美穂の目には、どこか淡い揶揄の光が浮かんでいた。――やはり峯は、あの菅原家のお嬢さんをまだ諦めていない。その時、ちょうど篠がこちらを振り返り、ぱっと目を輝かせた。「美穂、偶然ね!」そう言って、彼女はためらいもなく峯を押しのけ、軽やかに歩み寄ってきた。峯は困ったようにため息をつきながら、その後ろに従うしかなかった。人が増えるとカウンター席は落ち着かない。そこで将裕が二階のボックス席を取ってくれた。腰を下ろした途端、音楽のテンポが一気に上がる。篠は明らかに遊び慣れしたタイプで、すぐさま興奮気味に峯の手を引いた。「行こう、踊りましょ!」峯は拒む間もなく、彼女に引っ張られてダンスエリアへ消えていった。若者のエネルギーは果てしない。人生と結婚にすり減らされた美穂には、彼らがあまりにも眩しく見えた。篠を見つめるその瞳に、かすかな羨望が滲む。「一緒に行こうか?」将裕が顎を上げてダンスエリアを示した。美穂は柔らかなソファに体を預け、白いシャツの襟元を少し緩めた。細い首筋が、灯りの下で白く浮かぶ。こめかみを揉みながら、彼女は軽く笑った。「勘弁して。三晩徹夜続きで、骨がバラバラになりそうなの」将裕は理解したように肩をすくめ、ウェイターに合図を送った。「水村社長にはノンアルで。アイスはたっぷり」そして振り返りざま、軽く笑って言った。「ちゃんと休めよ。元気になったらまた一緒に」カラフルなライトが舞う中、美穂はソファに背を預けてぼんやりとフロアを見渡した。……ふと、その視線が止まる。少し離れたボックス席に、和彦と美羽の姿があった。隣のソファには、鳴海と翔太もいる。――偶然というには、あまりにも因縁めいている。このバーは京市でも名の知れた店で、以前の乗馬クラブと同じ経営者の手によるものだ。それに、二階は会員限定フロア。まさか気まぐれで出かけた今夜、また彼らに出くわすとは思いもしなかった。幸い、彼らはこちらに気づいていないようだ。美穂はそっと身を引き、陰の方へと身を沈めた。和彦の視線がふと二階をかすめた瞬間、彼女は思わず息を止めた。冷たいまなざしが通り過ぎると、ようやく手元のドリンクを取り上げて、ストローでアイスを無意識に突いた。――対面のボックス席。鳴海が突然、テーブルのボトルを掴み
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