望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした のすべてのチャプター: チャプター 231 - チャプター 240

241 チャプター

8-13 涙の再会

 ジェニファーを庇う為、抱きしめたニコラスの右腕が撃ち抜かれて、血がほとばしった。「うっ!!」あまりの激痛にニコラスが呻く。「キャアアアアッ!! ニコラスッ!!」ジェニファーが悲鳴を上げる。「くそっ!」警察官が、ホルスターから拳銃を引き抜こうとした時。「ニコラス様っ!!」拳銃を携えたシドが部屋に飛び込み、そのまま窓に銃口を向けて引き金を弾いた。ドーンッ!!銃声が鳴り響き、木の上にいた刺客の胸が撃ち抜かれた。「グアッ!!」悲鳴を上げ、そのまま木の上から刺客は落下していく。「ニコラス! 腕が……!」ジェニファーが悲痛な声を上げる。ニコラスの白いシャツが血で真っ赤に染まっていた。「ニコラス様!」シドも駆け寄り、ニコラスの腕を見て眉を顰める。「……申し訳ございません、外で見回りをしていたばかりに……」悔しそうに唇を噛んだ。「お、俺のことはいい……それより伯爵が……」伯爵は床に倒れたまま、ピクリとも動かない。警察官は必死になって呼び掛けていた。「伯爵! フォルクマン伯爵!」「は、伯爵……」ニコラスに付き添っているジェニファーの顔は青ざめ、震えている。そこへ銃声を聞きつけた警察官たちが駆けつけてきた。警察官たちは床に倒れている伯爵を用意していた担架に乗せて丁寧に運ばれて行ったのだった。「テイラー侯爵様も病院へ行きましょう」先程、事情徴収を行っていた警察官がニコラスに声をかける。「は、はい……」痛みを堪えながら、ニコラスは頷くとジェニファーが訴えてきた。「ニコラス様! 私も付き添わせて下さい!」「ジェニファー……」ニコラスは驚いたようにジェニファーを見つめ、次に警察官に視線を移す。「ええ、我々の方では構いません。では一緒に参りましょう」「ありがとうございます!」「ニコラス様、では俺も……」シドもついて行こうとすると、ニコラスは首を振った。「いや、シドは大丈夫だ。その代わり、この城を頼む。まだどこかに残党が潜んでいるかもしれないしな」「ですが……!」「大丈夫です。テイラー侯爵は今度こそ、我らがしっかり警護しますから」「はい……」そう言われてしまえば、シドは引き下がるしか無かった。「頼んだぞ、シド」「分かりました、ニコラス様」シドが返事をすると、ニコラスは警察官とジェニファーと共に部屋を出て行
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8-14 愛を告げる人

――深夜3時ジェニファーは眠ってしまったジョナサンを連れて、看護婦の案内でニコラスが入院している病室を訪れた。開いている扉から中を覗き込むと、病室は広々とした個室だった。クローゼットやソファセットが置かれ、ニコラスがベッドに横たわっている。「ニコラス様……?」恐る恐る近付いてみると、ニコラスは眠っていた。「患者様はまだ恐らく麻酔が切れていないのでしょう。それでお休みになっているのだと思います」連れて来てくれた看護婦が教えてくれた。「そうですか……目が覚めた時そばに居たいので、ここに居てもよろしいでしょうか? あ、あの無理にとは言いませんので」躊躇いがちに尋ねるジェニファーに看護婦は笑顔で返事をした。「はい、勿論大丈夫です。今、休めるようにブランケットを用意しますね」「お手数おかけいたします」看護婦はクローゼットを開けると、ブランケットをソファの上に置いた。「どうぞお使いください」「御親切にありがとうございます」お礼を述べると、看護婦は「いいえ」と笑顔で返事をして病室を出て行った。「ジョナサン、ソファの上で寝ましょうね」ジェニファーは眠っているジョナサンにそっと囁くと、長ソファへ向かった。ジョナサンを奥に寝かせ、自分もその隣に横たわってブランケットを掛けるも少しも眠気は襲ってこない。「眠れないわ……」でも、それは無理もない話だ。イボンヌによって拘束され、毒を飲まされそうになった。挙句に、伯爵とニコラスが自分を庇うために銃に撃たれてしまったのだから。ニコラスの無事は確認できたものの、未だ手術室から出て来ない伯爵の安否は不明だ。「叔父様……どうか無事でいて……ジェニー。ごめんなさい……」ジョナサンを抱きしめ、ジェニファーは声を殺して静かに泣く。もし伯爵が亡くなってしまったら、修道院に入って一生を捧げよう。そう、覚悟を決めた時。「う……」静かな部屋にニコラスのうめき声が聞こえてきた。「ニコラス様!?」慌ててジェニファーは起き上がると、ニコラスのベッドに近付いた。「う……」ニコラスの額には脂汗が浮いている。そこでジェニファーはポケットからハンカチを取り出し、汗を拭いてあげているとニコラスが薄目を開けた。「ジェニ…ファー……? か……?」「ニコラス様。意識が戻ったのですね? 良かった!」ジェニファーはニコ
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8-15 一番愛する存在

(な、何……? 私、キスされてるの……?)一瞬何が自分の身に起きているか、ジェニファーは理解できなかった。初めてのことにどうすればいいか分からず、ギュッと目をつぶるとニコラスが気付いて顔を離した。「ジェニファー。どうした? ……初めてだったのか?」「そ、そう……です……」真っ赤になって頷くと、ニコラスが笑顔になる。「ならキスをするのは俺が初めてだったということなんだな?」増々赤くなって頷くと、ニコラスは再び左腕でジェニファーを抱きしめ唇を重ねた。自分が初めての相手だと知って、嬉しかったからだ。けれどその反面、罪悪感も込み上げてくる。ニコラスは、銃で撃たれたショックにより消えかかっていたジェニファーの記憶を全て取り戻していたからだ。ニコラスはジェニファーから顔を離すと謝罪の言葉を口にした。「……すまなかった。ジェニファー」「いえ! わ、私は全然……その……イヤでは無かった……ので」真っ赤になって俯くジェニファーにニコラスは少しの間、ポカンとしていたが……。「え? もしかしてキスしたことを謝っているのかと思ったのか?」「違うのですか?」「アハハハ。その事で謝ったわけじゃないさ。でもイヤじゃ無かったってことは、俺を好いてくれていると思っていいのか?」真剣な瞳で尋ねる。「は、はい……身分違いなのは、分かっていますけど、私は……ずっと子供の頃からニコラス様のことが……好きでした……」真っ赤な顔で答えるジェニファー。「そうだったのか? ずっと俺のことを……? あの従兄弟よりも?」「従兄弟? もしかしてダンのことですか?」「あぁ」「何故ダンのことが出てくるのか分かりませんが、ダンはただの従兄弟ですけど?」「何だ……俺はてっきり……」結局自分の思い過ごしだった事を恥じ、ニコラスはジェニファーの頬に触れた。「……どうして、俺はジェニーとジェニファーの区別がつかなかったのだろうな。瞳の色が全く違うのに。それに……雰囲気だって」「え……?」ジェニファーの目が見開かれる。「いくら死にかけて記憶を失ってしまったからと言って……何故、ジェニファーの記憶が抜け落ちてしまったのだろう。そうじゃなければ、いくらジェニーと名乗っていたからと言って、決して2人を間違えるはずが無かったのに。……本当にすまなかった。勝手に勘違いして、傷つけてしまっ
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8-16 付き添いの申し出

――午前10時ニコラスは1週間病院に入院することになり、シドと執事のカルロス。そしてポリーが面会に訪れていた。「ニコラス様。命に別条がなく、本当に良かったです。安心いたしました」カルロスが安堵の表情を浮かべる。「ですが、右腕を撃たれてしまいました。俺が傍を離れていたばかりに……護衛騎士、失格です。申し訳ございませんでした」項垂れるシド。「シドさん……」ポリーはかける言葉が見つからない。するとニコラスが言った。「俺の怪我はシドのせいじゃない。第一、他に刺客が残っていないか周囲を見て来てくれと頼んだのは俺だ。何も気にすることは無い。もうイボンヌも逮捕されたことだし、命を狙われるようなことは無いと思うが……これからもよろしく頼む、シド」「……はい! この先も誠心誠意をもってニコラス様にお仕えします!」「あの……ところでジェニファー様はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」ソファベッドの上で気持ちよさそうに眠るジョナサンに一度視線を移し、ポリーが尋ねた。実は今回ポリーがニコラスの見舞いに来たのは、ジョナサンの世話を頼まれていたからだ。けれど肝心のジェニファーの姿が病室に無い。「俺も気になっていました。ジェニファー様は何処ですか?」シドが詰め寄る。「ジェニファーならフォルクマン伯爵の病室に行っている」「え? 伯爵の……」「病室にですか?」シドとポリーが眉を顰める。「ニコラス様、一体どういうことなのでしょうか?」カルロスが尋ねてきた。「実は……」ニコラスは真夜中に起きた出来事を話した――**** 愚図るジョナサンを寝かせつける為、ジェニファーは一緒にソファベッドに横になり、子守唄を歌っていた。ジェニファーの歌声はとても美しく、ニコラスもウトウトしかけた時。――コンコン病室の扉がノックされ、「失礼します」と遠慮がちに看護婦が入って来た。「あの、どうかしましたか?」眠っているジョナサンを起こさないようにジェニファーは尋ねた。「はい、実はフォルクマン伯爵の手術が終わったのでお知らせに来ました」「伯爵はどうなったのですか!?」ニコラスが身を起こし、ジェニファーは驚いて振り返った。「ニコラス? 起きていたの?」「あぁ……ウトウトしかけていたのだが……それで伯爵は無事なのですか?」すると看護婦の顔が曇る。「手術は終わっ
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8-17 ジェニファーの願い

「こちらのお部屋になります」案内されたのは看護婦がいる詰所の真正面に当たる個室だった。その病室には窓が付いており、通路から個室の中が見えるようになっている。ベッドに誰か横たわっている姿が確認することができた。「あの方は……フォルクマン伯爵ですか?」ジェニファーの質問に看護婦が頷く。「はい、そうです。患者様はいつ容態が急変するか分からない状態なので、私たち看護婦が詰所から見える場所に入院していただいています」「……そうですか」改めて伯爵の容態が思わしくない現実を突きつけられ、ジェニファーは暗い気持ちになった。「あの、中へ入っても大丈夫ですか?」「はい、どうぞ」「ありがとうございます」許可を貰うとジェニファーは扉を開けて病室へ入り、ベッドに近付いた。「叔父様……」ベッドで眠りに就いている伯爵はまるで生気のない顔をしていた。左腕には点滴が刺されている。「叔父様、私のせいで……ごめんなさい……」キルトから出ている腕に触れると、驚くほど冷たい。「冷たい……」まるで死人のような冷たさに、生気のない顔。生きているようには見えなかった。「お願いです……叔父様。死なないで下さい……」ジェニファーの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。もし、伯爵が死んでしまったら……不吉な考えがよぎる。「私だけ幸せになるわけにはいかないわ……」思わず自分の気持ちを口に出してしまった。ずっとニコラスとジョナサンのそばにいると約束した。けれど、もし伯爵が死んでしまったら……修道院に入ろう。例え嘘をつくことになるとしても……。ジェニファーは改めて心に誓うのだった――その後。ジェニファーは病院に無理を言って、伯爵の個室に寝泊まりさせてもらうことにした。いつ容態が急変するか分からない以上、傍に居ないと不安でならなかったからだ。病院側は難色を示していたものの、ニコラスからも頼まれたのでジェニファーの訴えを聞き入れることにしたのだった。そしてジェニファーは1日の大半を伯爵の病室で過ごし、ニコラスの病室で共に食事をするという生活が始まったのだった――****それはニコラスが入院して6日目の出来事だった。ニコラスは仕事の書類に目を通している傍らで、ジェニファーは邪魔にならないように編み物をしていた。チラリとジェニファーに視線を送ると、一生懸命に編み物をして
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8-18 伯爵とジェニファー

「伯爵がどうしたのですか!?」ニコラスが尋ねた。ジェニファーは小刻みに震えたまま、声を出すことも出来ない。「意識を取り戻したのです! それで連絡に来ました」「本当ですか!? お願いです、会わせて貰えませんか? 私にとって、たった一人きりの叔父様なのです!」「ええ、勿論です」懇願するジェニファーに、看護婦は頷いた。「ニコラス……」次にジェニファーはニコラスを振り返る。「俺なら大丈夫だから、行ってくるといい」「ありがとう……!」ジェニファーは笑顔で礼を述べると、急ぎ足で伯爵のいる病室へ向かった。**入院している病室へ向かうと、廊下の窓から伯爵の脈を測る医師と付き添う看護婦の姿が見えた。「失礼します……」遠慮がちに病室に入ると、男性医師と看護婦が振り返った。「あの、フォルクマン伯爵は……」すると医師が笑顔になる。「フォルクマン伯爵の姪子さんですね?」「はい、そうです」「まだ意識が戻ったばかりですが、どうぞ。我々は一旦席を外しますから」「ありがとうございます」部屋を出て行く医師と看護婦に礼を述べると、ジェニファーは恐る恐るベッドに近付いた。「……」ベッドに横たわる伯爵はいつもと変わらず目を閉じている。「……叔父様?」恐る恐る声をかけると、伯爵は薄目を開けた。「ジェニ……ファーか……?」「はい、そうです。叔父様……」ジェニファーは傍らに置かれた椅子に座ると、目に涙を浮かべた。「こんな私のことを……叔父様と、呼ぶのか……? 今迄散々……辛く当たってきた……のに」「駄目…‥‥でしたか?」「まさか。そんなはず……無いだろう。ジェニファーは……血を分けた……ただ一人残された親戚……なのだから……」伯爵はジェニファーを見つめる。「叔父様……どうして……私なんかを庇ったりしたのですか? そのせいで……死にかける程の大怪我を……」最後の方は言葉にならなかった。「……さっき、話した通りだ……たった一人の姪で……弟の子供だから……だ」そして弱々しく笑った。「叔父様……」ボロボロ泣くジェニファーに伯爵は語った。「私は……ずっと……夢を見ていた……気付けば、何処かも分からない真っ暗な場所に立っていて……遠くで子供の泣き声が聞こえてきて……近付いてみると……」そこで一度、言葉を切る。「それは……まだ子供の頃のジェ
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8-19 ジェニファーのお願い

 目が覚めたばかりの伯爵を、あまり疲れさせてはいけないと思ったジェニファーは病室を退散することにした。「叔父様、又明日も明後日も毎日お見舞いに来ますね」「え……?」伯爵の顔に戸惑いが浮かび、ジェニファーが焦った様子で尋ねた。「どうかしたのですか? どこか具合の悪いところでもあるのですか?」「い、いや……。大丈夫だ……。ただ、毎日……見舞いに来るという話に……驚いただけだ」「駄目でしょうか……?」悲しげな表情を浮かべるジェニファー。「駄目という訳では無いが……ジェニファーにはニコラスがいるだろう? ……今は彼の妻であり……ジョナサンの母親……なのだから……」「確かにそうですが私にとって、たったひとりきりですから」「!」伯爵が驚いた様子でジェニファーを見つめる。「お願いです。叔父様が元気になるまでは、毎日面会させてください。私がニコラスに出会えたのも叔父様が『ボニート』に連れて来てくれたからです。そうでなければ……きっと私は今もずっとあの家を出ること無く、大切な人に出会うことも無く終わっていたと思います」「ジェニファー……」「私は……自分の勝手な都合で……ジェニファーを連れだしたんだぞ? 身体の弱い娘の面倒と……話し相手にさせる為に……。それにジェニーが喘息の発作で死にかけた時……傍に居なかったという理由で、酷い言葉をぶつけたのに……か?」「でもそれは叔父様が怒るのは当然です。ジェニーが苦しんでいた時、私が側にいなかったのは事実ですから」ジェニファーは首を振って、伯爵の言葉を否定した。「だが……」「それとも迷惑でしょうか……?」「まさか……迷惑なはず無いだろう。……ありがとう、ジェニファー」伯爵は弱々しくも、笑みを浮かべた。「はい、また。叔父様」ジェニファーは会釈すると、病室を後にした――****「それで伯爵の様子はどうだった?」病室に戻ってきたジェニファーに、ニコラスは尋ねた。「目が覚めたばかりで、弱々しかったけれど話が出来たわ。……本当に良かった。それでお願いがあるの」「どんなお願いだ?」「明日からも毎日、叔父様のお見舞いをさせて貰いたいの。……出来れば退院するまでの間」「え……? それは、もしかして『ボニート』に残るということか?」ニコラスの顔に怪訝そうな表情が浮かぶ。イボンヌの件が片付いたこともあり
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8-20 ニコラスと伯爵

――翌日 本日退院するニコラスは、ジェニファーと一緒に伯爵の病室に来ていた。「そうか……ニコラスは今日、退院するのか……」未だ、ベッドから起き上がることのできない伯爵。けれど昨日よりは顔色が良くなっている。「はい、伯爵。一足先に退院させて頂きます」「叔父様。又明日面会に来ますね」ジェニファーの言葉に、伯爵は怪訝な顔つきになる。「本当に……毎日、面会にくるつもりなのか? ニコラスはもう退院するのに……」「はい、大丈夫です。ニコラスには許可を貰いましたから」ニコニコ笑顔で返事をする。「そうか……」伯爵はチラリとニコラスに視線を移し、再びジェニファーに話しかけた。「ジェニファー……すまないが、ニコラスと2人きりにさせてくれるか……? 少し、彼と話がしたいのだ……」「はい、分かりました。では私は廊下で待っています。叔父様、又明日来ますね」会釈したジェニファーが病室を出ていき、2人になると早速伯爵がニコラスに尋ねた。「ニコラス……義母と義弟は……どうなった?」あの事件を思い出させたくない為、伯爵はわざとジェニファーの席を外させたのだ。庇って銃に撃たれて死にかけたことを、今ももってジェニファーは詫びていたからである。「義母は放火と殺人未遂の疑いで逮捕されて、今は取り調べを受けています。過去に何度も私の命を狙っていた余罪も追及されているようです。終身刑は確定ですね。恐らく流刑地に送られて死ぬまで出られないでしょう。雇っていた私兵も全員逮捕されました」「彼女は逮捕されたのか……それで義弟はどうした?」「パトリックも一時拘束されましたが、取り調べの結果釈放されました。義母と共謀した事実が一度も無かったので。それどころか逆に妨害していたようです。私が毒殺されそうになった時、パトリックが解毒薬を飲ませてくれたのも彼でした。それに……ジェニファーが義母に毒を飲まされそうになった時、必死になって止めようとしたらしいので」「……成程。それで君はパトリックを許すことにしたのか?」伯爵の言葉に少し考え、ニコラスは頷いた。「そうですね。当主の座に固執していたのはパトリックではなく、イボンヌでした。それに何よりジェニファーを助けようとしていたことも分かりました。パトリックは私に謝ってきましたよ。もう二度と私の前には現れない、田舎でのんびり暮らしていくと」
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8-21 プロポーズ

「待たせたな。ジェニファー」ニコラスが病室から出てくると、廊下に置かれた長椅子に座っていたジェニファーが立ち上がった。「いいえ。大丈夫よ」「それでは、城に戻ろうか?」「はい」ジェニファーは返事をすると、窓から笑顔で病室に手を振る。すると伯爵も笑みを浮かべて小さく手を振った。「……」笑顔で手を振りあうジェニファーと伯爵の姿を前に、ニコラスは複雑な気持ちを抱いていた――**** 迎えの馬車に乗り込むと、早速ジェニファーはニコラスに尋ねた。「ニコラス、叔父様とはどんなお話をしたの?」「え? あ……事件の詳細を聞いて来たんだ。だから説明をしたよ」「そうだったの? 叔父様、私には一度も尋ねてきたことが無かったから話していなかったのだけど……説明してあげれば良かったかしら」「あぁ、それなら伯爵が言っていたよ。ジェニファーに事件のことを思い出させたくは無かったから、聞かなかったと。何しろ……毒を飲まされそうになっただろう?」そしてニコラスはジェニファーの様子をうかがった。「え? 叔父様がそんなことを……? 私のこと気にかけてくれていたのね……」「あ、あぁ。そうだな」先程からジェニファーは伯爵の話にしか触れてこない。それが何となくニコラスは寂しく感じた。その時、ふと伯爵の言葉が耳に蘇る。『私に遠慮などせず……結婚式を挙げてみたらどうだ……? プロポーズはしたのだろう?』(そうだ……今、ここで……プロポーズを……)ニコラスが意を決したとき。「フフ。もうすぐジョナサンにも会えるのね。楽しみだわ、私の我儘で6日間も傍を離れてしまったから。早く抱きしめたいわ」「そ、そうか。俺も早く会いたいと思っているさ」苦笑いしながら、ニコラスは思った。プロポーズは別の機会にしよう……と――****『お帰りなさいませ! ニコラス様!』城に戻ると、すべての使用人達がニコラスとジェニファーを出迎えた。「ニコラス様が戻られるのを我等一同、お待ちしておりました」執事のカルロスが代表で前に出てきた。隣にはシドの姿もある。「ただいま。皆、心配をかけてしまったな」「ニコラス様、ジェニファー様。お帰りなさいませ」シドが2人に交互に会釈すると、背後からジョナサンを抱いたポリーが現れた。「マァマッ!」ジョナサンがジェニファーの名前を呼び、手を伸ばす。
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エピローグ 1

 あの襲撃事件から、早いもので1年の歳月が流れていた――ゴーン ゴーン ゴーン青い空の下、『ボニート』の教会の鐘が鳴り響く。 今日は――ジェニーが眠る教会で、ジェニファーとニコラスの結婚式が執り行われるのだ。結婚式は簡素に執り行いたいと願うジェニファーの希望通り、招待客は限られていた。 テイラー侯爵家から筆頭執事のライオネル、ただ一人。そして――「まさか、町の人達を結婚式に招待するとは思いませんでしたね」屋外パーティーの準備をしながら、ポリーが警備にあたっていたシドに話しかけた。「……そうだな。でもジェニファー様らしい」ポツリとシドが答える。 その横顔はどこか寂しそうだった。「シドさん、まさかまだジェニファー様のことを……」ポリーが口にしかけたとき。「すみません、お尋ねしたいことがあるのですが」不意に背後から声をかけられ、2人がふりむく。 すると水色のセレモニードレスを着た長いブロンドに青い瞳の若い女性が立っていた。女性の姿が一瞬ジェニファーの姿と被り、シドは瞬きする。「どうかしましたか?」ポリーが尋ねた。「テイラー侯爵家の結婚式が執り行われるのは、この教会ですか?」「はい、そうですよ」ポリーが返事をした時――「おーい! サーシャッ!」突然大きな声が響き渡り、青年がこちらに駆け寄ってくる。 その姿を見たシドは目を見開く。青年はダンだった。「あ! 兄さん! 久しぶり!」女性は笑顔で手を振り、ダンはシドの姿に気付いた。「あ……あんたは……!」「え? 兄さん。この人を知っているの?」「「兄さん??」」サーシャの言葉に、シドとポリーが反応する。「あ、あぁ。ちょっとした知り合いなんだ」ダンはバツが悪そうに返事をした。「何だ、そうだったのね。初めまして、私はジェニファーの妹のサーシャと申します。どうぞよろしくお願いいたします」サーシャはシドとポリーに挨拶した。「初めまして、私はジェニファー様の専属メイドのポリーです」「俺はニコラス様の専属騎士、シドです」「まぁ! あなた方がポリーさんと、シドさんですか? ジェニファーから手紙で伺っています。いつも姉がお世話になっております」笑顔を向けるサーシャを見て、シドは思った。(この女性‥…ジェニファー様に良く似ている……) **** 教会の控室にはウェ
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