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【38】時島の父親

Author: 猫宮乾
last update Last Updated: 2025-08-01 19:40:59

 翌日、目を覚ますと、不思議な事に、体も意識もすっきりとしていた。

 これまでの人生で、一番爽快な目覚めだった。

 昨日の事も、まるで全てが夢だったような感覚でいると、見慣れた私服姿で時島が入ってきた。

「帰ろう。出来たらその前に、父に会ってもらえないか?」

「分かった」

 すぐに俺は頷いた。時島は、来た時に着ていたの俺の私服を持っていた。どうやら洗濯してくれたらしい。受け取って着替えた。

 ――時島のお父さんは、自宅で看取るのだという。

 奥の座敷へと通されると、お父さんが横になっていて、傍らには和服姿の椿さんが座っていた。

「昴の伴侶か……」

 俺は、「いや、そう言うと語弊があります」と、言いかけて止めた。確かに俺は、蛇神様とやらの伴侶に選ばれたらしいが、その言い方では、俺と時島が配偶者みたいに聞こえる。日本には、同性の結婚制度は無い。

「昴は昔から悪戯ばかりしておったな……だが、悪い子ではないよ」

「父さん、一体いつの話を……」

 時島が辟易したような顔をすると、布団の中でお父さんが微笑した。ただ目の下には厚い隈があり、顔にも黄疸が出ていた。一目見て、先は長くないのだろうなと俺にも分かるほどだった。それでも普通に話をする時島を見ているのが、何となく辛かったが、俺もまた笑みを浮かべた方が良いような、そんな気がした。俺が心配してどうにかなる話ではない。それよりも、元気な時島の話をしようと思った。

「時島――……その、昴君は、いつも料理をしてくれたり、洗濯をしてくれたり、すごく良い奴です」

「左鳥、お前も何を言ってるんだ……」

「そりゃあもうお嫁さんに欲しいくらいです! きっと良い旦那様になりますよ!」

 これは本心である。時島は、几帳面に家事をするし、料理も美味い。

 時島は何せ家事が万能だ。勿論俺は家事能力ではなく、愛で配偶者は選びたいが。それこそ美人だったら文句なしだけれども。

「仲の睦ま

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