梨花は年齢のわりに落ち着いていて、性格も穏やかで、患者にも真摯に向き合う。ここ数年、彼女にお見合い話を持ち込む患者も少なくなかった。そのうち彼女は左手の薬指から結婚指輪を外さなくなり、ようやくそのような話を持ち込むおじさんおばさんたちも落ち着いたのだった。そんな智子のことも梨花はよく覚えていた。孫の結婚に悩ませる姿がなんとも微笑ましい。「智子さん、実は、私、離婚するんです......」「離婚しなさい!」智子はキッと顔を引き締め、驚くほどはっきりした声で言った。「さっきの電話、ぜんぶ聞こえてたわよ。わざとじゃないけど、ごめんなさいね。でもね、ばあちゃんが断言するわ。浮気する男なんて、絶対にダメ!離婚しなきゃ、あなた辛いことばっかり背負うことになるよ」「......うん」皺の刻まれたその手が自分の手を包み込んでくると、梨花はふと、記憶の底にある優しい温もりを思い出した。自然と声が和らぐ。「大丈夫です。もう手続き、進めてますから」そう言って、そっと智子の手首に指を当てる。「このところ、気分はだいぶ良くなってきましたか?」「ええ、すごくいいわよ。あなたの処方が本当に効くのよ」智子は手をひらひらさせながら、また話を戻した。「若いうちの離婚なんて、ぜんぜん怖がることないのよ」梨花は吹き出した。「もしかして、今度はお孫さんを紹介しようとしてます?」智子はむしろ真面目な顔で答えた。「なんで分かったの?」「でも私、バツイチですよ?本当にいいんですか?」「ぜんぜん問題ないわよ!」智子はきっぱりと言い切った。「離婚なんて、あなたのせいじゃないでしょう。バツイチだからって、何も恥じることはないの。うちの孫の方がむしろ性格悪くてね......口下手で、あなたに釣り合うかどうか心配よ」梨花はこらえきれずに笑ってしまった。「今回は薬、出しておきましょうか?」「お願い、3日分だけでいいわ。また来るから」智子はにこやかに微笑むと、小さな御守りを手渡してきた。「今朝、白鷺寺でいただいたものなの。持ってて。あなたにはきっと平穏と幸運が訪れるはずよ」智子が帰った後、入口の看護師がニヤニヤしながら冷やかしてきた。「梨花さん、あのおばあちゃん、薬をもらいに来たっていうより、完全にお嫁
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