タクシーのドアが重く閉まると、外の雨音がいっそう遠ざかった。室内は暖かく、窓の外では街の灯りが滑らかな帯となって流れていく。フロントガラスのワイパーが静かに動く音が、時折、車内の静けさに切れ目を入れた。美咲は深く息をつき、背もたれに身体を預ける。雨に濡れた髪が首筋に張りつき、ささやかな不快感とともに、妙な高揚が心の底に湧き上がる。窓ガラスには自分の横顔が淡く映っていた。街のネオンと重なり合うように、佐山の姿もぼんやりと重なる。ふたりだけの小さな密室。見えない何かが、じわじわと空気を占めていく。佐山の太腿が、思いがけず近くにあった。ドライバーの目を気にしながらも、二人の間の距離はごく自然な流れで縮まっている。ほんの少し膝が触れただけで、美咲の内側に小さな電流が走る。その感覚が、じわじわと太腿の奥にしみ込んでいくのを、美咲は誤魔化しきれない。「寒くないですか」佐山の声が柔らかく、少しだけ低く響いた。美咲は一瞬、何と答えるべきか迷い、咄嗟に微笑みだけを浮かべてみせる。佐山の目が一瞬だけ細くなり、唇の端にかすかな笑みが浮かぶ。「大丈夫よ。冷えているのは外だけ」そう応じた自分の声が、思いのほか落ち着いていることに、美咲自身が驚いた。内心では、指先が微かに震えていた。手のひらを膝の上にそっと置き、わざと落ち着いた仕草を心がける。けれど、そのすぐそばに佐山の手が伸びてくる。何気ない動作のはずなのに、その指先はしっとりと暖かく、美咲の肌の上をゆっくりと滑った。ほんの一瞬、手と手が重なった。お互いの体温が指先から伝わり、微かに滲む湿度の中で、心拍が跳ね上がる。美咲は「偶然」と自分に言い聞かせながらも、その温度を忘れることができなかった。佐山の指がさりげなく美咲の手の甲を撫で、またすぐに引く。その行為があまりにも自然で、かえって美咲の胸はざわめきを増すばかりだった。「雨、止みそうにないですね」「そうね。今夜はずっと降り続くみたい」何気ない会話が続く。でも、その言葉の裏側で、互いの体温と呼吸が交じり合う気配があった。美咲は意識的に窓の外に視線を向ける。窓ガラスには自分と佐山の顔がぼんやりと重なっていた。雨粒が光を反射し、ふたりの輪郭を曖昧に
Read more