父の言葉に、深雲はしばし沈黙した。あの夜、景凪は個人でチームを率い、アウトソーシングの形で西都製薬と協力したいと申し出た。その時、深雲は表向きは承諾したものの、彼の心に長年澱のように溜まっていた不満と暗い感情は、とうに堰を切って溢れ出していたのだ。七年前、確かに景凪のおかげで、深雲は社長の座を固め、役員会に入り、グループ最年少の役員となった。だがそのせいで、どれだけ屈辱を味わったことか。陰では、誰もが囁き合っていた。あいつは実力がない、女の力でのし上がっただけだ、と。やっとのことで景凪が植物状態のまま五年が過ぎ、その歳月が過去を洗い流してくれた。今の雲天グループで景凪のかつての栄光を覚えている者はほとんどおらず、当然、彼が女のコネで出世した話を持ち出す者もいなくなった。だが今回、もし景凪が再び手柄を立て、西都製薬との契約更新を成し遂げでもしたら?過去の経緯が、また蒸し返されるのは目に見えている。深雲はそれを思うだけで、景凪に対し、得体の知れない怒りと、口にするのも憚られるほどの嫉妬を覚えた。彼は父である明岳に裏で連絡を取り、親子で相談した上で決めたのだ。一方で景凪をなだめつつ、裏では姿月を育て、彼女にリソースを集中させる、と。狙い通りになったはずだった。だが、離婚となると……深雲は一瞬、ためらった。「親父、景凪は……あいつは、辰希と清音の実の母親なんだ。もしあいつが、これから先、家でおとなしく夫を支え、子育てに専念するなら……」「くだらんことを言うな!」明岳は冷たく遮った。「あんな母親がいること自体、いずれ辰希の人生の汚点になる!」深雲「……」確かに、景凪の出自はあまりに低い。天才という肩書があろうと、自分たちの世界では、所詮は頭脳を切り売りする田舎の秀才にすぎない。食卓を共にする資格など、もとよりないのだ。「まあよい。穂坂の女の件は、この二、三日で急いで処理する必要はない。まずは西都製薬との契約更新を公表し、昨夜の騒動を鎮静化させろ。そして明日の夜、穂坂を連れて実家へ戻ってこい。見栄えのする服を着させておけ。こちらで記者を手配し、お前たちの夫婦円満ぶりを撮らせてやる」この一連の合わせ技で、世論は完全に覆り、深雲の「完璧な夫」というイメージも維持できるだろう。「わかった、親父」深雲は電話を切ると、立
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