VRブースにロックイン・OKのサインが点いた。部活の時はいつも十六夜が使う右側のVRブースに入ってゴーグルを付け、六道園プロジェクトにロックインする。目の前が暗転して、暗転して、暗転して、おや? いつもなら一瞬でアクセスポイントの石橋の上にいるのになかなかロックインが完了しない。こんなに「距離」を感じたのは初めてだった。ゴリゴリバースのメンテの影響なのだろうか? それでも家からロックインした時に初っぱなからはじかれたのとは違って、少しずつ中に入っている感覚があった。それでVRゴーグルを付けたまま待っていたのだけれど、少し不安になって、「鈴風、大丈夫?」 と内部マイクを使って呼びかけてみた。ところが鈴風の返事がない。マイクが効かなくても隣のブースにいて聞こえないはずはないのだが。耳を澄ますと何やら水が打ち付ける音がしている。匂いを嗅ぐとなんとなくきな臭くも感じる。火事!? VRブースが火を噴いたんだ。あたしは慌ててVRゴーグルを外して状況を把握しようとした。ゴーグルを取って驚いた。そこは部室のVRブースではなく、暗い海の波間だったからだ。あたしは首から上だけを出して波間に浮いていたのだった。空を見上げると赤黒い雲が覆っていた。見渡す限りの黒い波は、まるで原始の海のようだった。電光を伴い万物を空に吸い上げるような巨大な竜巻が波間の向こうに見えた。それが一本ではなかった。何本も空と海とを繋いでいた。まるで火龍の群れが天を目指して上昇しているかのようだった。「鈴風!」叫んだが返ってくるのは波の音ばかりだった。波間に浮かびながらも、ここはいったいなんだと考えた。夢にしては体験解像度があり過ぎた。髪も着ているものも濡れていて水を被った感覚がある。味も塩辛い。未知のローカルバースに迷い込んだとするのが一番もっともらしいと思えたが、これほどのリアリティーが実現できるのはヤオマンHDが管理するゴリゴリバースだけだと思い直した。ならば、ここはゴリゴリバースのどこかか。鈴風もこことは別の場所に飛ばされたのかも知れない。でも、どうやってもとのVRブースに戻ればいい? ブースでなくても六道園プロジェクトにロックインさえできれば。 そろそろ落ち着いていられなくなってきた。立ち泳ぎに疲れてしま
Terakhir Diperbarui : 2025-07-25 Baca selengkapnya