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Semua Bab 千巡六華: Bab 11 - Bab 20

28 Bab

第九話 朋友

 目の前にいる秀綾《シュウリン》は、背が高く細身で、目と同じ淡い朱色の髪を乱していた。 「お願い!中に入れて!話があるの!」 秀綾は更に目を赤くして、蘭瑛《ランイン》に尋ねる。 蘭瑛は永憐《ヨンリェン》に言われた事を思い出すが、「ど、どうぞ…」と言って、秀綾を部屋の中に入れた。 「突然尋ねてごめんなさい。あなたにどうしても伝えたいことがあって…」 蘭瑛は秀綾を使っていた椅子に座らせ、六華鳳宗から持ってきた白茶を淹れた。秀綾は息を整え、話し始める。 「あなたの命が危ないの。梓林《ズーリン》があなたを殺そうとしてる」 眉間に皺を寄せた蘭瑛は「ズーリン?」と尋ねながら、白茶の入った茶杯を秀綾の前に置いた。 「そう、あなたがこないだ手首を捻ってたあの人。あ、ありがとう」 秀綾はそう言って、茶杯を手に取った。 一口口に含んだ後、秀綾はひと息ついて、また続ける。 「梓林は、光華妃《コウファヒ》と繋がっていて…」 「ちょ、ちょっと待って。光華妃って誰?」 蘭瑛は、手を前に出しながら秀綾の話を遮り、知らない宋長安の妃について尋ねた。 秀綾は、何も聞いてないの?と言わんばかりに、相関図のようなものを紙に書き始める。 「いい?この二人は服従関係にある。これまでも、たくさんの人を追放したり、消したりしている。今回の皇太子殿下の件も光華妃の謀反。皇太后の他にも妃は二人いて、朱源陽《しゅうげんよう》から来た美朱妃《ミンシュウヒ》と、青鸞州《せいらんしゅう》から来た雹華妃《ヒョウカヒ》がいる。賢耀殿下の母君、元皇后の紫秞妃《シユヒ》は三年前に亡くなっていて、今は光華妃とその息子の光明《コウミン》殿下が偉そうに立ち回ってる」 「はぁ…」 (色々と複雑そうだな…) 秀綾の説明を聞いた後、蘭瑛の頭の中にふと永憐と賢耀の二人の姿が浮かんだ。立場を超えて、互いの名を『耀《ヤオ》』と『永憐《ヨンリェン》兄様』と呼び合うほど親しい仲なのは、ただ単に仲が良いからではなく、この宮殿に潜む蜘蛛の巣のように張り巡らされた無数の手から賢耀を守り、関係性を世間に知らしめる為なのだろう。時々、賢耀が幼さを見せるのも、母親の死が影響しているに違いないと蘭瑛は思った。 そのあとも、秀綾から光華妃の狡猾で尊大な醜悪を聞かされ、蘭瑛は複雑な宋長安の人間関係を少しだけ知った気がした。 蘭瑛
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-02
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第十話 監禁

この章では、女性に対する性暴力や性差別用語を含みます。そちらをご留意の上、ご一読ください。 ・ ・ ・ ・ 蘭瑛《ランイン》は項垂れた頭を上げるように、目を覚ました。 ぼんやりと映る視界が、段々と鮮明になっていく。 (ここは…、どこだ…?) 使われていない古びた部屋だろうか。埃っぽい臭いが充満している。どうやら身体は、柱に立つようにして縛り付けられ、両手は後ろで縛られているようだ。完全に身動きが取れない体勢だ。 視線を正面に向けると、見知らぬ男たちが蘭瑛を見て、蹂躙したい欲望にまみれた様子で笑っている。 蘭瑛が目を覚ましたことに気づいた女が、下品な男たちを払いのけるかのように、蘭瑛に向かって歩いてきた。 「目を覚ましたようね?蘭瑛さん。あの時は、私の腕を捻ってくれて、どうもありがとう」 「……」 蘭瑛の顎を掴みながら、蝋燭の灯りから醜い顔を見せたのは梓林《ズーリン》だった。 「悪く思わないでちょうだい。私の意思で、こんなことしてる訳じゃないから。ある人を怒らせたからこうなっちゃってるだけなの。あなたには残念だけど消えてもらわなきゃならない。ただ…あなた、容姿がいいじゃない?胸も豊満だし。そのまま消えてもらうのは忍びないから、最後に男たちに好きなように弄ばれて、凌辱されたらいいんじゃないかと思って、性に飢えてる男たちをここに集めたの。さあ、どれだけ耐えられるかしら?」 蘭瑛は何も言わず、梓林を怒りの目で一瞥した。 「そんな怖い顔で私の顔を見ないでくれる?あ、そうそう。王《ワン》国師は今夜外に出られてるそうなので、残念だけどあなたを助けてくれる人は誰もいないわ。今夜はひたすら、屈辱を味わってちょうだい」 身動きの取れない蘭瑛だったが、顎を掴まれていた梓林の手を何度も首を振りながら振り解き、口の中にたまたま入った指を、血が出るほど思いっきり噛んだ。 「…いたっ!何すんのよ!この傻屄《シャビー》が!」 梓林は怒りに任せ、蘭瑛の額を思いっきり平手打ちする。 すると、近くにいた髭面の男が面白がって近づいてきた。 「なぁ、いつになったらそこにいる艶々な豆腐を食べられるんだ?早く食わせてくれよ〜。俺たち腹ペコなんだ」 「あっそう。なら、とっととやってちょうだい」 梓林はそう言って、外に出て行った。 蘭瑛は静かに目を閉じた。 これまで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-03
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第十一話 御用医家

 蘭瑛《ランイン》は夢うつつな状態で目を覚ました。 見たことのない四角形に区切られた天井の梁を、ぼんやりと眺める。 (ここは…どこだろう…) 蘭瑛の動きに気づいた梅林《メイリン》が、水の入った茶杯を持って寝台に歩み寄ってきた。 「おはよう、蘭瑛。気分はどう?」 眠っていた全身の感覚が徐々に蘇り、顔や頭、折られた脚の痛みが全身に走る。蘭瑛は、効果があるか分からない寛解の術を自分に施し、痛みを抑えながら「…大丈夫です」と言い、上半身だけ起こした。 梅林は水の入った茶杯を蘭瑛に渡しながら話す。 「ここは永憐《ヨンリェン》様のお部屋よ。昨日、湯浴みをしている間にあなた気を失っちゃって、ここで寝かせればいいって永憐様が…。一晩中、ずっと側にいてくださったのよ。永憐様は昨日のことを報告しに、朝早くから帝のところへ行かれているわ」 「…そうでしたか」 蘭瑛は少し間を空けて「秀綾《シュウリン》は?」と尋ねた。  「永憐様と一緒に帝のところへ行ったわ。今までのことを全部話すそうよ。あなたがこんな目にあって、皆責任を感じているわ…。もちろん私もよ。もっとあなたを気にかけていたら、守れていたかもしれないのに…ごめんなさいね」 蘭瑛は目尻を垂らして、首を小さく横に振った。 ここにいる者は誰も悪くない。悪いのは全て光華妃《コウファヒ》だ。皇后という立場を濫用し、賢人と服従関係を結び、自らの手は汚さず人を排除しようとする。 なんて卑怯で悪辣な女なんだ! 蘭瑛は怒りをぶつけるかのように、自由に動く左腕で掛け布団を叩いた。 心的外傷は身体についた傷よりも深く、後になってやってくると言われている。怒りと共に、段々と昨日味わった恐怖も蘇り、蘭瑛は目を赤くしてまた涙を浮かべた。 「蘭瑛…大丈夫?よしよし…」 梅林はそう言って、蘭瑛の背中と頭を交互に撫でた。 蘭瑛は、梅林の手があまりにも温かく感じ、母親に頭を撫でてもらった幼い頃を思い出した。 そんな感傷的に浸っていると、突然「ぐぅ〜」と情けなく腹が鳴った。 梅林は口元に手を当てながら、クスクスと笑いだす。 「お腹はいつもの蘭瑛のようね。美味しい芋粥を作ってきてあげる!それまで、少し横になっていなさい」  梅林にそう言われ、蘭瑛は口の中に溢れてくる涎を飲み込み、また寝台の上で横になる。 今は、傷の痛みで体
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-05
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第二章 禍福 第十二話 残影

 黄緑色の衣の上で、金の刺繍であしらった鳳凰を堂々と靡かせて、狡猾で残忍な女は窓から庭園を眺めている。 「光華妃《コウファヒ》姐さま、ご機嫌よろしゅうございませんね」 桃色の衣の上で、紅色の花を咲かせている女が茶を啜りながら言う。すると、光華妃は威嚇する時に広がる孔雀の羽のように、苛立たしさを含めた態度で扇子を広げた。 「そりゃそうよ。あの他所者医家が来なければ、今頃状況は変わっていたはずなのに!国師がまた余計なことをしでかしたせいで、目論みは台無しじゃない!」 「まぁまぁ、光華妃姐さま。今は少し様子を見ましょう。いずれは、一人ずつ消えていくでしょうから〜」 木漏れ日が雲に隠れ、明るく照らされていた紅色の花模様の衣が、薄気味悪い朱色へと変化していく。 「でも…」そう言いかけて、光華妃は扇子を勢いよく閉じ、白い歯を見せた。 「美朱妃《ミンシュウヒ》、あなたがくれた毒は最高の効き目だったわよ。本当に後少しだったのよ。次はもっと強いのをお願いしたいわ〜」 「姐さま、お顔が緩んでいらっしゃいますよ。毒の件は、また頼んでおきますね。この後の始末は、私にお任せしてもらっても?」 「えぇ。お願いするわ」 光華妃は長椅子に横たわるように身体を預ける。 美朱妃は「では、また」と言って侍女を引き連れ、光華妃の宮殿を後にした。 ・ ・ ・ 一方、永憐《ヨンリェン》と宇辰《ウーチェン》は屍《しかばね》が大量に発生したと深豊《シェンフォン》から知らせを受け、馬に乗って渭陽《いよう》へ来ていた。 深豊たちと合流し、惨憺たる屍の山の前で立ち止まる。 永憐は永冠を鞘から抜き出し、生き絶えた屍の顔や身体を器用につつく。 「深豊、何が起きている?」 「俺も分からねぇ。ただ、玄天遊鬼《ゲンテンユウキ》が絡んでることは間違いなさそうだ。ほら、ここ見てみろよ」 深豊は永憐と同じく剣を取り出し、剣先で屍の首の辺りを指した。 「黒い百合模様か…」 「そうだ。あいつは赤潰疫もだが、黒い花の模様をどこかに残して、傀儡《かいらい》を操ったりしている。恐らくこの屍たちも、玄天遊鬼に操られた後だろう」 深豊がそう言い終えると、突然、屍の山から数名の遺体が手足をおぼつかせてムクっと起き上がった。目は白く、明らかに自分の意思で動いて
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-07
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第十三話 感冒吃葯

「シュウリィ〜ン。これどこにある?」 「え?あ、蘭瑛それは…、そこかな」 蘭瑛はこの宋長安の御用医家になった為、秀綾たちが働く医局に身を置くことになった。医局長だった梓林がこの世を去り、健全な医局に稼働させようと、男性ではあるが女性らしい振る舞いをする江医官と金医官、秀綾と四人で掃除をしていた。 「⭐︎阿蘭と阿綾、そろそろお茶にしなぁ〜い?」 (⭐︎蘭瑛と秀綾を「阿」をつけてちゃん付で呼んでいる) 「いいわね〜、賛成〜!」 「だーめ。あともう少しで終わるから、そこにある芍薬と葛根と甘草、二段目の葯箱に仕舞っといて」 しっかり者の秀綾が、サボりがちな年上の江医官と金医官にダメ出しをする。すぐサボろうとする子どものような、このどうしようもないオカマ医官たちを見て、蘭瑛はクスクスと笑う。 「あんたも笑ってないで、早く仕舞って」 「ふぁ〜い。秀綾先生〜!」 蘭瑛はそう言って、残りの薬草仕舞いに勤しんだ。 そうしていると、以前は全くこの医局に足を運ぶ者はいなかったようだが、六華鳳宗の新しい医者が来たと噂が噂を呼び、「具合が悪くて…」と薬を貰いに来る者や、中の様子を見に来る者がちらほらと現れるようになった。蘭瑛は喜んで問診や調薬をし、症状に効くツボを教えたり、食事や睡眠、冷温効果などを伝え、まるで鳳明葯院で患者を診るように振る舞う。すると、たちまち医局は大盛況となり、秀綾もまた流医としての心得を取り戻したようで、不眠や予防医学に精を出した。忙しさに慣れていないオカマ医官の顔が、生気を取られたように疲れ切っていたことは言うまでもない。 医局の怒涛の忙しさを終え、外に出るともう日は暮れていた。 見上げた今日の星空は、一段と綺麗だ。 (それにしても、急にあんな押し寄せるなんて。ここにいる人たちは今までどんな風に過ごしていたんだろ…) 蘭瑛は今日のことを振り返りながら疑問を抱く。しばらく歩きながらぼんやりとしていると、まだ使用している客室の部屋の扉の前で梅林が立っているのに気づいた。 蘭瑛は驚き、何かあったのかと梅林に駆け寄る。 「梅林様!どうされたのですか?こんな時間に」 「あら、蘭瑛。ごめんね、夕餉時に。本当は…言わなくていいと
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
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第十四話 做梦

 ・ ・ ・  十五年前の春。 剣門山《けんもんざん》にある剣心極道の道場から満開の桜が見えていた。 穏やかな風が吹き抜けるたび、桜の花が丸ごと宙を舞い、地面にはたと落ちていく。しかし、剣豪と呼ばれ始めた永憐《ヨンリェン》の心は常に殺気に満ちており、鮮やかな桜色すら色味を感じられないほど、永憐の視界は常に澱んでいた。 「永憐。今日は宋長安の助太刀《すけだち》だ。行けるか?」 太くて落ち着き払った渋い声が、永憐の脳天から降りてくる。 父でもあり、師匠でもある王心悦《ワンシンユエ》だ。 「…はい。父上」 「今日は、六華鳳宗を焼き払い、宗主を討ちに行くそうだ。宋長安より先に宗主の首を斬ってこい」 そう言われた永憐は、虚な目をしながら永冠を握り締めて、道士たちと一緒に六華鳳宗の討伐へ向かった。 六華鳳宗のある華山の麓に到着すると、六華鳳宗の敷地には既に火を放たれており、建物は炎上していた。 柱が激しく焼け落ち、細かい火種と灰色の煙が上空へ舞い上がる様子を、永憐はただただ無意識に眺めた。 するとそこに、宋長安の武官たちが一斉にやってくる。 「剣門山の道長殿。六華鳳宗は焼き尽くしました!六華鳳宗の者たちは華山の奥へと身を隠しているそうです!私たちはあちらから周ります。道長の皆さんはそちらから中へ入ってください!」 宋長安の武官たちにそう言われた永憐たちは、言われた通りの方向から、華山の奥へと歩みを進めた。 しばらく歩くと、六角形の結晶が刺繍された衣を羽織った三人の男たちが、山の中へと走っていく後ろ姿が見える。 永憐は永冠を鞘から抜き出し、三人の後をつけた。 凍てつくような冷たい鍔音に気づいた六華鳳宗の宗主・鳳鳴《ホウメイ》は振り向いたと同時に、全員を庇うかのように永憐たちの前で両手を広げ立ち止まった。 「玄天遊鬼の責任は六華鳳凰の末裔として私が担う。しかし、ここにいる者たちの命だけは取らないでいただきたい」 鳳鳴は跪き、永憐たちの前で頭を下げた。 永憐は自分にどんなけ赦しを乞おうが知ったことではないと、鳳鳴の首を目掛けて殺気を込めた剣光を放つ。 途中、この者を庇うかのように女が岩から飛び出してきたが、諸共始末した。 剣の先から目線を上げると、白い兎を抱えた幼い女子《おなご》が震えながらこちらを見ている。目を怒りの如く赤くし、こ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-13
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第十五話 追憶

永憐《ヨンリェン》と宇辰《ウーチェン》は宋武帝《そんぶてい》のいる紫王殿へ到着した。 中に入り、普段通り宋武帝と顔を合わせる。 宇辰は宋長安専属の刀鍛冶の接待へ向かう為、席を外した。 「永憐、体調はどうだ?良くなったか?」 宋武帝が茶を啜りながら尋ねる。 永憐は「お陰様で」と出された茶を啜りながら言葉を繋いだ。 「ところで、どうされたのですか?」 「うん。実はな、華宴《かえん》を開こうと思ってな」 「華宴ですか?」 永憐は少し眉間を寄せ、聞き返す。 宋武帝は窓辺に向かい、穏やかな表情で話し出した。 「艶福家《えんぷくか》のお前も、而立《じりつ》を過ぎた男だ。そろそろ、妻を娶ったらどうだ?」 「…いや。私は色欲を絶っていますので、そのようなことは」 永憐は表情一つ変えず、やんわりと断る。 宋武帝は窓側に顔を向け、言葉を続けた。 「やはり、まだ前を向けぬか?」 「……」 永憐の顔色が少しずつ曇る。宋武帝は静かに外を眺め始めた。 永憐の頭の中に一人の女性が浮かぶ。それは、祝言を挙げる予定だった美雨《メイユイ》の姿だ…。 あれは確か、祝言を翌週に控えていた夏の夕暮れ時だった。 蝉の鳴く音が山中に響き渡る中、これから住み始めようと永憐が買った家まで二人で歩いていた。 「ねぇ、⁑永郎《ヨンロウ》!(⁑郎はより親しく呼ぶ名)母上が、私の祝言の為に花嫁衣装を縫ってくれたの。とっても綺麗な花の刺繍が入っててね、早く永郎に見せたいんだけど、それでね髪にもね、豪華な飾りを町の人たちに作ってもらって、それを付けようと思ってるの〜」 「うん。似合うと思う」 「本当〜?でね、でね〜、、、」 美雨は相手に話す隙を与えないほど、よく話す女だった。父・心悦の知り合いの商人の娘で、持ち前の明るさが有名な町一番の看板娘でもあった。殺戮ばかりしている永憐に、少しは穏やかになれと心悦が縁談を持ってきたのだ。美雨の熱烈な打診からあっという間に祝言まで辿り着き、今に至る。  そんな会話をしていると、目の前で宋長安の衣を羽織った護衛の二人が、三歳の男児とその母親を庇うように立ち、剣先を何者かに向けているところに出会《でくわ》した。 永憐は美雨に「ここで待っていろ」と伝え、宋長安の助太刀に向かった。 「通りすがりの剣門山の者です。助太刀いたします」 「王《
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-13
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第十六話 永訣

今日は一段と蒸し暑い夜だった。 雲が月を覆い、ぼんやりとした光が宋長安の夜空を照らす。 蘭瑛《ランイン》と秀綾《シュウリン》は普段通り食堂で夕餉《ゆうげ》をし、いつも通りの他愛もない会話をしながら、一緒に湯浴みをしていた。 秀綾の口の中で、蘭瑛が作った喉飴が今日も転がっている。 「秀綾、もう咳出ないでしょ?」 「うん。ほぉなんだけど、おいひぃ〜からやめらんないのー」 秀綾は口の中で左右に飴を転がしながら話す。 「結構、苦くない?強い生薬入ってるからやめた方がいいって〜」 秀綾は「いいの〜」と言って、味わうように飴を舐め続けた。 蘭瑛は湯船に身体を浸しながら話を続ける。 「そういえば、永憐《ヨンリェン》様にも飴のこと聞かれたんだよね。色んな人に配っているのか?って」 「何?永憐様にも渡してるの?」 「うん。以前、体調崩された時に渡して以来、継続的に」 秀綾は顔をニヤつかせて続けた。 「へぇ〜、ってことは俺だけじゃないのかって嫉妬したんだ」 「ん?嫉妬?ん〜、そんな風には見えなかったけどなぁ〜」 秀綾は「あんた鈍感だから…」と付け加えた。 蘭瑛のポカンとした顔を見ながら秀綾は続ける。 「にしても永憐様、よく舐めれるね。私好きだから舐めれるけど、コレ結構苦いじゃん?」 「永憐様には甘く作ってる」 「え?なにそれ」と秀綾は驚いた様子で蘭瑛を見た。 「ん?永憐様は甘いのお好きだから」 しれっと答える蘭瑛を見た秀綾は、驚いて目を丸くした。 秀綾は目を大きく見開いたまま続ける。 「永憐様って、寡黙で堅物だって聞くし…潔癖で人に触れたりしないって聞くから、食事係りの作る物以外はてっきり食べないんだと思ってた。だって、永憐様を追いかけ回してる侍女たちが作った甘味の差し入れも、絶対に受け取らないって噂だよ!?」 「まぁ確かに、最初はいらないって私も言われたけど…」 (あの時そう言われて、少しイラッとしたんだっけ…) 蘭瑛は永憐を看病していた時のことを思い出した。 そして、蘭瑛は少しだけ顔を手拭いで濡らし、話を続ける。 「でもさ、不特定多数の人から好意を持たれるのも大変そう。顔を表に出せば毎回毎回喚き散らされて、追いかけられてさ。あの美貌だと、いつ媚薬を盛られたってお
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-16
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第十七話 禁足

あれから三日が経った。 医局にも行かず、もぬけの殻になった蘭瑛《ランイン》は自室の窓を開け、寝台の上で仰向けになりながら、流れてくる雲を追いかけた。ただひたすらに移り行く空模様が、一方的に刻まれる時の流れを無常に映し出す。 四日前まで秀綾《シュウリン》は確かに存在していた。 それなのに、その存在は蝋燭の火が突然吹き消されたかのように、一瞬で跡形もなく消え失せた。 (秀綾《シュウリン》に会いたい…) そんな思いが脳裏を巡り、蘭瑛はまた静かに枕を濡らす…。 秀綾《シュウリン》の死は、医局や患者たちの間でも衝撃的な悲報だった。深い悲しみが広がり、皆、黒い玉佩《ぎょくはい》を腰からぶら下げて喪に服した。江《ジャン》医官や金《ジン》医官が時々部屋を訪ねてきてくれたが、蘭瑛は「一人にして…」と周りの優しさに上手く応えられないままだった。 しかし、昼下がり。 そうも言ってられない一通の簡素な手紙が、蘭瑛の元に届く。そこには達筆な字で「至急、紫王殿《しおうでん》へ来るように」とだけ書かれてあった。 これは恐らく永憐の字だろう…。 蘭瑛は色んな意味で、深い溜め息を吐いた。 それもそのはず。 美朱妃《ミンシュウヒ》という淑妃に深傷を負わせた罪はどんな罪人よりも重い。いかなる理由があろうと何かしらの処罰は受けなければならないだろう。それに、国師という立場にいる永憐にも悪態をついた。打首は免れたとしても、医官の剥奪と禁足、もしくは追放のどれかが妥当であると蘭瑛は考えた。 蘭瑛は重い腰をあげ、乱れた衣だけ簡単に整える。 泣き腫らした顔に何を塗っても意味がないと、白粉《おしろい》は付けず、髪も下ろしたままの姿で、紫王殿へ向かった。 何回かこの紫王殿に足を運んだことはあるが、今日ほど憂鬱な気分だったことはない。蘭瑛は重い足取りの中、急な階段を登り、紫王殿の前まで辿り着いた。 呼吸を整え、護衛の一人に声を掛ける。 「医局の蘭瑛です。こちらに来るようにと言われました」 蘭瑛は受け取った紙を広げ、護衛に見せる。 護衛はすぐに蘭瑛を中へ案内し、宋武帝のいる客室に連れて行く。 「蘭瑛医官をお連れいたしました」 「入れ」 宋武帝の声は、普段よりも低く感じた。 蘭瑛は恐る恐る中へ入る。するとそこには、賢耀《シェン
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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第十八話 華宴 壱

 翌朝から形だけの十日間の禁足が始まった。 特に厳しく咎められることもなく、藍殿から出なければ何をしてもいいという、言わば休息のような穏やかな時間をもらった蘭瑛は、久しぶりに梅林《メイリン》と茶を啜っていた。その横では、あの白いうさぎも水を飲んでいる。 「梅林様、この子どうしましょ…。昨日から私と離れようとしなくて…。さすがにここでは飼えませんよね…」 「あらまぁ、そうね〜。でもまぁ〜、いいんじゃないかしら。永憐様、華宴の準備でここにはしばらく戻られないし、蘭瑛は永憐様の部屋で過ごすことになるから、夜は私の部屋で面倒を見るわ」 「んっ?永憐様の部屋?!」 蘭瑛は飲んでいた茶を吹き出しそうになり、驚いた様子で梅林に尋ねた。 「そうよ。永憐様の部屋には誰も入れないから、蘭瑛をそこに置いておけば安心だもの。永憐様は、もうこれ以上あなたに辛い思いをさせたくないみたい。冷たいと言われる永憐様だけれど、優しいところもあるのよ」 「……」 (昨日は仏頂面で、目も合わせてくれなかったのに?) 少し納得のいかない蘭瑛だったが、しばらく永憐《ヨンリェン》と顔を合わせずに済むのならと、蘭瑛は嘘くさい笑みを梅林に見せた。 「嬉しそうね、蘭瑛」 「ち、違います!そんなんじゃありません!」 決して、永憐の優しさに触れたからではない。 蘭瑛は首を横に振って、全力で否定した。 梅林は「うふふ」と笑いながら、続ける。 「華宴、無事に終わるといいわね〜。事が上手く運ぶといいのだけれど」 「そうですね。もしかしたら、永憐様のお妃が決まるかもしれませんしね」 蘭瑛は特に深い意味もなく、目の前にある小窩頭《シャオウォトウ》を食べながら言葉を繋げた。 梅林は何か思うところがあるようで、少し間を置いて答える。 「…それはないと思うわ。永憐様には、永憐様のお考えがあると思うの。そんな簡単に、お妃をお選びになるとは思えないわ」 「そうなんですか?でも、梅林様。分かりませんよ。絶世の美女が現れたら、永憐様だって気を留められるかもしれませんし、人の気持ちはいつだって動き続けてますから、ある日ふと突然…。なんてこともあるのでは?」 蘭瑛は面白おかしく梅林に尋ねたが、梅林からの返事は蘭瑛が思っているとは全く見当違いなものだった。 「じゃ蘭瑛は、永憐様が他の女性と婚姻が決まっても
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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