翔太はぱっと文彦の膝の上から飛び降りた。「曾おじいちゃん、今日は曾おじいちゃんの九十歳のお祝いに、僕から芸をプレゼントするよ!」「ほう?」文彦は目を細め、微笑を浮かべる。「では、うちの翔太がどんな芸を見せてくれるのか、楽しみにしておこうか」翔太はにこっと笑いながら言った。「詩の朗読を準備しました。曾おじいちゃんのこれからの毎日が、詩のように美しく楽しいものになりますように」たった数言の言葉で、文彦の顔は笑みでほころび、もう口元が閉じきらないほどだった。翔太は宴会場のステージにのぼり、マイクをしっかり握ると、感情を込めて一編の詩を朗読し始めた。朗読が終わると、会場には大きな拍手が鳴り響いた。客たちは口々に「さすがは高瀬家の坊ちゃん」と褒め称えた。「ありがとう」褒められた翔太の顔は、誇らしさに満ちていた。「翔太は本当に優秀だ。さすが高瀬家の男だな!」文彦は誇らしげに言いながら、萌寧へ目をやった。「やはり萌寧は子育てがうまい。翔太はお前と一緒にいて、どんどん成長している」その言葉の一つひとつが、暗に真衣を責める響きを帯びていた。真衣の精一杯の育て方が、まるで間違いであったかのように扱われていた。「やっぱり、息子と娘じゃ違うものね」友紀はちらりと真衣を見て言った。「息子はあんなに優秀なのに、娘のほうは何を用意してくれたのかしら?」千咲は、高瀬家ではもともと歓迎されていなかった。愛されることもなく、ただいるだけの存在だった。今、翔太の輝かしいパフォーマンスを前にして、誰もが彼の才を称賛するなか、千咲は比べられ、何の取り柄もないように見えてしまっていた。その時だった。千咲がすっと立ち上がって言った。「私も、曾おじいちゃんのために出し物を用意してきたの」真衣は思わず息を呑んだ。千咲が準備していたなんて。前世では、そんなそぶりすら見せなかった。いや、もしかすると、あのときも準備していたのに、誰にも言えずにいただけかもしれない。真衣は眉をひそめた。前世の自分は、娘に向けるべき目を、あまりにも持っていなかったのだ。友紀は薄笑いを浮かべ、千咲を一瞥して言った。「お兄ちゃんが準備したものを、あなたも真似するの?」そのまま真衣の方に顔を向け、淡々と言い放つ。「同じ出し物なら、翔太だけで十分よ。あれだけ立派に披露し
Read more