに目を移した。「藤野さん。起きられますか?」 また別の知った顔が現れた。青サングラスのちょいハゲメタボおやじ、伊礼社長だった。「ここはどこですか?」「六道園プロジェクト内ですよ」 ゼンアミさんの声だった。「よかった」 途中遭難したみたいだったけれど
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-25
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1-20.銀河に棹さす(1/3)

 アクセスポイントがずれた件については、伊礼社長が早急に原因調査させると約束してくれた。ゴリゴリバースの障害報告がないので、おそらくVRブース単体の不具合だろうとも言っていた。家から六道園プロジェクトにロックインできなかったことや原始地球のような別世界に迷い込んだことは、十六夜に影響がある気がして言わなかった。 その後、VR酔いのような眩暈の症状が出て気持ちが悪くなったので、あたし的には時間はあったけれど鈴風のロックイン制限に合わせて一時間でロックアウトさせてもらった。VRゴーグルを取ると、不思議と眩暈はなくなっていた。 VRブースをスリープさせて帰り支度をしながら鈴風に聞いてみた。「今週末、家から六道園プロジェクトにロックインした?」「いいえ。さっきの子とずっとゲームしてて」 と申し訳なさそうに答えた。さっきの子って、〈訪問者様。さようなら ♪ゴリゴリーン〉 生徒管理AIのセリフとチャイムがよみがえった。どこかで見た瞳。〈佐倉鈴風様、さようなら。夏波、じゃあね ♪ゴリゴリーン〉 もう諦めたよ。 鈴風と二人で廊下を歩いていると開け放たれた窓から風が吹き込んで来た。空は今にも降り出しそうな雲行きだった。生徒用玄関まで来ると、すでに大粒の雨が校庭をぬらし始めていた。「傘、持ってこなかった」 予報は夕方から降ると言っていたので午前中は大丈夫と思ったのだ。「わたし、教室に置き傘あるから取ってきます」「あ、すぐ止むからいいよ」 と言いかけたけど鈴風はもう一年生の教室のある廊下へ走り出していた。 あたしは鈴風を待つ間、玄関の軒下に出て雨が校庭を濡らしてゆくのを眺めることにした。「万物流転」 頭に浮かんだ言葉を口に出してみた。あの時、十六夜はあたしの隣に傘も差さずに立っていた。あたしは玄関先のあじさいの葉っぱを一枚取って土砂降りの雨の中に踏み出した。校庭にはすでに雨水の流れが幾筋かできはじめていた。その一つの流れの側に行き、あじさいの葉っぱを浮かべてみる。浮かべた途端その葉は鮮やかな緑色に変わって、万物流転の小川をゆっくりと流れ出したと思ったら強い流
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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1-20.銀河に棹さす(2/3)

「濡れますよ」 鈴風が傘を差し掛けてくれた。「やっぱりもう少しやって帰る」「じゃあ、わたしも何かお手伝いを」 と言ってくれたのを、「ううん。先に帰ってて」 と断ってあたしは鈴風にバイバイした。玄関で上靴に履き替えながら雨の降る外を見ると、傘を差した鈴風がキョトンとした表情でこっちを見ていた。〈♪ゴリゴリーン 夏波、また来たんかーい〉 はいはい。「ロックは厳重にお願いね。他の人が来ても入れないで。鈴風もだよ」〈夏波、何かよからぬこと企んでる?〉「そうだね。悪事を働こうと思ってるよ」〈それはワクワクだね〉「だから、少し黙ってて」〈わかりました。ご武運を〉 いつもよりよくしゃべる生徒管理AIだった。 部室に入るとすぐに左側のVRブースに火を入れた。十六夜が使っている右側のVRブースの不具合を心配したというより、いつもあたしが使っているほうからロックインしないと目的が果たせない気がしたからだ。吸気音の後、ドコドコいう起動音が鳴り始める。ロックイン・OKのサインが点くまでの時間がまどろっこしい。その間に管理用のモニターでここ数日の六道園プロジェクトへのロックイン履歴を確認する。やはり十六夜の記録はなかった。それは織り込み済み。肝心なのはもう一つの六道園、「元祖」六道園プロジェクトの履歴だ。あった。ここ数日、律儀に1時間ずつ。そしてたった今、十六夜はロックインしていた。 「なんとでも偽装できるからな」 伊礼社長のロックイン履歴を見て十六夜が言った言葉を思い出した。もしかしたらこれも偽装かもしれない。ロックイン・OKのサインが点いた。左のVRブースに入り、VRゴーグルをつける。ロックイン先を「元祖」六道園プロジェクトに設定して、操作モニター上のROCK・INアイコンをタップする。「ロックイン!」別に言わなくてもいいのだけれど、なんか出た。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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1-20.銀河に棹さす(3/3)

 暗転。移動の体感。斜面を滑って行く感覚。一瞬またあの原始の地球に彷徨い込むかと不安になったけれど、数秒経った後アクセスポイントの石橋の上にいた。美しく刈りそろえられた植栽。アンジュレーションがf値に調整された青い芝生。さざ波立つ池。中島と須弥山を模した庭石。そこは、さっきロックインした六道園とほとんど変わらぬ景色だった。ただ、州浜だけが違っていた。それは黒白で波紋が描かれ高い波頭が波間に寄せる激しい様を表していた。美しかった。知らぬうちに十六夜は一人でこんなものを仕上げていたのだ。あたしは十六夜を探した。池の上には見当たらなかった。十六夜は水の中であたしを助けてくれた。もしやと思い池の中を覗いてみた。それを見てあたしは怖くなって身を引いてしまった。あたしが目にしたのは果てない底なしの空間だったからだ。空を見上げた。青空のテクスチャーがあるはずの天空は、銀河が流れ幾千万の星が光り輝いていた。それはまさに宇宙だった。池の水はその宇宙を映していたのだった。天と地の銀河と星空。この「元祖」六道園は宇宙の中に存在していた。その時、池の中程から浮き上がってきたものがあった。それはあの水底の石舟でそこにこちらを背にして十六夜が立っていた。池水に棹さしてゆっくりと中島へ漕いでゆく。「十六夜!」 あたしは叫んだ。呼び止めなければ二度と十六夜に会えないような気がしたからだ。けれど十六夜は聞こえなかったらしく、どんどん中島に近づいていった。「十六夜、行かないで! そっちに行っちゃダメだよ」 中島の向こうからまがまがしい気を感じたのだった。思わずあたしは池の中に飛び込んだ。しまったと思ったけれど遅かった。泳ぐ方法を知らなかったのだ。だから藻掻くこともできず星々の間を降下していくしかなかった。太陽系を通り過ぎ、オールトの雲を抜け、超新星爆発やクエイサーの乱舞を横目に見て、オリオン腕に沿って天の川銀河の中心に向かい、巨大ブラックホールに吸い込まれそうになった時、「夏波、手を貸せ」 無意識に伸ばした腕を何かが掴んだ。そしてそのままあたしは水の上に引きずり上げられたのだった。「どうしてここに来られた? 夏波には来られないはずなのに」 石舟の上からそう言ったのは十六夜の声だった。でも、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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1-21.十六夜のもとへ(1/3)

「元祖」六道園では、十六夜が中島の向こうに消えてすぐ池水に大きな渦ができはじめた。それは徐々に大きくなり、池の水ばかりでなくここに存在する全てのものを吸い込み始めていた。植栽は根こそぎ、庭石はまるごと、芝生は引き剥がされ、玉石は飛礫と化し、すべての物体が中島に開いた真っ黒い穴に引き込まれて行く。それはまるで「元祖」六道園が一点に収縮しているかようだった。あたしはその渦に呑まれまいとアクセスポイントの石橋に急いだが、それすらが目の前を飛んで行ってしまう始末。あたし自身、いよいよ引き寄せる力に耐えられなくなって転んでしまい、でんぐり返しが止まらなくなった。目が回ってもう何が何だか分からなくなった時、背中に何かがぶつかって動きが止まった。後ろに手を回して触ると、それは一本の棒のようだった。あたしはそれにしがみつき渦の引力に耐えた。力を緩めないよう必死だった。ところが辺りを見て気がついた。何故だかその棒だけ渦の力から自由で引きずり込まれていかないのだ。そして「元祖」六道園のほとんどが渦の中に呑み込まれようとする中、その棒がゆっくりと天に向かって上昇し始め、みるみる「元祖」六道園の渦を下方に置いてきぼりにした。再び宇宙の中に放り出されたかと思ったが、その棒はさらにスピードを増し星間を飛翔しだした。そしてついには全ての星を光の筋に変えると、次の瞬間、よく見る青い星の上にいた。地球だった。そして突然暗転。緊急ロックアウトのブザー音が聞こえて来たかと思うと、あたしは園芸部のVRブースの中に戻っていたのだった。 VRブースのスイッチ盤で緊急解除処置をしてブザー音と警戒ランプを消した後、操作パネルを表示させる。「元祖」六道園プロジェクトはどうなったか。開発用モニタにプロジェクト一覧を表示させたがロックインする時のプロジェクトリストには見当たらなかった。試しに六道園で検索をかけたけれど結果一覧に出て来たのはもとの六道園プロジェクトだけだった。もし「元祖」六道園が消失したとしたなら、十六夜はどこへ行ってしまったのだろう。まてまて、あたしが戻れたのなら十六夜だって戻れているはず。リング端末で十六夜に連絡してみた。ダメだった。これまで通りに反応なし。  VRゴーグルを取ってブースの外に出ようとしたら何かにつっかえて転びそうになった。見ると、あの棒がブースの間口で通
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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1-21.十六夜のもとへ(2/3)

 でも、どうすれば十六夜に会えるだろう。あたしは棒を見ながら考えた。この棒に何かヒントがあるかも。って、ただの棒だった。跨いで見たけど光速で飛んだりもしなさそう。ファンタジーとリアルの関係。そうか、あそこにいたのは自己投影型アバターの十六夜で、いわばファンタジーだ。ならば本体がこちらの世界にいるはずだ。それを探せばよいのだった。 VRブースの火を落として戸締まりを確認し、十六夜の長棹を持って部室を出る。長さ約2m半。バスとか乗れるのか?〈夏波、悪事の首尾はどうだった?〉 生徒管理AIが話しかけて来た。「上々だよ」〈それはよかった。夏波、バイバイ ♪ゴリゴリーン〉「しばらく来ないかもだよ」 返事を待たずに部室を後にした。 校舎を出ると雨はすっかり上がって、夏の日差しが校庭に燦燦と降り注いでいた。さっきの雨水の流れた跡もかろうじて分かる程度になっていた。校門に向かって歩いていると側溝の近くにあたしが流したアジサイの葉っぱが落ちていた。そちらに近づこうと思ったら、突然一陣の風が吹いてその葉を遠くに連れて行ってしまった。それを見ているうち、これから行く先で本当に十六夜に会えるのか不安になってしまった。 十六夜の長棹を持っていたので辻バスでなく歩きで行くことにした。目的地はヤオマン宮殿。辻女からだと20分ほど歩く。高台を見上げればすぐそこに見えるけれど、それは建物が巨大だからで実際はけっこう遠いのだ。十六夜はあそこからロックインしたはずだから、本体もそこにあるはず。本体がある? 十六夜が物になってしまったようで、その言葉を頭の中から追い払った。 行きかう人が長棹を見て奇異な目を向けて来る。走り高跳びには短すぎ、野球のバットには長すぎるこの棒は、やはり部室に置いて来るべきだったろうか。なんかいりそうで持ってきたけれども。 道の両側が高い石垣や垣根になった。元廓のお屋敷街に入ったようだ。長いダラダラ坂を上る。見上げると坂の頂上辺りに陽炎が立っていた。そのさらに上にクレムリンを模したという白亜の御殿、ヤオマン宮殿が見えていた。棹を支えに坂を上っていると、急にお腹がしくしくとなった。疲れて足も前に出ない。暑さのせいかもしれない。日陰を探したが太陽は
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1-21.十六夜のもとへ(3/3)

「長いダラダラ坂で急にお腹が減って歩けなくなることがるんだよ。それはヒダルって奴の仕業でね。そういう時どうすればいいか知ってる?」 ミユキ母さんが言ってたことがあった。「何か食べるの? おにぎりとか、水とか」「何も持ってなかったら?」 ミユキ母さん、あたしまさに今それなの。答えは? はやく。「そういう時はね、掌に『米』という字を書いて呑むといいよ。いっぺんで治るから」 掌に米と書いて呑んでみた。嘘のようにお腹のしくしくが直り、足に力が入って立つことが出来た。坂の上を見上げるとヤオマン宮殿の門はもうすぐそこだった。あそこまで行けばなんとかなる。そう思って、あたしは再び歩き出したのだった。 黒い鋼で出来た大きな門の隅に小扉があって、それだけを監視するかのように守衛室があった。そこのガラスの小窓から髭を生やした警備会社の制服のおじさんがあたしのことを見ていた。そこに近づくと小窓が開いたので、「前園十六夜さんに会いに来ました。同級生の藤野夏波と言います。取り次いでいただけませんか?」「どなたですか?」「藤野夏波です」「いえ。どなたに取り次げと?」「あ、前園十六夜さんです」「前園だれ?」「いざよい」 守衛のおじさんはあたしの顔をじっと見た後、十六夜の長棹を下から嘗めるように見上げて、「そんな人、このお宅にはいないよ。ひやかしなら帰りな」 と言うと小窓を閉じてしまった。あたしはもう一度、小窓を叩いて開けてもらった。「十六夜に取り次いでください。お嬢さんの十六夜に」 守衛さんの表情からうわべの笑みも消えて、「何を言ってるんだお前。前園家に娘さんなどいるものか。ふざけたこと言ってると警察呼ぶぞ」 小窓が勢いつけて閉められた。中から奥にいる誰かと話す声が聞こえた。「死んだ旦那は種無し。女怪一人で子供作ったってか?」 笑い声が聞こえた。 どういうこと? あたしは訳が分からず、ヤオマン宮殿を見上げた。その窓の一つに和服の女性が見えた。きっと高倉さんだろうと思ったところまで覚えている。その後は、意識が
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-27
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1-22.人のぬけがら(1/3)

 頭がズキズキして目が覚めると、あたしはベッドに寝かされていた。やはり門のところで倒れてしまったようだった。腕に違和感があった。怪我でもしたかと見てみると、そこにチューブが刺され真っ赤な血が流れ出しいていた。 瀉血! 体をひねり急いでチューブを取ろうとしたけれど胸に鋼鉄の重しが乗せてあって身動きがとれない。拘束されてる。瀉血じゃない。 これは浄血だ! ゲーム部のあの子のことを思い出した。柱に縛り付けられ顔面蒼白でうつろな目をしていた。救急車で運ばれて行ったけれど、あの後、何もしてあげてなかった。相当なトラウマになったろうのに。あたしは腕に毒蛇のように纏わり付く赤いチューブをむしり取ろうとした。でも反対の腕さえ言うことを聞いてくれない。誰か助けて。このチューブを取って。「大丈夫。落ち着いてください」 声がした方に頭を向けると女性の顔があった。高倉さんだった。あたしは高倉さんの細い手で腕を掴まれ、もう片ほうの手で胸を押さえつけられていた。鋼鉄の重しと思ったのは高倉さんの掌で、そのせいであたしは身動きがとれなかったよう。か細い体のどこにこれだけの強力があるのだろうと思ったら逆らえなくなった。「これは点滴ですよ。血が逆流しただけです」 高倉さんがあたしの目をぎゅっと見つめていた。それはまるで心の底を覗き込んで溜まった澱をつかみ取るかのようだった。そのせいだろうか、あたしはだんだん落ち着いてきて、「点滴」チューブを受け入れる気になった。「すみませんでした。あたし、倒れたんでしょうか?」「はい。私が見ているうちにぱったりと。それで急いで中へ入っていただきました」 やっぱ熱中症かな。水分とらずに炎天下歩いてきたから。「お医者様もそう仰っていました。しばらくここで休んでいればよくなるとも」 足の方のベッドカーテンの隙間から見えたのは、窓のカーテンが閉められ暗くなった部屋で、連結された大型モニターにワークテーブル、アーロンチェアのある部屋の様子だった。「ここは?」「十六夜様のお部屋です」「十六夜はどこですか? 会いに来たんです」「お隣の部屋にいらっしゃいます。後でお会いください
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-28
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1-22.人のぬけがら(2/3)

 気づくと、ベッドカーテンの向こうで二人の女性が話していた。「ヒビキ、この子を連れて来たのはお前か?」 どこかでうっすら聞き覚えがある声だった。「私ではありません。会長」 これは響先生の声だ。会長って十六夜のママのこと? でも、なんで響先生がここに?「この子が何者か知っているのか?」「うちの高校の藤野夏波です」「そうじゃない。誰のエニシか知ってるかと聞いている」「エニシ? 鬼子のですか? 知りません。いったい誰の?」 今、鬼子って言った。「夕霧太夫だ。しかも赤い絆の片割れだぞ。その血を採る気じゃないだろうな。夕霧と戦争になるぞ」「まさか。採りはしませんけど」 夕霧って大火の人だったよね。その片割れってどういうこと? 話に全然ついて行けない。あー冬凪がいてくれたら。「すぐもとの所に戻せ」「でも、私が連れてきたわけではないので」「なら誰だ? また宮木野の亡霊が出たとでも?」「分かりません」「いいから家に帰せ。さっさとしないと出禁にするぞ」 部屋から人が出て行く気配がした。「夕霧と戦争? そもそも鬼子の血を欲しがったのはヒカ&ユカだろっての」 響先生の不平を言う声がした。そしてこちらに近づく足音がしてベッドカーテンが開いた。あたしは聞いていなかった体で寝たふりを決め込んだ。響先生が陰謀的な何かに関わってるなんて知らないことにしたかったし。「お目覚めですね? 十六夜様に会ってあげてください」 響先生かと思ったら中に入って来たのは高倉さんだった。体を起こしてベッドカーテンの隙間から見ると、白衣を着た人が床に倒れていた。響先生?「心配いりませんよ。少しの間寝てもらっただけですので」 ベッドにあったタオルケットを響先生に掛けてから、高倉さんの後について隣の部屋に向かった。 その部屋は思った通りVR専用部屋だった。園芸部の部室ほどの広さに、最新機種のVRブース(レディーバードエッグ15 プロ仕様)、その正面に大型モニターがあって幾千億の星で出来た銀河を映し出していた。異様なのは周囲
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