All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 301 - Chapter 310

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第301話

宗一郎は軽く頷くと、すぐに頭を上げて真衣たちの方を見た。「先に色々と遊んだり食べたりしていて。すぐ戻るから」宗一郎の去っていく後ろ姿を見送りながら、沙夜は感心したように頭を横に振った。「ほら見て、これぞハイスペック男子って感じよ。顔はイケてるし、背も高くて体格もいい。人付き合いもうまいし、何より女の子に気配りができるのがポイント高いよね」真衣は沙夜を見て言った。「もし山口社長のことが好きなら、狙っていくね」「??」沙夜はすぐに目を丸くした。「ねえ、あんたバカ?山口社長があんたが好きなのは、誰かが見ても明らかなことわよ。なのに私に山口社長を狙えって?私を笑い物にでもしたいわけ?」「私も安浩さんも分かってるのよ。山口社長がただおもてなしのつもりなら、アシスタントに任せて適当に予定を組ませれば済む話でしょ?なのに、この数日間ずっと自分たちに付き合ってくれてるんだよ?これは普通じゃないって。あと、特にあんたのプライベートのことについても気にしていたじゃない」沙夜は苛立ちを隠さずに言った。「なんでこういうときに限ってそんなに鈍感なの?いい男に出会った途端、まるで脳が機能停止するかのようになるの?」「……」真衣は無言になってしまった。真衣は直近で起きた出来事を頭の中で整理した。確かに、思い当たる節はいくつかあった。とはいえ、自分もいくらなんでも人としてここまでは自惚れていない――自分と山口社長は仕事上の付き合いだけで、プライベートでの交流はほとんどない。恋愛関係に発展するほどでもない。真衣は落ち着いて返した。「そういうことは軽々しく言うもんじゃないよ。人の評判を傷つけないで」「……」沙夜はフンと不服そうに鼻を鳴らした。「まあ見てて。後で山口社長があんたに告白してきた時にびっくりなんてしないでね」安浩は失笑した。「沙夜は君が大会で緊張しないように、気分転換をさせたかったんだよ」真衣は安堵のため息をついた。「でも、沙夜の言ってたことも少しは的を射ているかもしれないね……」「……」真衣がまた黙り込んでしまった。真衣はくるりと向きを変え、その場を離れて別の場所へ歩いて行った。ちょっとしたパーティーではあるが、用意されているものはどれも丁寧で上品だ。フルーツの盛り合わせやケーキもたくさん並べられている
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第302話

あちこちで話し声が絶えず響いている。みんなが高瀬夫人へ羨望の眼差しを向けている。礼央が現れると、多くの人が彼を取り囲んだ。礼央はどこに行っても常に注目の的になるのだ。萌寧は人混みの中でふと視線を移すと、真衣が近くにいるのを見つけた。萌寧は口元を歪め、みんなが見ている中で、真衣の方へ歩み寄った。萌寧は真衣の前に立ち、グラスを軽く揺らしながら静かに言った。「気にしないよね?」意味不明だわ。真衣は淡々と萌寧を見つめた。萌寧は口元を歪めて言った。「もう離婚したんだから、私が高瀬夫人って呼ばれても文句ないでしょ?」真衣は眉を吊り上げ、萌寧がただ露骨に自慢しているのだとすぐにわかった。礼央が納得してるんだから、自分も文句などあるはずがない。「私が要らないものをあなたが拾っていったくせに、元の持ち主に自慢しているの?」安浩と沙夜は真衣のそばに立ちながら、話を聞いて堂々と笑っている。真衣は鋭い視線で萌寧を見つめている。萌寧は冷ややかな笑い声を漏らし、背筋を伸ばして満ちあふれる高慢さを体全体で表している。萌寧は赤ワインを一口含み、「あなたが捨てたんじゃないでしょ?あなたが礼央に捨てられたんでしょ?気取るのもいい加減にしなよ。前まで気づかなかったけど、あなたって本当に事実を捻じ曲げるのが上手だね」心の中ではもう気にして仕方ないくせに、表面上は平然と装っている。こういうタイプ、よくいるわ。萌寧は続けた。「今更後悔しても、もう遅いのよ」そう言うと、萌寧はハイヒールを鳴らしてその場から去っていった。沙夜は驚いた。「ちょっとやばいわ!」あの女、どんな思考回路してんの!安浩は額に手を当て、眉間を揉んだ。「外山さんがあの自信と高慢さをこの先も持ち続けることを願うよ」真衣は傲慢に歩き去る萌寧の後ろ姿を見つめ、かすかに唇を引き結んだ。その瞳には複雑な感情が浮かんでいた。真衣は何も言わず、振り返って席を見つけようとした。ちょうど真衣が振り返った瞬間、グラスに入った赤ワインを運ぶスタッフとぶつかった。ぶつかった瞬間、グラスが床に落ちて割れる鋭い音が響き、会場中の注目を集めた。真衣はバランスを崩し、後ろに倒れそうになった。次の瞬間、力強い大きな手が真衣の腰を抱き寄せ、鼻先には見知らぬ香りがふわりと
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第303話

「いえいえ、とんでもないです。こちらこそ、山口さんが助けていなければ、今頃派手に転んで病院行きになっていたかもしれませんので」宗一郎は穏やかな表情を浮かべ、目の色を少し深めながら言った。「私が聞きたいのは、彼らが私たちの関係を誤解していることが、あなたにとって迷惑になっていないかということだ」真衣はふと固まった。宗一郎の言葉の真意が理解できなかった。宗一郎は真衣の困惑している様子を見て、軽く笑った。「まあ気にしないで、とりあえず大会に集中しよう」真衣もその言葉の意味を深く考えようとはしなかった。宗一郎が真衣を助けたのも、たまたまにすぎない。「山口社長」萌寧が礼央と一緒に近づいてきて、真衣をちらりと見た。「素敵なパートナーを見つけられたようですね?」宗一郎の瞳の色がさらに深まった。「外山さん、軽々しくそんなことを言わない方がいいよ」本人の了承もなく、先回りして関係を既成事実のように扱うのは、礼儀を欠いた行動だ。萌寧が言った。「もし山口社長に本当にそのつもりがあれば、よく目を見開いて相手を見極めた方がいいと思います。変な噂でも立ったら印象も悪くなりますし。何より、男女の節度というものがありますから」萌寧の発言はどこか真衣を狙い撃ちにしていて、あたかも真衣がろくでもない人間であるかのような含みがあった。宗一郎はそばにいる礼央をさりげなく一瞥した。「それなら、私はきっと高瀬社長より良い目を持っているはずだ」礼央は淡々と宗一郎を見やり、口元に含みのある笑みを浮かべた。「そうか?」「寺原さんは確かに優秀な女性で、人の目を引く存在だ」宗一郎は柔らかな表情で、落ち着いた態度で萌寧に一瞥を投げながら言った。「寺原さんと仕事をしてみて、その独特な魅力に惹かれたのは確かだよ」「私も未婚で、寺原さんも未婚なら、何にも問題はないだろう?」真衣は胸がギュッと締め付けられるのを感じながら、慌てて宗一郎を見上げた。宗一郎の眼差しは落ち着いた優しさに満ちていて、まるで世界のすべてを包み込むかのようだ。先ほどの宗一郎の言葉は、真衣への告白も同然だった。萌寧の表情がこわばる。山口社長は本当に真衣に気があるのかな?であればあまりにも見る目がなさすぎるわ。萌寧は思わず真衣のことを二度見した。この女はいったいどんな魔法を使
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第304話

ホテルに戻るまでの間。宗一郎のあの言葉が、ずっと真衣の耳元にこだましている。パーティーでは、宗一郎は九空テクノロジーのために多くの人脈を紹介してくれた。沙夜は真衣と並んで歩きながら、自分の肩を軽く真衣にぶつけた。「びっくりした?だから言ったでしょ」真衣は我に返り、首を振った。「いや、そこまでびっくりもしなかったよ」ただ、こんなことが突然起こるとは思ってもいなかった。これまでの一つ一つの出来事を思い返すと、自分と山口社長の間にはそこまで接点は多くなかった。山口社長の不意の告白は、自分に恥をかかせないように場を作り、顔を立ててあげようとしているようにも見えた。何しろ、あの時、萌寧が自分たちの目の前で得意げに振る舞っていたから。だけどその後も、山口社長は自分がした告白を取り消さなかった。「ただ、山口社長の告白がちょっと急すぎて……」沙夜が言った。「一目惚れだってあるじゃない?私たちはとっくに気づいていたけど、あんたは気づかなかったから、そりゃ急すぎたって感じるのも無理ないわね」「でも山口社長も言ってたでしょ?あんたはプレッシャーを感じなくていいって。山口社長があんたを好きなのは彼のことで、あんたが受け入れなくても、彼の気持ちは変わらないんだから」沙夜は目を輝かせて続けた。「山口社長のこういうところ、本当に男前すぎるよね。さっと助け舟を出してくれるし、頼りがいもあるし。これが年上の成熟した男性の魅力なのかな?」地位のある人は、恋愛や感情に関しては一層慎重に選び取る傾向がある。心の中で確信を持って、初めて口にするのだ。温泉に入っているとき、宗一郎は真衣の恋愛事情に特に関心を示し、真衣が独身かどうかを探り、離婚していると知ってもなお、自分の気持ちをはっきりと伝えた。これは、宗一郎が真衣の過去の婚姻歴を気にしていないことを示している。安浩は片手をポケットに入れ、眉をひそめている真衣を見て言った。「もう時間も遅いし、あまり考えすぎないで。明日はコンテストもあるし」沙夜も頷いた。「そうそう、明日は大事なコンテストがあるんだから、そっちに集中しないとね」真衣は自分の部屋に戻ると、この件については特にその後考え続けることはなかった。ただの一時的な出来事として、真衣は受け流すことにした。真衣は翌朝までぐっす
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第305話

各データ項目も見事に整理されていて、提案もかなり洗練されており、そのまま実行可能なほど完成度が高い。それに加えて、数々の革新的な試みも取り入れられている。萌寧のチームと比べれば、雲泥の差があると言わざるを得ない。萌寧の表情が一瞬で曇った。24時間という制限時間で、どうしてここまで完璧にできるんだろう?高史の表情も強張った。このままでは一位の座を逃すことになる――普通に考えたら、ノースアイがこんなにすごいはずがない……萌寧の胸に不安がよぎった。もしかして……ソフィアがまだノースアイにいるとか?そうでなければ、こんなことは絶対にあり得ない。しかし、そのような噂は聞いていない。萌寧の表情は終始険しいままだった。江村に「この国のために、必ず国際宇宙設計大会で優勝し、世界大会に出場する」と豪語したばかりなのに。あっという間に、一位の座が消えようとしている。ノースアイはプレゼンテーションのトリを務める。すべてのチームのパフォーマンスを総合的に評価するためだ。司会者が間もなく、リストを手に持ってステージに上がる。「それでは、皆様お待ちかねの瞬間です。各チームの順位を発表いたします!」司会者がそう言い終わると、会場からは盛大な拍手が沸きおこった。礼央は椅子の背にもたれ、冷静でのんびりとした様子でおり、表情はいつも通り穏やかだ。「礼央、お前は順位が気にならないのか?」高史が聞いた。「萌寧は本来一位を取れるはずだった」礼央はステージから淡々と視線を外した。「この程度のものなら、勝っても負けても何も変わらない」萌寧は眉をひそめ、礼央の言外の意味を理解した。エレトンテックには、後ろ盾としてワールドフラックスがついているから、この大会の結果で会社の地位がぐらつくことはない。むしろ、小さな会社や小規模なチームのほうが、この大会の成果をより重視する。だが、やはり萌寧の心には引っかかるものがある。本来なら萌寧のチームが一位を獲るはずだったからだ。それが不可解にも横取りされた。きっと何かおかしな点があるに違いない。司会者は下位から順に、1位に向かって発表していった。萌寧のチームは2位。全ての評価項目と点数もスクリーンに表示された。そして。「1位は、ノースアイです!」司会者の声が鋭く萌寧の耳に届
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第306話

司会者が各チームの結果を発表した後、表彰式が始まった。萌寧は止めようとはしなかった。こういった大規模な大会でその場で反論すれば、主催者の顔を潰すことになる。それほど愚かなことは萌寧もしない。結果が発表された以上、萌寧はもう2位という順位にこだわる必要はなく、公の場で主催者の顔をつぶす必要もない。しかし、萌寧は心の中ではまだ納得がいっていない。どの項目の点数も高く、満点に近い。項目によっては、満点のものさえもある。誰かが裏で操作したのでなければ、萌寧はこの点数を信じられなかった。例え誰も裏で手を回していなくても、萌寧はこの点数をつけた人が誰なのかを知りたかった。会場の人々が考えていることと、萌寧が考えていることは一点だけ一致していた。それは、ノースアイのあの大物に直接会いたいということだ。萌寧の言葉を聞いて。礼央はゆっくりと顔を萌寧の方に向け、彼女を一瞥した。萌寧は言った。「この大会の主催者とノースアイのメンバーに会いたい」「この結果には大きな疑問が残る。実情を確かめなければ、私は眠れないわ」高史が口を開いた。「驚いたよ。24時間以内にこれほど完璧なデータを作れるとは。うちの会社では1週間かけてもここまできれいには作り出せない」これこそが萌寧が納得できない点だった。萌寧は本来この分野で高く評価されている実力者なのに、大会では思いもよらず大差をつけられてしまった。萌寧の心の中に疑問が湧くのも当然だった。この分野で多くの優秀な人材を見てきたが、ここまでできる人はいなかった。理論上できなくはないが、実際にやるとなると話は全く違ってくる。ノースアイに本当に大物が隠れているのであれが、萌寧もその人物に一度会ってみたいと思っている。礼央はそばに立っている湊に声をひそめていくつか指示をした。決勝戦で1位を取ったチームは、アジア地区の決勝戦に進出できる。3位までのチームがアジア地区の準決勝に進出することができる。もしこの結果が本当なら、萌寧は必ずやその人物に会って、準決勝で勝つつもりでいる。コンテストが終わり、会場は解散となった。バックステージで、沙夜は真衣を抱きしめていた。「言った通りでしょ。あんたならできると信じてたわ」「会場での外山さんの顔、見てないでしょ?一瞬で固まってたよ」沙夜が
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第307話

「ただ見た目だけで得してきて、どこでもコネを使えると思っているんでしょ。あなたの表情からすると、さぞかしコンテストで落とされたに違いないわ」萌寧はびっくりした。萌寧は真衣を見つめ、礼儀正しい笑みを浮かべて尋ねた。「寺原さん、さっき発表されたランキングと、大きなスクリーンに映っていた評価項目ごとの点数については理解できた?」萌寧は親切で言った。「今日に至るまで、あなたの覚悟を私は見てきたわ。本気でこの業界で生き残りたいのね。もし理解できないことがあれば、これまでの付き合いもあることだし、私に聞いてもいいよ。エレトンテックで私のアシスタントになれば、なんでも教えるわよ」萌寧は高慢な態度で、まるで先輩が新人に指導するかのような様子だった。萌寧が大会で2位の成績を獲得したことは、すでに業界内に広まっていた。萌寧に教えを請いたい人も多く出てきている。真衣だけは特別に受け入れてもいいと萌寧が思っている。真衣は萌寧をじっと見つめ、冷たい瞳で突然嘲笑った。「実力よりも顔の厚かましさの方が目立っているね」萌寧は聞きながら、表情を変えずに、ただ口元に淡い笑みを浮かべた。「寺原さんが私を見下しているのは、私が女性だからっていうことはわかっているわ」「私の記憶力ったら、本当に困るわ。すっかり忘れてたけど、あなたは山口社長か常陸社長に教えてもらえばいいのよ。彼らは業界で名の知れた存在だから、男たちは喜んであなたのために動いてくれるわよ」「ただ、一つだけ忠告しておくわ。容姿はすぐに老いてしまうから、あなたがその顔で得ている恩恵はそう長く続かないわ。今どれだけ高く登っても、あとで落ちるときはその分だけ痛いものになるのよ。私が忠告しなかったなんて言わないでね」真衣は冷静な表情を保ち、萌寧の言葉には特に動じなかった。真衣は礼央を淡々と見て、嘲るように口元を歪めた。礼央が好きなのはこういう独善的な女なのね。胸は大きいけど頭は空っぽな女。傲慢がすぎるわ。「その言葉、そのままお返しするわ」そう言い残すと、真衣はその場から去っていった。高史は真衣の後ろ姿を見ながら、思わず笑った。「見たか?明らかに図星だったな」「萌寧がこの大会で2位を取って、真衣は落とされた。勝てないと悟ったんだ」萌寧は眉をひそめて言った。「もういいわ、寺原さん
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第308話

いや、こんなのありえない。萌寧はすぐにその考えを否定した。真衣は萌寧たちが近づいてくるのを見て、表情を変えずに眉をひそめた。自分は電話を終えたばかりなのに、萌寧が駆け寄ってきた。これは……「ここで何をしているの?」萌寧は眉をひそめて聞いた。「ここはあなたが勝手に来ていい場所じゃないわ」真衣は萌寧たち一行が急いでこの部屋へ向かってくるのを見て、克己が何かを漏らしたのだろうと思った。萌寧たちは誰かを探しに来たのだ。真衣は表情を変えずに、無言でその場を離れようとした。萌寧はすぐに真衣を呼び止めた。「ちょっと待って。いつからこの部屋にいたの?ある男を見かけなかった?」萌寧は強い口調で問いかけ、声には切迫感があった。真衣は歩みを止めずに、「なぜあなたに答える必要があるの?」と言い放った。真衣はそう言い残すと、その場から離れていった。高史は軽く笑った。「まったく、ますます人を見下すようになりやがって。知らない人が見たら、よっぽどすごい偉業でも成し遂げたのかって勘違いしてしまうわ」萌寧は眉をひそめた。おそらく一歩遅かったのだろう。「礼央、何を見ているの?」萌寧は礼央を見て、何かを言おうとしたが、礼央の視線が遠くに向いていることに気づいた。礼央は「どうした?」と返事した。萌寧は言った。「もう一度久本さんに会って、ソフィアの外見について聞きたいわ」姿を見せない謎めいた人物に、萌寧もさすがにどんな人か気になって、一度会ってみたいと思っている。このような大きな大会でしか会う機会はなく、この機会を逃せば、今後会う可能性はほとんどない。萌寧たちは再び克己の事務所に戻ったが、彼はすでに事務所にいなかった。「監視カメラを調べれば、あの人物が誰かわかるんじゃないの?」礼央がタバコに火をつけ、落ち着いた声で言った。「ここは新しくできた会場で、会場には監視カメラはすでに設置されているけど、ここにはまだ設置されていない」つまり、萌寧たちは監視カメラを調べることができない。萌寧は心の中で不満を抱きながらも、諦めるしかなかった。克己も萌寧に対して、データの妥当性を提示し、確かに不正行為はなかったことが証明された。萌寧の全ての疑問に対しても、克己は一つ一つ丁寧に答えた。-大会は無事終了した。真衣はホ
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第309話

山口社長……これは長い道のりになりそうですよ。-真衣は北城に戻ると、真っ先に千咲を迎えに行った。千咲は第五一一研究所から飛び出して、真衣の胸に飛び込んだ。「ママ!」真衣はさっと千咲を抱き上げた。「重くなったね、たった数日会わないうちに、こんなに大きくなったの?」成長期にある子供は、あっという間に大きくなる。毎月どんどん変わっていくものだ。千咲はにっこりして言った。「加賀美先生が毎日美味しいものを食べに連れて行ってくれたのよ。加賀美先生と一緒にいるのが好きなの」加賀美先生は部屋から出てきて、手を背中に組み、深い眼差しで真衣を見た。「今回の大会で1位を取ったそうだな、おめでとう」千咲は真衣の首に抱きついてキスをした。「ママすごい、1位だなんて」「ママが一番すごいって知ってたわ!」千咲は最近ずいぶん明るくなって、よく甘いことを言うようになった。真衣は千咲を下ろした。「そんなお世辞も言えるようになったなんて、誰に習ったの?」千咲は目を細めて、「お世辞じゃないよ、千咲の本心だもん」と言った。真衣は笑い、千咲が毎日健康で幸せに成長しているのを見て、心が温かくなった。すべてが、良い方向に向かっている。加賀美先生は真衣と第五一一研究所で進めているプロジェクトについて話し合った。真衣は家に帰ると、すぐにまた仕事に没頭し始めた。千咲は真衣の邪魔をしないようにと、一人でテレビを見ていた。真衣が仕事をしている時、千咲は邪魔したり騒いだりもしない。真衣がパソコンを開いてすぐ、慧美から電話を受けた。「真衣、明日は誕生日だね、何が食べたい?私が準備するわ」真衣はこの言葉を聞くと、思わず携帯を握る手に力を込めた。最近忙しすぎて、スケジュールを確認する暇もなかった。真衣はカレンダーを確認した。自分の誕生日は端午の節句の前日で、端午の節句の日は実家に戻る必要があった。礼央が深津市で真衣にすでに言ってあることだ。「お母さん、明日は北城にいないでしょ?私の誕生日のためにわざわざ戻ってこなくていいよ」慧美が、最近フライングテクノロジーのプロジェクトで出張続きなのは真衣も知っていた。激務に追われる中、年老いた慧美が真衣のおじである修司の世話までしているのだから、とても手が回る状況ではない。「それ
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第310話

翌日。真衣は、第五一一研究所で進めているプロジェクトに関わる書類を整理し終えると、千咲を幼稚園に送る準備をした。千咲は真衣の誕生日を覚えていた。朝早くに、千咲は手作りのバラの造花を一本真衣に贈った。真衣はこのサプライズに思わず笑ってしまった。バラの造花はとても繊細に作られていて、まるで本物のように生き生きしていた。「ありがとうね、千咲」真衣はバラの造花を受け取り、しゃがみこんで千咲の小さな顔を両手で包み、軽くキスした。「いつこんなに美しい花を作ってくれてたの?ママは全然気づかなかったわ」千咲は小さな手を背中に回し、体を揺らしながら言った。「ママへの誕生日プレゼントだよ。サプライズにしたかったから、見せられないでしょ」千咲は嬉しそうに笑った。「ネットで調べて、長い間勉強して、やっとこんな風に作れるようになったの。何回も失敗しちゃったけどね」千咲はそう言うと、真衣の手をギュッと握った。「ママ、最近お仕事でとっても大変そうだよね。だから、私も一生懸命勉強して、大きくなったらたくさんお金を稼いで、ママに使ってもらうの。そしたら、ママももうつらい思いをしなくてすむでしょ?」真衣が毎晩遅くまで働いている姿や仕事に忙殺される様子を、千咲はしっかりと見ていた。真衣は一瞬言葉に詰まり、千咲の言葉に思わず鼻の奥がツンとした。真衣は優しく千咲の頭を撫でながら穏やかに言った。「これはあなたが考えることじゃないわ。ママはもう十分にお金を稼げているの」千咲は目をパチパチしながら、少し理解できないような様子で聞いた。「もうたくさんお金を稼いでいるなら、どうして残業しているの?」千咲は真衣の仕事が本当に大変そうで、時々代わってあげたいと思っていた。結局、千咲は自分には何もできないと気づき、唯一できることは真衣の邪魔をしないことだった。この深い意図が込められた質問に、真衣も一瞬固まってしまった。真衣はしばらく考えてから答えた。「ママが心から愛している仕事だからよ。そのために忙しくなってもママはいいの」「千咲が数学が好きで、進んで自ら勉強するのと同じことよ」千咲はハッと悟ったように頷いた。千咲は納得した。-千咲を幼稚園に送った後。真衣は車で第五一一研究所に向かい、書類を抱えながら建物の中へ入っていった。
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