美穂は唇を引き結び、水を一杯注いで彼の正面に腰を下ろした。峯は静雄から送られてきた写真を開き、スマホを彼女へ差し出した。「自分の目で見ろ。最近撮られたもの。後ろ姿がそっくりなんだ」画面には、背を丸めた老人が杖をつき、数名の制服姿の者たちに囲まれて白い実験棟へと歩いていく姿が映っていた。一見するとボディガードのようだが、その腰には明らかに銃が携えられている。そのうちの一枚では、外側を固めていたボディガードが突然振り返り、まっすぐカメラの方を睨んでいた。「違うわ」美穂は写真を一瞥し、断言するように言った。「彼は自由が好きで、遊び心のあるおじいちゃんよ。こんな――」一瞬、言葉を止めてから続けた。「武装した人間に囲まれるようなタイプじゃない」背景が京市大学のコンピュータ学部の実験棟であることに気づいた。記憶の中の外祖父は、釣りや登山が好きで、いつも生き生きとしていたただの老人だった。峯は両腕を後ろで組み、頭の後ろに枕のように当てて、ゆったりと背もたれに沈み込んだ。「本当にそう言い切れるのか?」「うん」美穂は頷き、珍しく真剣な表情を見せた。「外祖父がもしそんなに大きな力を持っていたなら、外祖母を港市にひとり残して、孤独に死なせるようなことは絶対にしない」「でも、彼が行方不明になったとき、お前はまだ小さかっただろう」峯が眉を上げて言った。「人は変わるものだ。お前の記憶の中のままだって、言い切れるのか?」「変わらない」美穂の声は静かで、それでいて確固たる響きを持っている。「彼は外祖母を、そして母を心から愛していた」そうでなければ説明がつかない。これほどの力を持っていながら、家が困窮したときになぜ一度も姿を見せなかったのか――峯は少し考え込み、頷いた。「……分かった。好きにしろ。それよりもうひとつ、柳本家の姉弟が動いたらしい。知ってるか?」「うん」美穂は静かに答えた。「和彦の交通事故は、彼らが仕掛けたものよ」「はあっ?」峯は目を丸くし、信じられないというように声を上げた。「柳本家のやつら、そんな度胸があったのか?」美穂は逆に問い返した。「ところでその情報、どこから?陸川家ですら詳細を掴めていないのに」峯は鼻で笑った。「柳本夫人と柳本社長が口論してるのを悠生が聞いたんだ。それを柚月が教えてくれた。まったく、お
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