All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 221 - Chapter 230

テック業界では、技術がものを言う。真衣には九空テクノロジーを成功させ、さらに大きく発展させれる自信がある。エレトンテックがどれほど規模が大きくても、真衣の眼中にはない。安浩には見える。今の真衣のまなざしに、ぎらぎらとした野心が宿っているのを。真衣は、もうすぐ離婚する礼央のことなどまったく意に介していないし、萌寧のことも眼中にない。「いいね」安浩は口元を緩め、目に称賛の色を浮かべた。「じゃあ一緒に潰そう」この瞬間、安浩ははっきりと感じることができた――かつての真衣が戻ってきたのだ。とはいえ、もし礼央が萌寧のためにわざと九空テクノロジーに報復するつもりで会社を立ち上げたのだとしたら、今の九空テクノロジーでは確かに太刀打ちできない。業界におけるワールドフラックスと礼央の地位は、まさに名を聞いただけで恐れられる存在だ。ワールドフラックスの本社にはすでに優秀な人材が揃っており、業界内でも確固たる地位を築いている。多くの場合、ワールドフラックスを避けて通ることはできない。政府の情報でも市場の情報でも、ワールドフラックスは常に抜け目なく一歩リードしている。政界における高瀬家の地位も、伊達ではない。安浩は思わず呟いた。「礼央さんは本当に最低な野郎だ」公私ともに愛人の萌寧をちやほやして、妻の真衣には常に敵対するような態度を取っている。真衣を追い詰めて、愛人の地位を正当化するためか？真衣は静かに微笑み、首を振った。「あの時の私は盲目だったからね」礼央は名門の家に生まれ、幼い頃から利益がすべての世界で駆け引きをしてきた。礼央の体を流れる血は冷たく、情というものがまるで感じられない。上流社会では、人情は死を意味する。ただ誰もが人間の皮を被り、狡猾に振る舞い、体裁を繕っている。今の地位を手にするまで、誰もが数え切れない犠牲を踏み越えてきたはず。礼央はすでにあのような利益がものを言う世界で覇者となっている。だからこそ、礼央がどれほど冷酷であるかは想像に難くない。もし礼央が誰かを愛していなければ、礼央はその人に対して徹底的に冷酷になれる。血も涙もなく、痛みを感じさせないほど残酷に。真衣はその典型的で分かりやすい例だ。真衣はそれを身をもって痛感した。-二日後。真衣は用事で法務局に行った。

あっという間に。エレトンテックの設立式典が行われる日がやってきた。安浩と真衣のは簡単に身支度を整え、車で航空大学校へ向かった。今回のエレトンテックの設立には、広告にもお金をかけて、業界のプロたちもたくさん招いて、しっかり話題作りをしている。現場には、カメラを構えた経済紙関係の報道陣や記者たちまで来ている。ワールドフラックスが新しい子会社を設立するというニュースは、すでに広く知れ渡っている。航空大学校には、業界内の半分以上の企業の代表者が来ている。安浩は車を降りると、業界で活躍する仲間たちと簡単な挨拶を交わし、真衣はそばに立ち、彼らの談笑を見守っていた。普段、真衣は人の会話には口を挟まない。特にこういう場は、安浩の方がずっと慣れているからだ。安浩も真衣を気遣い、こういう場では基本的に真衣に何かさせることはない。「こちらの方は？」唐島（からしま）社長が真衣を見ると、目を幾分か輝かせた。実は唐島社長は最初から真衣に気づいていたのだ。タイミングを見計らって、今になってようやく口を開いたのだ。真衣は落ち着いた様子で自己紹介し、型通りの笑顔を浮かべた。唐島社長は少し考え込みながら頷いた。「寺原さんの名前は聞いたことがあるようだ。九空テクノロジーで近々完成予定のプロジェクトは全て寺原さんが主導しているだとか。九空テクノロジーは本当に豊富な人材が揃っているなあ」真衣は素人には見えない。安浩が頷いた。「その通りです。真衣は今や我が九空テクノロジーを代表する技術者です」安浩が褒める人物なら、まず間違いない。第五一一研究所は国の重要な機関で、安浩はその中でも特に重要な研究者なのだ。安浩の言葉を、唐島社長は信じないわけがない。唐島社長は軽く眼鏡を押し上げながら真衣を見た。「寺原さん、専門的な技術問題について少し聞きたいことがあるけど、良いかな？」唐島社長は礼儀正しく真衣に尋ねた。真衣はにっこり笑った。「もちろんです」ちょうどその時、高史が外から入ってきて、真衣たちの会話を耳にした。唐島社長は航空分野におけるベテラン技術者なのに、どうして真衣に質問する必要があるのだろう？高史は鼻で笑った。真衣は誰が来ても拒まないし、間違ったことを言って人に影響を与えるのも全然気にしない。唐島社長もただ

礼央は一瞬立ち止まったが、萌寧を拒否することはなかった。ただ、会場に用意されていたハサミは一つだけだ。礼央は萌寧の横に並んで一緒にテープの前に立ち、俯きながら萌寧の手を握り、共にテープカットを行った。壇下の記者たちはこの瞬間をカメラに収めた。実は、一つのハサミで一緒にテープカットをするのは、珍しいことではない。多くのパートナーシップの締結や会社の開業の場面でも、よく使われる形式だ。だが、礼央と萌寧が並んで立っていると絵になるので、どこか空気にほのかな色気というか、微妙な親密さが漂ってるように見える。会場いる人々の表情も微妙に変化している。誰もがわかっていながら、しかし口には出さない。人々はひそひそ話をし出した。「高瀬社長は奥様を本当に愛してらっしゃるわね」「外山さんと高瀬社長は確かに業界の模範とも言える存在だね。夫婦揃ってこれほど優秀だとは」会話に出てきた言葉すべてが、一言も漏れずに真衣の耳に染み込んでいった。真衣は淡々とした表情で、下を向いてメモを取っている。記者による質疑応答の時間が訪れた。記者がマイクを手にして質問した。「この会社は高瀬夫人のために作られたと聞いていますが、高瀬社長と奥さまはご結婚されて何年も経っていて、しかも双子の子供がいるという話もありますが、これは本当でしょうか？」「しかし、高瀬夫人が誰なのかは、いまだに謎のままです。高瀬社長、お聞きしますが、外山さんがそのお相手だということなのでしょうか……？」質問内容は仕事の話題からプライベートの話題へと移っていく。萌寧は笑顔を保ちつつ、礼央の方をチラッと見た。自分もまた、礼央がどう答えるのか少なからず期待している。礼央と寺原さんはもうすぐ離婚する。離婚するタイミングはいつでも良いのに、礼央はよりによって自分が帰国した後を選んだ。これは何を意味するのだろう？萌寧は心の中ではっきりと理解している。何より、自分と礼央との間には翔太がいる。翔太は自分の実の息子で、そして礼央は翔太の父親なのだ。その質問を聞いて。礼央の瞳は静かに澄んでいて、薄く笑みを浮かべながら言った。「仕事の場ですので、プライベートには触れません。妻も恥ずかしがり屋なので、それ以上はご勘弁ください」「お～」会場にいた人たちはすぐにどっとざ

萌寧は加賀美先生を見つめ、微笑みを浮かべながら、落ち着いて堂々としている。萌寧の態度は、謙遜し過ぎず、かといって過度に高慢でもない。以前、礼央の紹介で加賀美先生に会いに行ったことがあったが、加賀美先生はいつもはっきりと萌寧のことを断っていた。後でよくよく調べてみると、加賀美先生が以前弟子として受け入れた女子学生が、結婚のために途中で研究を放棄したことが原因だった。そのことで加賀美先生はひどく腹が立ち、おそらくそのような前例があったため、今ではすべての女学生に対して悪い偏見を持っているようだ。そのため、加賀美先生が今弟子を受け入れたくないのも理解できるし、萌寧も無理強いするつもりはない。ただ、萌寧は国内で学位を取得する必要がある。修士論文や博士論文には、やはり国内の専門家の指導が必要で、そうすることでより良いものになる。また、それは萌寧が海外でも国内でも通用することを証明し、より一層自身の権威性を示すこともできる。加賀美先生は静かな表情で真衣を見つめていたが、口は開かなかった。年月が加賀美先生の顔に刻んだ跡が、その瞳に自然な威厳を漂わせていた。萌寧は軽く唇を噛んだ。「加賀美先生……」「お話しにならないのは、何かご懸念があるからですか？」「確かに私は海外から帰国したばかりですが、現地でさらに勉強を続けたいわけではありません。なぜなら、海外で学んだすべての先進技術を持ち帰り、祖国の発展に貢献したいと思っているからです」「私はずっと祖国のことを心にかけていたのです」加賀美先生はその時、優しげな笑みを浮かべた。「結構なことだ。若者は大志を抱いているから、祖国の未来にも希望が持てる」「だが――私には君の論文を指導する余力はない。他の人にあたってくれ」加賀美先生は淡々と隣にいる礼央を見て、軽く笑いながら言った。「君には高瀬社長のような後ろ盾がある。これから何でもできる。会社もすでに設立されたから、きっと成功するだろう」加賀美先生の言葉は穏やかだった。しかし、誰が聞いても、それには裏の意味があるとわかる。要するに、萌寧は他人の力で会社を設立したのであって、自分自身の力だけでは何にもできないということを露呈している。萌寧はふと動きを止め、唇がわずかに動いたが、結局何も言わずに言葉を飲み込んだ。

萌寧は視線を加賀美先生の方に向けた。確かに、加賀美先生が真衣を見る目には嫌悪と軽蔑に満ちている。萌寧は薄く口元を引き上げて微笑み、静かに言った。「波に揉まれて残るのは本物だけ。テック業界では、実力がなければ生き残れない。たとえアシスタントであっても、相応の力が求められるわ」萌寧は腕を組み、冷めたい視線を戻した。「寺原さんは、九空テクノロジーにはそう長くはいられないでしょうね」高史は心底から真衣を見下している。あんなに美しい容姿を持ちながら、その内側は汚らわしい打算ばかり。「以前はこんなに向上心があるようには見えなかったのに」高史は萌寧を見ながら分析するように言った。「君が帰国してからだよ。君が仕事で成功して、どんどん輝いていくのを見て、真衣もようやく自分のキャリアを意識し始めたんだ。でも結局、君には敵わないとわかって、礼央に当たり散らすようになったんだろう」高史は見下すように鼻で笑った。「真衣は離婚を本当に切り出されるとは思わなかったんだろう。今は呆然としているに違いない。身の程知らずにもほどがある」「離婚が正式に完了したら、本当にそれでも離婚するのか、それとも泣きわめいて礼央にすがりつくのか、見ものだな」萌寧はそれを聞き、薄ら笑いを浮かべた。真衣が自分と比べようとしても無理な話ね。自分たちは異次元の存在だから、そもそも比較にならない。萌寧はそばにいる礼央を一瞥した。礼央はうつむいてスマホを見ていて、何か仕事関係のことをしているようだ。萌寧と高史の会話を聞いていたのかどうかも分からない。だが、礼央は元々真衣の話題には興味を示さない。萌寧は髪をかき上げながら、思いやりがあるような口調で言った。「まあ、女性だって夢を持つのは悪いことじゃないと思うの。でもね、夢が大きすぎると、それはもう夢じゃなくて、ただの妄想になるのよ」萌寧は微笑みながら、礼央を見て言った。「実は女性はそれぞれに得意分野があると思うの。仕事でバリバリ活躍する人もいれば、一家の柱として家庭を支えている人もいる。私は時々、寺原さんのことをちょっと羨ましく思うの。家事とか何でもそつなくこなせるのはすごいことだからね」「私なんてまるで男みたいで、こういうのは全然わからないの。だから将来結婚しても、旦那さんに嫌がられそうだなって思ってるの」